縁起よく一年をスタート! ‟祝い酒”に最適なおめでたい日本酒5選。

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:小久保敦郎

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新しい年の始まりは、おせち料理にぴったりのおいしい日本酒で祝いたいもの。それも、「寿」「福」「開運」などおめでたい名前を冠したものを選べば、縁起よく1年のスタートを切れるはずです。そこで、バリエーション豊かにお薦めの5本をセレクト。ノーベル賞受賞晩餐会でも振舞われる銘柄から普段飲みにできる手頃なもの、日本酒を飲みなれない人も楽しめるアルコール度数低めのものまで……。お正月気分を盛り上げるラインアップでご紹介します。


1.「開運 祝酒 特別本醸造」――家に常備したい、コスパの高い特別本醸造。
2.「梵・夢は正夢」――世界のVIPから愛される、夢実現の祈願酒。
3.「福寿 純米吟醸」――ノーベル賞の舞台で振る舞われた、名誉ある銘柄。
4.「来福 純米吟醸生原酒 愛山」――花酵母で醸す蔵のフラッグシップ
5.「明鏡止水 純米酒 La vie en Rose」――グラスで飲みたい低アルコール酒。

「開運 祝酒 特別本醸造」――家に常備しておきたい、コスパの高い特別本醸造。

「開運 祝酒 特別本醸造」。原料米は麹に山田錦、掛米にはえぬきを使用。精米歩合60%。酵母は静岡酵母を使い、アルコール度数15度以上16度未満。1.8L¥2,057(税込)/土井酒造場 TEL:0537-74-2006

縁起物の熊手を描いた華やかなラベルに「開運」そして「祝酒」の文字。このおめでたさ満載の酒は、ハレの日の一本に選ばれるべく特別に企画されたわけではありません。醸造元の土井酒造場は明治5年に創業。その際、銘柄を「開運」と名付けたのですが、それは地元の発展を祈ってのこと。同様におめでたい名前をつけて売り出したのが「開運 祝酒」で、以来130年以上も蔵を代表する定番酒として愛されています。

特別本醸造である本品は、実に軽快な味わい。料理を選ばない食中酒でありながら、スイスイと杯が進んでしまう心地よさがあります。蔵元では普段飲みの一本と位置づけているため、値段は驚きの低価格。コスパのよさは圧倒的です。土井酒造場といえば、静岡酵母の開発に積極的に関わり、静岡の日本酒が全国から注目を集めるきっかけをつくった蔵元でもあります。酒づくりの技術は非常にレベルが高く、各種鑑評会やコンペティションでの受賞歴は数知れず。蔵元の実力は、普段飲みクラスの酒の品質にこそ、如実に現れるのかもしれません。

土井酒造場で最も出荷量が多い商品。一升瓶は白地に熊手の柄がプリントされた紙に包まれています。冷やでよし、常温でよし、お燗でよし。さまざまな飲み方で楽しめるのも魅力的。

「梵・夢は正夢」――世界のVIPから愛される、夢実現の祈願酒。

「梵・夢は正夢。Born:Dreams Come True」。原料米は兵庫県特A地区産契約栽培山田錦。マイナス10℃で約5年熟成させた精米歩合20%と35%の純米大吟醸酒を9:1の割合でブレンド。アルコール度数16度。1,000ml¥10,800(税込)/加藤吉平商店 TEL:0778-51-1507

「梵」の醸造元である加藤吉平商店は、江戸時代末期の万延元年創業。福井県鯖江市で地酒を醸しつつ、まだ日本酒が1級、2級と分類されていた昭和40年代に早くも大吟醸酒や熟成酒の市販に踏み切るなど、進取の気性に富んだ蔵元です。

海外への進出も積極的。国際的なコンペティションでは幾度となく最高賞に輝いており、すでに100以上の国や地域で「梵」ブランドの商標登録を済ませているそう。3本のボトルが互いを支え合うデザインの「梵・氷山」、日本政府専用機の正式機内酒である「梵・日本の翼」など個性的な酒を商品化する中、華やかな席にぴったりなのが「梵・夢は正夢」です。

特別な日の酒にふさわしいよう、酒質も最高クラス。磨き込んだ山田錦で醸した純米大吟醸酒を氷温で約5年間熟成させ、出荷直前にバランスよくブレンドして仕上げています。また、夢実現の祈願酒としても知られ、オバマ前大統領の就任式に日本政府から贈られたり、イチロー選手の新記録達成時や松井秀喜選手のワールドシリーズMVP獲得時に関係者から贈られたりしています。ゴールドで統一したラベルと外箱、トロフィーに見立てたボトルなど、酒以外の部分も特別感が満載。年の初めに夢に向かって決意を新たにする時に飲みたい一本です。

トロフィーに見立てるため瓶底より上部に厚みをもたせたボトルは、職人がひとつずつ手づくりしたもの。あえてずっしりと重くしてあるそう。海外では「Born / Dreams Come True」の名で知られています。

「福寿 純米吟醸」――ノーベル賞の舞台で振る舞われた、名誉ある銘柄。

「福寿 純米吟醸」。原料米は麹、掛米ともに兵庫県産米を使用。精米歩合60%。アルコール度数15度。720ml¥1,728(税込)/神戸酒心館 TEL:078-841-1121

