日本のシードルの進化がすごい! 自然派から“ハードサイダー”まで厳選5本。

  • 写真:長谷川 潤
  • 文:鹿取みゆき

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日本のシードルは、この5年ほどで凄まじい勢いで進化している。かつては、ワイナリーがワイン用ブドウの生産の合間につなぎ的に造ったり、土産物需要のために中甘口タイプを造ったりすることが多く、香りも決して心地よいとは言えないものもあった。ところが、日本各地で同時多発的に、クラフツマンシップをもち合わせた造り手たちによって魅力的なシードルが造られ始めているのだ。

ワインのように細かい造りの規定がないため、自由に造れるのがシードルの面白さ。ホップやハーブ、他の果実などを加えたものや、苦味を加えて複雑性を出したもなど、実に多彩な味わいが楽しめる。今回紹介するのは、ドライな仕上がりで食事との相性もよいものばかり。かつての甘いタイプとは別物だ。いま、シードルを飲まない手はない。


1.「モンシー2019」――自然派ワインの造り手によるナチュラルシードル
2.「2019 シードルブラムリー」――青リンゴをかじったような爽やかな味わい。
3.「蜂酵母のシードル(アシナガバチ)」――ドライな飲み口が食中酒に最適。
4.「テキカカシードル」――30品種を使ったフレッシュな果実味を堪能。
5.「ピッカーズディライト」――オレゴン仕込みの芳しい"ハードサイダー”

1.自然派ワインの造り手によるナチュラルシードル

「モンシー2019」 アルコール度数6.5% 750ml ¥1,980(税込)/ドメーヌ モン  TEL:0135-22-5330

自然派ワインの造り手が手がけた1本。薄く濁ったレモンイエローがひと際美しい。泡立ちはかなり大人しく、ヒノキのような香りとともに、青リンゴの爽やかな香りが立ち上ってくる。ひと口飲んで驚くのが果実味の厚み。トロッとしていて、果実味が口中いっぱいに広がる。伸びやかな酸とともに青リンゴをかじったようなフレーバーがあと味に長く残って心地よい。

ドメーヌ モンは北海道後志地方余市町の家族経営のワイナリーで、自社管理農園はJAS認証を取得している。造り手の山中敦生さんは、ブドウに加えて、リンゴの産地でもある余市町の特色を活かそうとシードル造りを始めた。リンゴはフジを主体としているが、酸が豊かな品種も補助品種として加えている。日本ではまだ少ない、野生酵母で発酵させたシードルのひとつだ。

薄く濁ったレモンイエローが美しい。泡立ちは控えめだがボディは十分。魅力的なトロりとした果実感に心惹かれる。

2.青リンゴをかじったような爽やかな味わい。

「シードルブラムリー2019」 アルコール度数5.5% 750ml ¥1,760(税込)/さっぽろ藤野ワイナリー  TEL:011-593-8700

まるで青リンゴをかじったような爽やかな味わいの1本。透明感のある濃い目のレモンイエローを呈している。泡立ちはとても豊かで、細やかな気泡に連続性がありとても美しい。涼やかで清涼感のある香りが上品で、口に含むとフレッシュな果実味に広がって、すぐに溌剌とした酸が追いかけてくる。あと口もキリッと爽やかで小気味よい。氷を入れてキンキンに冷やして飲むのもお薦めだ。

さっぽろ藤野ワイナリーは、北海道札幌市郊外に2009年に設立。野生酵母を使い、できるだけ添加物を入れないというワイン造りのかたわら、シードルを造り始めた。このシードルも野生酵母で発酵させている。シードルを造り始めたきっかけは、ワイン用にブドウを購入していた余市町の契約農家、三氣の辺(みきのほとり)さんから、リンゴを使ってシードル造りもしてみないかという声がけがあったから。さっぽろ藤野ワイナリーの秋元崇宏さんは、試行錯誤の末、いまのスタイルのシードルに行き着いたという。

