特別な日こそやっぱり魚! 匠の技が冴えわたる魚介料理の店9選。

  • 写真:日置武晴
  • 文:浅妻千映子

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奥の切り身とすき身が本マグロ、手前はメバチ。仕入れにもよるが写真のような盛り合わせも可。本マグロ6切¥1,540~、メバチ6切¥1,430~

日本酒を片手に味わう、分厚い赤身の酸味と脂。

絵に描いたような赤提灯の店。誰も、こんな美味いマグロが出るとは思うまい。仕入れ先は銀座の数々の高級寿司店と同じところ。その社長が「うちのマグロが最も安く食べられるのはここ」とプライベートで訪れる。本マグロのどっしりとした旨味は、寒さとともに深まる。赤身の口に広がる酸味と、それを包む冬ならではのきめ細かい脂のバランスが頂点を極める。

一方で、メバチマグロもピークを迎え、負けてはいない。「とりいち」で食べるメバチは、これがメバチかと思わせる力強さがあり、脂ののりも文句なし。しかし後味は本マグロよりスッキリしており、軽やかさも備えている。取材時の本マグロは大間産。日本酒片手に、分厚い切り身を食べる幸せを噛み締めたい。

●とりいち
東京都品川区西大井2-17-18 TEL:03-3777-5013 
営業時間:17時~22時30分頃L.O. 
定休日:日(月1~2回、不定休あり)



おまかせ(¥22,000~)では赤身と、中トロか大トロどちらかの2貫が登場する。取材時のマグロは大間産のもの。大トロは2週間、赤身と中トロは5日間、寝かせたものだ。

酢飯とワサビと日本酒、その三位一体で輝くマグロ

包丁を入れた最後に、クッと、コバを立ててマグロを切りつける。寿司屋ならではのやり方で、煮切り醤油が下に流れるのを防ぐ意味があるという。味の濃いマグロならではの切り方だ。

そのマグロを、「鮨 在」では酢飯を多めに温度も高めにして握る。トロにはワサビを多めに。濃厚な旨味と脂ののったマグロを、よりおいしく食べてもらうための技だ。酢飯と一体となるきめ細かくやわらかなマグロを選りすぐり、アルコールとのペアリングでは、マグロ独自の酸味とシンクロさせるべく、同じく酸味のある日本酒を選ぶ。赤身には常温で、トロなら同じ酒を燗に。そんな細やかなもてなしで、マグロはさらに昇華する。

●鮨在
東京都渋谷区広尾5-3-13 Barbizon86 5F TEL:03-3446-1134 
営業時間:12時~14時(2020年1月から土曜のみオープン)、17時30分~23時
定休日:日



口に含めば一気に旨味あふれる、繊細でふくよかなタイめし。

すべてのコースで選べる「タイめし」。テーブルごとに土鍋で炊き、目の前で蓋を開けた瞬間の香りは最高!

蓋を開けると、湯気とともに香ばしさを携えたタイの香りが立ち上る。ここ「和の食 いがらし」で名物の「タイめし」に使うのは、3kg近くある大型のタイの頭のみ。だが頭には、最も味が出るというヒレ、加えて背と腹に続く部分の身もたっぷりとついている。ほぐせば、驚くほど身だくさんの贅沢なタイめしとなるのだ。特注の土鍋を使い短時間で炊き上げた米は一粒ひと粒ハリがあり、噛むと一気に、内に蓄えたタイのエキスが爆発。コクと甘み、そしてタイの繊細ながらもふくよかな旨味が織りなす厚みのある味が、口いっぱいに広がる。時折、鼻に抜ける木の芽の清涼感もいいアクセントだ。

●和の食いがらし
東京都渋谷区恵比寿4-9-15 ハギワラビル5 2F TEL:03-3447-9893
営業時間:12時~14時30分(13時最終入店)、18時~23時30分(21時最終入店)
定休日:日、祝 ※昼は予約のみ。

https://wanoshoku-igarashi.jp



手前から時計回りに、尾っぽ、腹側、背側の刺し身。「天然鯛贅沢コース」はお造り以外にタイめしなども。¥27,500~

端正なお造りで、部位別に歯ごたえを堪能。

タイ茶漬けで有名な「銀座うち山」の「天然鯛贅沢コース」。極上のタイを食べ尽くせるとあり、愛好家にはたまらない内容だ。なかでも、その味をダイレクトに噛み締められるのが「お造り」である。大きなタイを使うため腹側、背側、尾っぽ近くで、食感と味の違いがはっきりとわかる。新鮮なタイの腹側は、皮をひいた後に“銀皮”と呼ばれる光沢ある薄皮を纏い、噛むとコリコリして非常に甘い。一方、背側にはプリッと押し返すような弾力があり、甘さの中にも透明感がある。皮目が硬いという尾っぽ近くは、皮目を炙って香ばしさを出すと同時に、皮と身との間のゼラチン質を溶かす。その歯ごたえある旨味は、やみつきになりそうだ。ぜひ食べ比べを。

●銀座うち山

東京都中央区銀座2-12-3 ライトビル B1 TEL:03-3541-6720
営業時間:11時30分~14時、18時~20時L.O.
定休日:祝日の月曜、毎月最終日曜

www.ginza-uchiyama.co.jp

和の濃厚なソースがあふれ出す、究極のエビフライ

¥13,200のコースのみ。すべて甲殻類の料理で組み立てられる。この「車海老味噌フライ」は季節にかかわらず必ず登場。

一般的なエビフライをイメージしてこれをかじると、とんでもない目に遭う。がぶりとやった途端、身からあふれ出るソースで口の中を火傷するだろう。このエビフライには、頭やミソを煮詰めたソースが包まれている。味は濃厚ながら、ほどよくサラリとしてキレのいいソースは、洋というより和のテイスト。エビの身の味を邪魔せずに、軽やかに身と一体になる。だから、一尾をまるごと味わう気持ちで食べてほしい。一方、添えられた塩にはエビの殻や脚をドライにして粉砕したものが混ざる。背ワタ以外のエビのすべてがこの皿の上に載るわけだ。甲殻類だけでコースを構成するほど甲殻類を愛する店主が行き着いた、究極のエビフライである。

