いま注目の‟発酵ツーリズム”を体験、 47都道府県のディープな食文化が集う展覧会へ。

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:森 一起

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キュレーターを務める小倉ヒラクさん。1983年東京生まれ。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボを開設。「見えない発酵菌たちの働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作を行い、ワークショップも開催しています。今年5月には、著書『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT刊)も上梓。

デンマークの「ノーマ」や「カドー」など北欧のシェフあたりから火が点き、いま世界中で発酵食品がトレンドになっています。注目されている理由は、独特の味わいだけでなく、食事に取り入れることで健康寿命を長く保てる、旬の食材をうまく使い切ることができるなど、さまざまな利点があるから。味噌や醤油で育った私たちの国は、実は世界に名だたる発酵大国であり、各地で多種多様な発酵食品がつくられてきました。その驚くべき全貌を訪ねた壮大な旅のルポが、渋谷ヒカリエのd47 MUSEUMで開催中の『Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜』展です。発酵からひも解く日本の地方文化の多様性を調査し、各都道府県から1~2点ずつ、47種以上の発酵食品を自らの足で集めたのはキュレーションを手がけた小倉ヒラクさん。日本初の発酵デザイナーです。小倉さんに、この展示にかける思いや見どころを聞きました。

発酵から見えてくる、日本各地の暮らしぶり。

「今回の旅で自分に課したのは、展示する発酵食品の種類が重ならないようにすること。つまり、日本酒や醤油はひとつずつしか選べません。さらに、土地のルーツに根差したものを選びました。その土地のコミュニティで、少なくとも3代以上受容されてきたものです。発酵食品を通じて、そこでその食品をつくり出した必然性や、暮らしぶりが見えてくるんです」と小倉さんは話します。

今回展示される食品の中には、長崎・対馬の「せん団子」や青森・十和田の「ごど」など、普段なかなか知る機会がない、珍しいもの少なくありません。

「『せん団子』は、サツマイモのデンプンをとんでもない手間をかけて取り出してつくる発酵食品。実物を見たら、目が点になると思います。なんでこんなものをつくったんだろう? その疑問で頭が一杯になります……。でも、その疑問点こそが、生み出した土地の気候風土や歴史、暮らしぶりを探る出発点になる。『せん団子』から見えてくるのは、対馬の寒さです。南国生まれのサツマイモは、普通の食べ物とは違って気温が10度以下になると腐ります。冬、寒い海風に晒される対馬では、米が豊富には穫れず、貴重なエネルギー源であるサツマイモを腐らせたくなかった。それでつくられたのが、発酵させて保存食にした『せん団子』」なんです」

独自の発酵食品は、地域そのもののアーカイブ

本展は単なる物産展ではありません。さまざまな発酵食品を通して、日本人がどうやって生きてきたのか?日本人とはなにか?を、実際に日本列島を旅して行くように、微生物の視点から再発見する「発酵の旅」そのものです。

「発酵食品は、その土地の味覚や暮らしぶりの記憶が保存された、言わば地域のアーカイブなんです。だから、結果としてディープでマイナーなものが多くなってしまいました。実際に香りを嗅げるものとかもありますから、ぜひ五感で発酵の奥深さを感じてください」

四季の中で暮らしてきた日本人は、旬の素材をいかにして保存するか、という問いにいつも直面してきました。その救世主となったのが、微生物たちが引き起こす「発酵」というマジックでした。添加物を使っていない食品を探すのが難しい現代、発酵は食品本来の製法や味わいを取り戻すという意味でも、食の世直しの最先端を走っています。開催期間中は、トークショー、勉強会、ワークショップ、角打ちなど、さまざまなイベントも行われています。渋谷ヒカリエで、ディープな‟発酵ツーリズム”を楽しんでみてはいかがでしょう。

実際に日本列島を旅するように工夫された展示会場。47都道府県を足で歩いて集めた47種の発酵食品が、一同に会しています。

「展示品の中でも特にディープ」と小倉さんが語る対馬の「せん団子」。秋口からつくり始めて完成は年明け以降。出来上がるまでに千の手間がかかるから「せん」という名前が付いたとも言われています。

雪に埋めて発酵させるという岩手の「雪納豆」。このバリエーションとして、つくる過程で失敗した納豆に麹を入れて乳酸発酵させた青森の「ごど」も展示されています。

地元の人たちに愛飲される、山梨県甲府盆地特産の地ブドウを使って醸される甲州ワイン。通常のボトルではなく、日本酒用の一升瓶や四合瓶に詰められています。思い思いの湯飲みで楽しむのが地元の人流。

麹が展示されているコーナーには顕微鏡も完備。微生物の姿を実際に観察することができます。

日本酒の昔ながらの製法で、古来から蔵に棲みついている蔵付酵母を使ってつくられる生酛づくり。その基礎となる、米を摺り潰す「山おろし」に使う道具も展示されており、実際に手に取って体験することができます。

会場内には、匂いを嗅ぐことができる発酵食品も多数。伝統的な製法でつくられた「しば漬け」や「奈良漬け」の香気、強烈な伊豆諸島・新島の「くさや」など、多種多様な匂いに驚かせられます。

小倉さんが登壇するトークイベントも多数開催。詳しくはHPで。

展示の最後には、ミュージアムショップならぬ「発酵デパートメント」へ。日本全国から集められたおいしくて珍しい発酵食品の数々を、購入することができます。


『Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜 supported by カルピス』

開催期間:2019年4月26日(金)〜7月8日(月)
開催場所:渋谷ヒカリエ8F d47 MUSEUM
東京都渋谷区渋谷2-21-1
TEL:03-6427-2301
開催時間:11時〜20時 ※入場は19時30分まで
会期中無休
入場料無料

※館内イベント開催時は開館時間が変更になる場合があります。変更のお知らせは、下記HPおよびSNSにて告知。https://static.d-department.com/jp/fermentation-tourism-nippon