透明感のあるレモンイエロー。溌剌とした爽快な味わいは、北海道の冷涼な気候そのもの。ブラムリーという品種らしさが満載だ。

3.ドライな飲み口が食中酒に最適。

「蜂酵母のシードル(アシナガバチ)」 アルコール度数7% 750ml ¥2,200(税込)/VinVie  TEL:0265-49-0801

泡立ちに勢いがあり、きめ細か。第一印象はドライだが、口中で果実のインパクトを感じられる。グラスに注ぐとすぐに蜜入りリンゴの香りがあふれてくる。あと口に酸が出てきて、キリッとして小気味よい。バランスがとれていて飲みやすく、ワインのようにエレガント。食中酒に向いている。

醸造担当の竹村剛さんは、長野県南信地方のワイナリーでのワイン造りを経て、仲間とともに長野県下伊那郡松川町にワインとシードルを造るワイナリー、VinVie(ヴァンヴィ)を今年立ち上げた。前ワイナリー時代は数多くのリンゴ農家からの委託醸造を引き受け、南信州地方でシードルのムーブメントを起こしたという。ヴァンヴィは現在、30ものシードル用の品種を含め、合計40種のリンゴを育てている。地域に根付いたシードル造りを目指す、今後も注目の生産者だ。

やや薄めのレモンクリームのような色合い。泡立ちに勢いがあり、きめ細かで、連続性がある。

4.30品種を使ったフレッシュな果実味を堪能。

「テキカカシードル 」 アルコール度数5% 330ml×6本¥3,927(税込)/もりやま園株式会社  TEL:0172-78-3395

従来のシードルらしさを活かしながらリンゴの魅力が満喫できる1本。グラスに注ぐとすぐに蜜入りリンゴの香りが豊かにあふれてくる。非常に豊かな香りに、思わずそそられる。味わいは香りの印象通りで、口中一杯に広がるフレッシュなリンゴの果実味が堪能できる。ほんのわずかに残糖を残し、リンゴのイメージをそのままに表現しながら、全体の印象はドライできりっと仕上げている。

自社農園で栽培するリンゴで造っており、使用する品種数は30におよぶ。もりやま園は、青森県弘前市で100年以上続く老舗リンゴ園。2013年、代表取締役社長の森山聡彦さんはフランスのノルマンディ地方を旅して、そこで食べたシードル用のリンゴに、摘果リンゴ(間引きしたリンゴ)と同様の渋さと酸を感じた。これをヒントに、それまで破棄していた摘果リンゴを利用したシードル造りを考えたという。摘果を使ってこれだけおいしいものを造るという、シードル界に一石を投じた一本だ。

わずかにオレンジみのあるレモンイエロー。誰にでも自信をもって薦められる親しみやすい味わいだ。1本330mlと飲み切りサイズ。

5.オレゴン仕込みの芳しい"ハードサイダー”

「ピッカーズディライト」 アルコール度数6.5% 330ml×6本セット¥6,963(税込)/サノバスミス  TEL:0261-85-5023

従来のシードルのイメージを完全に払拭する1本。やや薄く濁った麦わら色で、細やかな気泡が絶えず立ち上ってくる。第一印象こそリンゴの香りが感じられるが、すぐにバラや甘い香料のような香りが広がり、とても芳しい。味わいには膨らみがあり、酸や穏やかな渋みが味を引き締めていて、緊張感がある。まるでワインのように余韻も長く、シードルならず「ハードサイダー」(アメリカでのシードルの呼称)と呼ぶべきだという造り手の主張も納得の味わい。

サノバスミスは今年4月に醸造を開始した、長野の注目の生産者。長野県の大町市と小諸市のリンゴ生産者である小澤浩太さんと宮嶋伸光さん、信州大学の大学院で有機合成を学んだ池内琢郎さんがタッグを組んだ。池内さんは、ハードサイダーの本場であるアメリカオレゴン州でサイダー造りを学んだ。秩父樽のウイスキー樽で熟成させた「サノバスミスSPキピヘイジ」など、他のタイプもお薦め。ハードサイダーを造るため、希少品種も含めてリンゴ10品種、ホップ4品種を育てている。

やや薄く濁った麦わら色。バラや甘い香料のような香りに驚かされる。