ヴェネツィアのバレナを知っているか? ワークやヴィンテージの味わいを持つ、デイリーモード

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    vol.99

    ヴェネツィアのバレナを知っているか? ワークやヴィンテージの味わいを持つ、デイリーモード

    構成、文:高橋一史 写真:青木和也 | 

    左は水面のきらめきのようなプリント化繊生地のコーチジャケット。右は夏に最適な涼しいリネンの洗いざらしプルオーバーシャツで、ヘンリーネックでなく襟つきなのが個性的。ジャケット¥64,900(税込)、シャツ¥24,200(税込)/バレナ(三喜商事 TEL:03-3470-8232)

    音楽がクラシック、ジャズ、ロックらに分類されるのと同様に、ファッションブランドもよくジャンル分けされる。特にメンズウエアに顕著なのが、アメリカ、イギリス、イタリア、フランスといった国別の区分だ。情報を世界中が共有するボーダーレス社会になり、ブランドで働くスタッフも国際色豊かになった現在では、国別のファッションスタイルを問うことにさほど意義はなくなった。とはいえ産業としての服づくりには、今も地域の特性が活かされている。

    その産業で別格の存在なのがイタリアだ。地中海沿岸の強い陽の光で陰影が浮かぶ彫刻のごとく人体構造に即した、立体的で動きやすい服づくりでイタリアの右に出る国はない。糸の染めをはじめとする生地の美しさと品質の高さでも世界一だ。ただし同国は職人的な技に長ける反面、一部のハイモードを例外として時代の変化を好まない傾向にある。旬の気分を愉しみたい日本人からすると、「少し古い」と感じることもままあるのだ。

    ここに紹介するバレナは、ベーシックな作風ながらトレンドにも背を向けない、稀有なイタリアのトータルブランドである。さらにヴィンテージやワークのテイストまで加味されており、何重にも奥深い味わいがある。ノンジャンルの服装を好む、自由なクリエイティブパーソンにこそ似つかわしいだろう。プライスは同国の専業ブランドと同等の設定だ。得られる満足度を考えると、このプライスゾーンでの最良のメンズウエアのひとつといえる。

    まず最初にお見せするのは、上写真の2着のブルー系ウエア。ともにバレナらしい絶妙な色づかいが印象的だ。2021年春夏は世界中のブランドが、ロックダウンの外出自粛で溜まったストレスを解消するポジティブな色柄の服を発表している。バレナは「マスクをした姿から、自由な身への開放の憧れ」を思い描きコレクションを制作した。着れば未来へと一歩踏みだす希望が湧くアイテムが揃っている。

    右は水洗い加工されたワークウエア調のコットン生地の短パン。左はレーヨン・麻のルーズなロングパンツで、生地の織りもベージュの色調も1930〜40年代のレトロなフィーリングに満ちている。短パン ¥28,600(税込)、ロングパンツ¥39,000(税込)/バレナ(三喜商事 TEL:03-3470-8232)

    パンツこそ男性の装いのムードを大きく左右する重要アイテムだ。バレナなら着る人の志向に応じて好きな選択ができる。夏の軽装で重宝する、左右に大ポケットがついた短パンは、股上が浅い典型的なイタリアンスタイル。対するロングパンツは股上がかなり深く幅もダボダボで、世界基準のモードな形だ。手軽にモダンなコーディネートをするなら、短パンは肩幅の広いルーズなトップスを着て、ロングパンツは逆に上をタイトめにしてみよう。

    胸ポケットの柄合わせをあえて行わず、ランダムなチェックの動きをデザインに取り入れたパジャマ風のイージーなセットアップ。肌にベタつかない快適な着心地も秀逸だ。シャツジャケット¥84,700(税込)、パンツ¥41,800(税込)/バレナ(三喜商事 TEL:03-3470-8232)

    近年人気のセットアップスタイルも、バレナが手がけると一味違う。複雑な表情を持つ織模様のブラウンチェック柄で、全身を固めるスタイルを提案してきた。服を丸めた跡のごとくシワ加工された生地は、薄くシャリ感のあるウール。動物性繊維ならではの肌馴染みのよさや通気性があり、弾力性も兼ね備える。この上下がラフなのに品よく見えるのは、生地の特性がよく活かされたデザインあってこそだ。


    バレナのルーツは創設者が繊維会社をスタートさせた1961年に遡る。ファッションブランドとしての基盤ができあがったのは93年のことだ。これまで日本では知る人ぞ知る存在で一部のセレクトショップで細々と販売されてきた。海外ではハイモードを中心に扱う大手ECサイトの「ファーフェッチ(Farfetch)」「マッチズファッション(MATCHESFASHION)」「センス(SSENSE)」などで軒並み扱われるほど定評があるが我が国でまだマイナーなのは、イタリアブランドを揃える店もそこに集う人も、“イタリアらしい” 色気のある服を好むことが大きな理由だろう。逆にヴィンテージやワーク志向の人は残念ながら同国にあまり関心を向けないようだ。「19世紀の作業服のドレスコード」をテーマに掲げるミックスカルチャーのバレナこそ、オン・オフ及び自宅の内外で着回せる服が望まれるテレワーク時代にも合う、もっと注目されていいブランドである。