イタリア政界きっての洒落者、シルヴィオ・ベルルスコーニが愛したネクタイ

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    イタリア政界きっての洒落者、シルヴィオ・ベルルスコーニが愛したネクタイ

    文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一
    イラスト:Naoki Shoji

    『政治家の条件』(岩波新書)で、経済学者の森嶋道夫は「政治の指導者には、燃えるような信念と共に冷静な現実感覚が求められる」と書く。では歴史に名を留める政治家たちは“モノ”に対してどんな視点を持ち、何を求めたのだろうか? 今回は、古今東西のリーダーたちが愛した名品を追う。

    右:7つ折りを意味する「セッテピエゲ」という職人的な手法でつくられたモデル。¥33,000(税込)。中:ベルルスコーニ首相の名前から採られた「シルヴィオ」というモデル。「セッテピエゲ」よりも1折り多い「セッテピエゲアンティーケ」という手法が用いられている。¥40,700(税込)。左:ベーシックなネイビーのソリッドタイ。¥26,400(税込)/すべてマリネッラ

    南イタリアのナポリに、世界の紳士たちが憧れるネクタイの名店がある。マリネッラだ。場所は老舗テーラーなども立ち並ぶ、キアイア海岸通り沿いのヴィットリオ広場。たった20平米のスペースしかない小さなネクタイ店だが、世界中にその名を大きく知らしめすきっかけとなったのは、1994年にナポリで開かれたG7先進国首脳会議。当時イタリア首相だったシルヴィオ・ベルルスコーニは、世界中から集まった各国首脳たちに6本のネクタイをボックスに入れてプレゼントした。もちろん、そのネクタイはマリネッラの製品。全部紺色の小紋柄のネクタイで、ベルルスコーニ首相が自ら選んだものだという。

    ベルルスコーニ元首相は、政治家としてだけでなく世界有数の実業家としても活躍した人物。建築業と放送事業で財をなし、「イタリアのメディア王」とも呼ばれていた。サッカーファンにはイタリアのセリエAの名門クラブ、ACミランを保有していたことでも有名だが、実はイタリアきっての洒落者としても知られる。

    もちろん彼はマリネッラ ナポリの顧客のひとりで、首相就任中には贈り物なども合わせて年間1,000本以上のネクタイを同ブランドで注文していたと聞く。ナポリサミットの各国首脳への贈答品として同ブランドのネクタイを選んだことも頷ける。

    94年のナポリサミットで贈呈されたネクタイの1本を忠実に再現したのが、彼の名前を採用した「シルヴィオ(SILVIO)」というモデル。「セッテピエゲ」という7つ折りの製法で仕立てられたネクタイは同ブランドの象徴とも言えるが、このネクタイはそれよりも1折り多い「セッテピエゲアンティーケ」と呼ばれる昔ながらの仕立てでつくられたもので、重量感もある。クラシックな花小紋のパターンからは、控え目な華やかさを感じる。イタリアきってのお洒落な政治家らしいセレクトではないか。ちなみに彼は公式な場では「紺色の小紋柄か、ドット(水玉)柄しか身に着けない」と公言するほど、紺色のネクタイを好んだ。

    マリネッラのネクタイは、ベルルスコーニ元首相だけでなく、世界中の有名人に愛されている。顧客リストには、ジョン・F・ケネディからビル・クリントンなどのアメリカ大統領、元スペイン国王ファン・カルロスやモナコ公国アルベール2世など、錚々たる名前を並ぶ。まさに世界を代表するネクタイブランドと言って差し支えないだろう。

    1994年のナポリサミットでベルルスコーニ氏が自身のために選んだネクタイの1本を再現した「シルヴィオ」。一見すると水玉に見えるが、十字小紋のパターン。¥40,700(税込)/マリネッラ

    大剣の裏地にも、贅沢に表地と同じ素材を使っている。素材はマリネッラ社のために織られた英国製36オンスのハンドプリントシルク。

    「セッテピエゲアンティーケ」と呼ばれる昔ながらの7つ折りの手法で仕立てられたネクタイ。熟練の職人が手仕事で丁寧に仕上げる。

    問い合わせ先/マリネッラ ナポリ 丸の内 TEL:03-3217-2871
    http://www.marinellatokyo.jp