全国にたった15人、茶師十段が伝授する日本茶の選び方。

  • 写真:平川雄一郎
  • 文:小松めぐみ

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私たちは日常的に複数の種類の茶を飲んでいるが、適した飲み方は? 好みの銘柄の探し方や上手な淹れ方を、史上最年少で茶師十段を取得した、星野製茶園の山口真也さんに訊いた。

山口真也(星野製茶園 専務取締役)●1978年、福岡県生まれ。大学卒業後、タイヤメーカー勤務を経て、静岡と京都で茶業研修。2006年、実家の製茶会社に入社。史上最年少の32歳で茶審査技術十段を取得。

日本茶にはさまざまな種類があるが、それぞれどんな飲み方が適しているのか?たとえば抹茶は菓子と楽しむのが一般的だが、玉露はどうか?

星野製茶園の山口真也さんいわく、玉露はテアニンが豊富でリラックス効果があるため、寛ぐひと時に向いているそう。ただカフェインも多いため、就寝前は避けたほうがよいとか。では食事に合うものは?と尋ねると、さっぱりした煎茶や焙じ茶が合うとのこと。

「九州では煎茶と並んで玄米茶もよく飲みます。油っぽい食事の後には、渋みのある深蒸し茶もお薦めです。深蒸し茶のように目の細かいお茶は、旨味も渋みも早く出るので、すぐに飲みたい人にも向いています」

茶の種類別にふさわしいシーンがつかめたら、次は好みの銘柄を見つけたいもの。それには「産地や品種の特徴を覚えるより、自分に合うお茶屋さんを見つけるといい」と山口さん。その理由は、味の決め手が “火入れ”と“合組(ブレンド)”であるからだ。

そもそも茶は贈答品としての需要が高いため、茶の銘柄には“変わらない味”が期待されている。茶葉の出来は年によって違うため、品質と価格を安定させるために行うのが合組だ。

「製茶では新鮮で欠点のない原料を使うことが大切ですが、原料により、味・香り・色のバランスが異なってきます。だからこそ、その原料選びや合組は茶師の腕の見せどころなんです」

春にできた荒茶を試飲し、合組の配合を考える山口さん。他の年と変わることのない、安定した味をつくるように心がけている。

では製茶の極意は?

「お茶は土を選ぶ植物。私のいる星野村には質の異なる土が5〜6種類あり、茶葉の味には土の質、品種、日当たりなどが影響します。たとえば最近八女で栽培されている『つゆひかり』という品種は、山手の土で栽培すると花のような香りが乗ります。製茶の際は、そうした特徴を活かし、品質を見極めつつ、ブレンドしたらどうなるかと想像しながら味をつくっています」

また山口さんは、人の味の感じ方が季節によって変わることにも着目し、季節ごとに火入れを変える。いわく、春・夏と同じ加減で冬の火入れを行うと、人は青臭さを感じてしまうそうだ。

さて、星野製茶園が目指すのは「毎日飲んでも飽きない味」だが、他社の理想はそれぞれに違う。膨大なメーカーの中から好みの数社を探す手がかりとしては、品評会などで賞を獲ったメーカーに注目するのも一案だという。

「数社のお茶を比べる場合は、同じ価格帯のものを比べるといいでしょう。自分に合うお茶屋さんが見つかったら、100gで1000円のお茶を基準として、上下の価格帯を試してみる。価格と味の関係は産地によって違いますが、九州では醤油と同様にお茶にも甘みやコクを求める人が多いので、煎茶は上の価格帯のもののほうが、旨味や甘みが強い傾向があります」


日本茶業界における最高位、「茶師十段」とは?

正しくは茶審査技術十段。全国茶業連合青年団が主催する、茶の鑑定力を競う審査技術競技大会。得点に応じて初段から十段までの段位が授与され、優勝者には農林水産大臣賞が授与される。種目は4つあり、茶葉の形状や香りで産地を判別する競技、水色(すいしょく)・香り・葉のかたちから品種を当てる競技、外観から茶期(収穫期)を当てる競技、闘茶(茶かぶき)の総合点を競う。大会は静岡、京都、東京などで毎年開催。

どんな茶を買おうか?迷ったら茶師十段のいる店へ。

茶審査技術十段を取得した茶師が経営、あるいは所属している店や団体は、全国に14軒。十段が経験と技を活かして合組した茶には、地元の風土や伝統が息づいており、産地の傾向を知る参考にもなる。実際の店舗を訪れれば茶の試飲ができることも多い。また、下記の大半はオンラインショップでの購入も可能なので、気軽に試してみたい。