日本酒の名産地として古くから栄えてきた神戸の灘エリア。「福寿」を醸す神戸酒心館は、この地で創業して260年以上の歴史ある蔵元です。仕込みに使うのは名水として知られ、特に酒づくりに適した水質である宮水。長年培われた伝統の技と最新のテクノロジーを組み合わせ、質の高い酒を生み出し続けています。

「福寿」という銘柄は、七福神のひとつである福禄寿にちなんだもの。飲む人に富と長寿がもたらされるように、という願いが込められています。数あるラインアップのなかで、ひと際注目されているのが「福寿 純米吟醸」。鮮やかなブルーのボトルが目を引くだけではありません。実は、ノーベル賞受賞晩餐会後のパーティで振る舞われた名誉あるお酒なのです。本庶佑(ほんじょ・たすく)さんが受賞した2018年まで、5年連続通算8回採用されています。

きっかけは、07年にスウェーデンへの輸出を始めたこと。上品な香りとふくよかな旨味を感じられる酒質で、和食のみならず洋食とも絶妙にマッチするのが選ばれた理由のひとつ。幅広い料理に合う味とノーベル賞という話題性は、パーティなどの手土産にうってつけかもしれません。

口当たりはなめらかで、米の旨味が舌に広がる味わい。熟した果物を思わせる香りも印象的です。売上の一部は、ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授が所長を務めるiPS細胞研究所に寄付されています。

「来福 純米吟醸生原酒 愛山」――花酵母で醸す蔵のフラッグシップ

「来福 純米吟醸生原酒 愛山」。原料米は麹、掛米ともに愛山を使用。精米歩合は50%と大吟醸クラス。酵母は来福では珍しい9号系で、アルコール度数17度。1.8L¥3,553(税込)/来福酒造 TEL:0120-252-448

来福酒造は、300年以上前に筑波山麓の水に恵まれた茨城の地で創業。当時からの銘柄であり、縁起のよい「来福」という名前は、「福や来む 笑う上戸の 門の松」という俳句に由来するそう。なんだか幸せそうな情景が目に浮かぶようです。

長い歴史のある蔵元ですが、新たなチャレンジを始めたのは21世紀に入ってから。チャレンジとは、花酵母での酒づくりです。酒づくりの発酵に必要であり、香りを左右する酵母は、酒のもろみから分離されたものが一般的。近年はバイオ技術での開発も進みます。新たな可能性を求め、東京農業大学で研究されていたのが、自然界の植物から分離した花酵母でした。花酵母といっても、できた酒から花の甘い香りがするわけではありません。たとえばナデシコなら洋ナシを思わせる香り、シャクナゲならバナナのような香りと、それぞれに個性があり、酒の可能性を広げてくれます。

東京農業大学出身の社長が始めたのは、花酵母と酒造好適米の組み合わせで独自の酒をつくること。その試みは奏功し、いまでは来福=花酵母の蔵として日本酒マニアにも知られています。実際、来福ブランドの多くは花酵母を使っているのですが、まず飲んでほしいのが9号系酵母で仕込んだ「来福 純米吟醸生原酒 愛山」。その味わいから、そもそも技術力が高い蔵であることを実感できるはず。この一本を皮切りに、花酵母の奥深き世界へ足を踏み入れるのがお薦めです。

来福酒造のフラッグシップであり、その実力がわかる1本。原酒特有の濃密さがありつつ、酸や甘みのバランスが秀逸です。この蔵で醸した花酵母の酒はどんな味なのか、という興味が否応なくそそられるはず。

「明鏡止水 純米酒 La vie en Rose」――グラスで飲みたい低アルコール酒。

「明鏡止水 La vie en Rose」。原料米は美山錦を使用。純米酒表記ながら精米歩合は55%。アルコール度数13度。720ml¥1404(税込)/大澤酒造 TEL:0267-53-3100

大澤酒造があるのは、長野県は旧中山道の宿場、望月宿(もちづきしゅく)と芦田宿(あしだしゅく)の中間に位置する、茂田井(もたい)という場所。宿場間の休憩地を意味する“間の宿”と呼ばれる土地で、大澤家は名主を務める家柄でした。

創業は江戸時代元禄期の1689年。敷地内には代々伝わる品を保管する蔵があるのですが、ある時、漆で封をされた古伊万里の壺が見つかりました。中を調べてみると、それは創業当初に醸造されたと思われる酒で、現存する最古の日本酒に認定。希少な壺は敷地内で開設した民俗資料館に展示されています。

そんな歴史ある蔵元の主要ブランドが「明鏡止水」。昔ながらの手づくりにこだわりつつ、時代に即した商品も手がけています。象徴的なのが「明鏡止水 La vie en Rose」。‟La vie en Rose”とは、バラ色の人生の意味。華やかで、なにかいいことがあった時に飲みたくなるネーミングの1本は、近年注目されている低アルコール酒。口当たりが優しく、ほのかな甘みを感じる味わいで、日本酒の初心者や女性からも支持されているそう。飲む時はキリリと冷やして、ワイングラスに注ぐのがお薦めです。

ゴールドでバラの花束を描いた華やかなラベルは女性へのプレゼントとしても喜ばれそう。料理に寄り添う軽やかな味わいで、ワイン派もあまり抵抗なく飲めるつくりになっています。