“熟成”や“腐敗”となにが違うのか? いま知っておくべき“発酵”の基礎...

“熟成”や“腐敗”となにが違うのか? いま知っておくべき“発酵”の基礎知識を専門家に聞いた。

文:ワダヨシ

発酵食品ブームが続く日本。その種類の多さと独自性は、世界でも類を見ないという。身近なものでありながら、知っているようで知らない「発酵」について、日本の発酵研究の第一人者である農学博士・発酵学者の小泉武夫先生に教わった。

国内でも稀有な醤油専門店「職人醤油」では、白醤油から溜醤油まで色の違いや合う料理を比較、説明を聞くことができる。 職人醤油 前橋本店 TEL:027-225-0012 www.s-shoyu.com photo:Masahiro Okamura(CROSSOVER)

1.「発酵」とは、微生物が人間に有益な物質をつくり出すこと。

発酵とは、微生物が有機物に対して作用し、人間に有益な新たな物質をつくり出すこと。身近な例が発酵食品で、食品を発酵させる微生物には、おもにカビ、酵母、細菌の3種類がある。いずれも小さくて人間の目には見えない、または見えにくい。大きさはカビ>酵母>細菌の順である。たとえば、カビの一種であるコウジカビが大豆のタンパク質を分解するとアミノ酸ができる。これが味噌をつくり出す発酵だ。酵母がブドウの糖分を分解すればアルコールになり、ワインができる。細菌の一種である乳酸菌が、牛乳の乳糖を分解すると乳酸が発生してヨーグルトに。詳しくは、下の図を参照してほしい。

右:発酵によりできた乳酸は、酸味を生むのみならず、牛乳に含まれるカゼインを凝固させ、ヨーグルトに特有の固さを与える。 中:酵母が糖分を分解するとアルコールの他、炭酸ガスが発生。これをボトル内の酒に浸透させたものがシャンパンやビールの発泡だ。  左:味噌の原料は大豆、塩、米麹。米麹とは、コウジカビを米に繁殖させたものだが、味噌の種類によって麦麹、豆麹が使われることもある。

2.「国菌」に認定された麹菌は、発酵食品の製造に欠かせない。

コウジカビ、または麹菌と呼ばれる微生物は、日本の「国菌」に認定されている。和食の調味料や酒などの多くが、麹菌がなければつくれない。麹菌は日本発酵文化のシンボルといえよう。清酒、焼酎、泡盛、みりん、酢、味噌、醤油、甘酒、塩麴、べったら漬けなど米麹を使う漬け物は、すべて麹菌の発酵によって成立する。

その歴史は古く、奈良時代の初期に編纂された『播磨國風土記(はりまのくにふどき)』に起源が記されている。神に捧げた強米(蒸米)にカビが生えたので、それで酒をつくったという記述があり、このカビが麹菌だと考えられている。麹の語源もここにあり、カビタチ(カビがたつ)→カムタチ→カムチ→カウジ→コウジ、と変化してきたといわれる。

麹菌は、黄麹菌、黒麹菌、白麹菌に分類され、それぞれの用途で使い分けられている。

黄麹菌はニホンコウジカビとも呼ばれ、学名はアスペルギルス・オリゼー。清酒をはじめ、多くの発酵食品に使用される代表的な麹菌である。醤油用のショウユコウジカビも黄麹菌に分類される。 写真提供:河内源一郎商店

黒麹菌は、伝統的に泡盛づくりに使われてきた麹菌で、アワモリコウジカビとも呼ばれる。糖化能力のみならず、クエン酸をつくり出す性質があり、これが気温の高い沖縄での醸造において雑菌の繁殖を抑える役目を果たしている。 写真提供:河内源一郎商店

白麹菌は、黒麹菌が突然変異したものを分離して培養したもので、黒麹菌とならび焼酎づくりに使用されている。黒麹菌と同じくクエン酸をつくり出し、糖化能力も高い。白麹菌でつくられた焼酎は、よりマイルドな味わいになるといわれている。 写真提供:河内源一郎商店

3.美味だけじゃない、発酵食品がもつ、4つの特徴。

発酵食品の第一の特徴は、腐りにくいこと。発酵させると保存がきくようになる。暖かい場所に牛乳を放置したら簡単に腐敗してしまうが、乳酸菌を加えればヨーグルトになり腐りにくくなる。牛乳をチーズにすれば何年も保存可能だ。小泉先生は200年も前につくられたチーズを食べたことがあるという。

「ジョージアの首都トビリシの近くに、ナポレオン戦争の時代から、いまも保存されているチーズがありました。日本では、和歌山県で40年物のサンマのなれずしが食べられます」

第二の特徴は、栄養価が高いこと。発酵微生物が、原料にはなかったビタミンやアミノ酸をつくり出す上、発酵食品が免疫力をアップすることも知られている。

第三は、発酵させるとおいしくなること。たとえば、ゆでただけの大豆より、納豆のほうが旨味があってご飯にも合う。原料の味と香りを変化させるのも発酵の大きな特徴だ。

第四の特徴は、発酵食品に添加物は一切不要ということ。原料と発酵微生物だけで、味わいがよくなり保存性もアップする。いうなれば、究極の自然食品なのだ。


4.発酵・腐敗・熟成は、それぞれどう違う?

微生物には、人間にとっての善玉と悪玉がいる。もちろん、食品をおいしくする発酵微生物は善玉だ。その一方、食べ物を腐らせるのが腐敗菌であり、悪玉に分類される。いずれも微生物の活動である点に変わりはないが、人間に益をもたらすか否かが、発酵と腐敗の違いだ。また、赤痢菌、チフス菌、結核菌など病原性のある微生物も悪玉の仲間である。

発酵と熟成の違いは、生きた微生物が直接関与しているかどうかで線引きされる。発酵は微生物の作用だが、食品の味わいの変化は、微生物がつくり出す酵素によっても進む。たとえば、酵素が食品のタンパク質をアミノ酸に分解すると、とてもおいしくなる。このような、酵素による食品の変化を熟成と呼ぶ。


こちらの記事は、2020年 Pen 10/1号「中田英寿のニッポン文化特別講義。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。

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