星野製茶園

山口真也さん所属
星野製茶園 【福岡県】

霧深い八女の山郷で1946年に創業。星野村特産の高級玉露をはじめ、煎茶や抹茶など多くの種類の茶を製造・販売。園内の試験茶園では毎年さまざまな試みを実施する。

福岡県八女市星野村8136-1
TEL:0943-52-3151
営業時間:8時30分~17時30分
定休日:1月1日
www.hoshitea.com


前田文男さん所属
前田幸太郎商店 【静岡県】

史上初の十段取得者である前田さんがブレンドして仕上げた高級茶葉に抹茶をまぶした「おもてなし」は、“香・甘・苦・渋”のバランスがいい。

静岡県静岡市葵区北番町15
TEL:054-271-1950
営業時間:8時~17時
定休日:土、日、祝
https://yama8-net.com


大山泰成さん・大山拓朗さん所属
しもきた茶苑大山【 東京都】

幼少期より兄弟で切磋琢磨。培われた鑑定眼は生産・加工の現場経験にも裏打ちされて茶に映える。“茶師十段之茶”「泰成」と「拓朗」は看板商品。

東京都世田谷区北沢2-30-2
TEL:03-3466-5588
営業時間:9時~19時
定休日:水(毎月27日、28日の場合は営業)
https://shimokita-chaen.com


鈴木義夫さん所属
小島康平商店 【静岡県】

安倍川・藁科川流域で栽培される本山(ほんやま)茶や川根茶など、山の銘茶に注力。鈴木さんがブレンドした「天翠」にも本山茶が使われている。

静岡県静岡市葵区錦町19 
TEL:054-252-1955
営業時間:8時~19時
定休日:土、日、祝
www.e-cha.jp


小泉純也さん所属
真茶園 【静岡県】

茶師が厳選した原料を、老舗の技で活かす静岡茶の店。通販いちばん人気の「深むしトロリ出るお茶」は通常の3倍時間をかけて茶葉を蒸したもの。

静岡県藤枝市茶町1-10-29
TEL:054-641-6228
営業時間:10時~18時
定休日:日、祝
www.shinchaen.com


小林 裕さん所属
祥玉園製茶 【京都府】

京都・宇治茶の老舗。最高峰の緑茶「玉碾」(ぎょくてん)は、自社栽培の玉露と碾茶を合組。品評会で毎年上位入賞する抹茶「鶴雲」(かくうん)も人気。

京都府京田辺市草内宮ノ後54
TEL:0774-62-0136
営業時間:9時~17時
定休日:土、日、祝
http://shogyokuen.co.jp


田中祥文さん所属
ひしだい製茶【 静岡県】

田中さんが厳選した茶葉でつくる深蒸し煎茶「和」(やわらぎ)は、火入れを利かせ飲みごたえがある。炭火焙煎の技を活かした焙じ茶は10種以上。

静岡県袋井市村松1553
TEL:0538-42-3231
営業時間:8時30分~17時30分
定休日:土、日、祝
www.hishidai.co.jp


池田研太さん所属
池田製茶 天文館本店 【鹿児島県】

知覧(ちらん)茶を多く扱う。人気は色と味が濃い茶葉を厳選してブレンドした「煎茶プレミアム華」。深蒸し茶「さつま撫子」はネット限定販売。

鹿児島県鹿児島市千日町3-11
TEL:099-226-3381
営業時間:10時~18時
定休日:日、祝
www.seicha.com


伊藤彦太郎さん所属
かねき伊藤彦市商店 【三重県】

三重県産の伊勢茶にこだわる、1865年創業の老舗。「百年乃茶」は、地元・関町沓掛の畑で育った在来種の茶の個性を存分に活かした名品。

三重県亀山市関町中町390
TEL:0595-96-0357
営業時間:10時~17時
定休日:日
www.kaneki-isecha.com


桒畑政茂さん所属
お茶の特香園 本店 【鹿児島県】

鹿児島の優良茶葉を厳選し、最高品質の茶製造に努める。「若わかつみ」と「雪ふか」は、数々の品評会で優勝し、日本茶AWARDプラチナ賞受賞。

鹿児島県鹿児島市呉服町4-21
TEL:099-224-2679
営業時間:9時30分~18時30分
定休日:水
www.tokkoen.co.jp


酢田恭行さん所属
放香堂 本店 【兵庫県】

宇治茶の主産地である京都府和束町に自社茶農園を保有し、主として宇治茶を扱う。茶師の酢田さんは全国の茶畑を巡り、栽培や収穫にも携わる。

兵庫県神戸市中央区元町通3-10-6
TEL:078-331-3117
営業時間:10時~19時
定休日:水
www.hokodo.co.jp


森 裕之さん所属
お茶の美老園 本店 【鹿児島県】

明治時代から多くの茶が栽培されてきた鹿児島。この地ならではの品種の旨味や香りを活かして合組を行う。農家とのつながりも大切にしている。

鹿児島県鹿児島市中町5-2
TEL:099-226-3441
営業時間:10時~18時
定休日:1/1
http://birouen.com


吉永健治さん所属
近江茶 丸吉 【滋賀県】

近江土山の老舗製茶問屋。焙じ茶専門店を営む。地元茶園を中心とする厳選茶葉を使用し、熟練の「焙じ」の技で茶葉のおいしさを引き出す。

滋賀県甲賀市土山町大野2723
TEL:0748-67-1333
営業時間:9時30分~18時
定休日:1/1
www.houjicha-maruyoshi.com


“お茶屋”以外でも、十段取得者が活躍中!
関谷祥嗣さん(宮崎経済連直販 所属)

関谷さんが厳選した宮崎県産茶葉でつくった「十段乃茶」は、煎茶など全5種。コープみやざきなどで販売中。

こちらの記事は、2020年 Pen 10/1号「中田英寿のニッポン文化特別講義。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。