ヴァージル・アブローだけではない! 米国ファッション界を盛り上げる、6人のデザイナーに注目。

  • 文・鈴木希実

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いま、アメリカのファッションシーンを賑わせているデザイナーは、ヴァージル・アブローだけではない。日本でも脚光を浴びる6人のデザイナーを、東海岸と西海岸に分けてピックアップ。彼らに共通するのは、ストリートテイストやラグジュアリー感といった要素をうまく服づくりに落とし込みながら、ファッションアイテムの出自や多様性を尊重する精神だ。時代の空気感を反映した、そのクリエイションに注目してほしい。

エミリー・アダムス・ボーディ●1989年、ジョージア州生まれ。ニューヨークのパーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業後、2016年にボーディを設立する。その翌年、ニューヨークのメンズ・コレクションで発表した初の女性デザイナーとなった。photo: BODE

友人が過ごした少年時代から着想を得た、2020年秋冬コレクション。ブランドの象徴ともいえるパッチワークを取り入れたパンツ、手編みの手袋、描か れたリスのモチーフに持たせた木の実のビーズなど、ボーディらしさが全開。photo: BODE

歴史ある生地で物語を紡ぐ、現代のストーリーテラー

アンティークやデッドストックの生地で仕立てたウエアと聞くと、アップサイクルやサステイナブルなモノづくりを想像するかもしれない。しかしボーディが目指すのは決してそこではない。歴史ある生地のもつ物語をインスピレーション源としつつ、キルティングやアップリケなど、女性的なクラフトワークで仕上げたユニークなコレクションが特徴だ。生地の希少性から一点モノも多い。

テルファー・クレメンス●1985年、ニューヨーク州生まれ。高校在学時から服づくりを始め、2005年にテルファーを立ち上げる。当初から、性別や人種、セクシャリティや文化の違いに壁を設けない、完全ユニセックスブランドとして活動。photo: TELFAR

ピッティ・ウオモで発表された2020年秋冬コレクションでは、バロックとアメリカンスタイルを大胆にミックス。スウェットやベロアなどの素材づかいで、ヴィクトリアン風シルエットを形成。型押しロゴを配した、人気のバッグも登場。photo: TELFAR

多様な価値観をミックス、マスに届ける先駆的存在。

テルファーのモットーは「It's not for you, it's for everyone」であり、多様な価値観の尊重を発信して きた。ユースカルチャー発信地と有名ブランドの人気アイテムを掛け合わせた“ブッシュウィック・バーキン”の異名をもつバッグは、受注生産制にすることで希望するすべての人に届けている。コンバースやギャップなどマスブランドとも積極的にコラボレーションしてリーチを広げる。

カービー・ジーン・レイモンド●1986年、ニューヨーク州生まれ。2013年にパイアー・モスを始動。立体作品や映像作品を手がけるアーティ ストの顔ももつ。20年にコラボレーションを重ねてきたリーボックのクリエイティブ・ディレクターに就任。photo: Maria Valnetino

ロックンロールの母といわれ、1930〜40年代に活躍したシスター・ロゼッタ・サープへオマージュを捧げた2020年春夏コレクション。当時を彷彿させるディテールの鮮やかなスーツに、ボリューミーなリーボックを合わせた。photo: Maria Valnetino

社会へのメッセージを込めた、洗練のストリートウエア

時代の声に敏感なレイモンドが、自身を取り巻く文化や歴史的背景に敬意を表して手がけたのがパイアー・モスだ。卓越した技術の光るテーラリング、洗練されたストリートウエアのシルエット、幾何学的なグラフィックなどが特徴といえる。また、ウエアの随所に込められた大胆な社会的メッセージでも話題を呼び、いまや名実ともにアメリカの新時代を象徴するブランドとなった。

リラックスした空気感も醸す、西海岸のデザイナー

ジェリー・ロレンゾ●1977年、カリフォルニア州生まれ。2013年にフィア オブ ゴッドを設立し、エルメネジルド ゼニア、ナイキやアディダスとのコラボレーションも話題となった。セカンドラインであるエッセンシャルズでもカルト的フォロワーをもつ。photo: Joshua Kiss

2021年春夏コレクションは、イタリア製ウールやカシミアが登場し、エレガ ントにシフト。タイムレスなアメリカンスタイルを筆頭に、着心地を優先しながら1980〜90年代にかけてのメンズウエアのシルエットを取り入れた。photo: Gregory Harris for Fear of God

オンとオフを行き交う、 新たなラグジュアリー

ロサンゼルスでフード付きパーカやネルシャツ、スウェット、デニムといったストリートアイテムがある種のステータスとなったのは、フィア オブ ゴッドの台頭によるものだろう。ニュアンスやディテールにこだわり、ノンシャランなようで緻密に計算された着心地のいい服でセレブを魅了し、憧れのブランドへと成長した。オンとオフを緩やかに行き交う、ラグジュアリーラウンジウエアというカテゴリーを確立させた立役者だ。

ルイージ・ビラセノール●1991年、フィリピン生まれ。タイ、サウジアラビア、香港、エジプトとさまざまな国で暮らした後、2001年にロサンゼル スに移住する。独学で服づくりを学び、15年からルードをスタートさせ、19年より発表の場をパリに移した。photo: Rhude

クラシックなアメリカンシルエットに焦点を当てつつ、現代の男性に必須のワードローブを再構築した2021年春夏コレクション。リラックスしたコーディネートにもロ ーファーを合わせ、上品に仕上げるスタイルを提案する。photo: Rhude

セレブたちを惹きつける、 独自目線のクリエイション

ルードはラグジュアリーとストリートの絶妙なバランスで、セレブから絶大な人気を誇るブランド。彼らの影響でブランドビジネスは瞬く間に成功し、いまやビラセノー ル自身もセレブの仲間入り。懐かしさを覚えるアメリカンスタイルと、現代のロサンゼルスのカルチャーを融合させたクリエイションは、多様性を肌で感じてきた移民の目線をもつビラセノールだからこそ追求できたといえる。消費者の声にも熱心に耳を傾け、時代とともに進化していく。

イーライ・ラッセル・リネッツ●カリフォルニア州生まれ。写真や映像、ステージデザインなど幅広いジャンルにおいてアーティストとしても活躍する。既にカニエ・ウェストのミュージックビデオを監督し、レディー・ガガのツアーのセットも手がけている。photo: Eli Russell Linnetz

2021年秋冬コレクションのテーマのひとつである、開拓時代のアメリカ西部を意識したルック。ジャケットはコーンファイバーでつくられたエコファーを使用。他に、雪山カルチャーに着想を得たソロモンとのコラボも登場した。photo: Eli Russell Linnetz

ベニスビーチの空気を醸す、ノンシャランな世界観。

2018年にリネッツがドーバー ストリート マーケット ロサンゼルス店のオープン記念スペシャルコレクションをローンチした後、20 年にフルコレクションとして始動したのが、イーアールエルだ。ベニスビーチのレイドバ ックした空気を醸す、全世代に向けたユニセックスブラ ンド。明るくて懐かしいテイストのアイテムが揃う。リネッツ自身が撮り下ろすコレクション写真からも伝わる、気負いのない親密な世界観がいまの時代と共鳴する。



※こちらは2021年2月15日(月)発売のPen「100のキーワードでひも解くアメリカ」特集よりPen編集部が再編集した記事です。

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