●うぶか
東京都新宿区荒木町2-14 アイエス2ビル1F TEL:03-3356-7270
営業時間:18時~23時30分(21時最終入店)
定休日:日、祝

https://ubuka.jp



高貴なオーラを放つ天ぷらは、襟を正して食べたい。

威勢よく、背筋の伸びたフォルム。衣から透ける赤の美しさ。多くの天ぷらの名手を輩出してきた「山の上ホテル」が銀座に出したこの店のエビの天ぷらは、見るだけでも価値があるほど高貴なオーラを放っている。箸に取って口に運ぶと、薄すぎない衣がサクッと心地よい。そう思った次の瞬間には、口に入ったしっとりとするエビの身の甘さと旨味とが、品よく優しく広がるのだ。クリスピーな頭部は、旨味が強く凝縮する。

天ぷら店のコースは、だいたいどこもエビからスタートする。それ故、素材選びから揚げ方まで、店側の思い入れと気合いもかなりのもの。その気持ちを受け止めて、襟を正して食べたい特別な一品なのだ。

●てんぷら山の上 銀座
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 13F TEL:03-6264-5516
営業時間:11時~14時L.O.、17時~20時30分L.O.
定休日:ギンザシックスに準ずる(年末年始も同) 

www.yamanoue-hotel.co.jp/tempurayamanoue/ginza

噛むほどに美味いフグの醍醐味は、大人だけが知る特権。

フグ刺しはすべてのコースに付く。写真は2人分。フグで鴨頭ネギを巻き、カボスを搾った自家製ポン酢につけて食べる。

大分県臼杵(うすき)市に本店を構える「山田屋」。臼杵のフグは獲れたてをその日に捌いて食べるのが伝統的なスタイルで、イキがいいので薄く切れず、厚めにひいていたという。それを継承し、現在でも山田屋では捌いてから1日寝かせて旨味を引き出したフグを、あえて厚みを出してひいている。だから、一枚でもしっかりとした噛みごたえがあって満足度も高い。

フグの旨味は、口にした瞬間に感じるわかりやすいものではない。噛むほどにじんわり伝わり広がってくる深い味わいは、まさに大人の美味。フグが旨味を増す季節、カボスもオレンジ色に完熟する。まろやかな味を自家製ポン酢へとたっぷり搾り、フグの味をよりくっきりと堪能したい。

●臼杵ふぐ 山田屋 丸の内
東京都千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディング 35F 
TEL:03-6269-9390
営業時間:
(月~土)11時30分~14時L.O.、17時30分~21時L.O.
(日、祝)11時30分~14時L.O.、17時~21時L.O.

www.usukifugu-yamadaya.jp/marunouchi/introduction.html



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ズワイのよさが凝縮された、カニクリームコロッケ

「カニたっぷりクリームコロッケ」。クリーム部分に脚身が。産地直送の卵を使った自家製タルタルソースも美味。¥660(税込)

日本料理店の支店である和風ダイニングバーの「二貴(にたか)」は、その強みを活かした仕入れにより魚料理がめっぽう美味い。ことに、2004年のオープン当初から人気なのがカニクリームコロッケだ。直径6㎝ほどの団子状で、一見なんの変哲もないのだが、サクッと心地よい薄い衣を割ればビックリ! 中にズワイガニの脚身が1本分、入っているのだ。クリーム部分にはほぐし身も入っていて、なんとも贅沢。玉ネギを大量に炒めたりクリームを練ったりと3日かけてていねいにつくるといい、ハレとケが同居したような味わいである。毎週木曜と金曜にのみ、カニの量が2.5倍のプレミアム版が登場。狙って訪れたい。通常版はランチでも食べられる。

●二貴
東京都港区新橋2-11-8 セントランス・2ビル TEL:03-3519-6676 
営業時間:
(月~金)11時20分~13時20分、17時~22時45分L.O.
(土)17時~21時15分L.O.
定休日:日、祝 

www.sho-chu-nitaka.com



「黄金蟹コース」は時価。生きたカニを目の前で捌き、刺し身にしたり焼いたりしてくれる。

憧れの冬の美味は、いいところ取りの黄金ガニで決まり! 

いま注目の「黄金ガニ」をご存じだろうか。なんとも縁起のいいこの名前、兵庫県の香住で獲れる、黄みがかった輝く甲羅をもつブランドガニを指す。ゆでる前から、見ての通りの美しい色。数千匹に一匹の割合で見つかるとされ、松葉ガニのミソのコクと紅ズワイガニの身の甘さを備えた、いいところ取りのカニといわれている。

そんな貴重な美味をお腹いっぱい食べたいなら「きた福」へ。コースでは1㎏超の黄金ガニが1名に一杯、供される。長い脚は刺し身と炭火焼き、爪はボイルで。

胴体の身やミソも食べ尽くしたら、カニの出汁で炊いた雑炊を甲羅に入れて、ふうふうと味わおう。ああ、一度は食べたい、冬のありがたい美味である。

●きた福 銀座店
東京都中央区銀座7-4-5 銀座745ビル 3F TEL:050-3628-6368 
営業時間:12時~15時、17時~24時

https://kanikitafuku.com/ginza/

この記事は2020年 Pen 1/15号「やっぱり、魚かな。」特集からの抜粋です。
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