オーラリーのスタッフたちと考えた、秋の巣ごもりウエア決定版。

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    vol.91

    オーラリーのスタッフたちと考えた、秋の巣ごもりウエア決定版。

    構成、文:高橋一史 写真:杉田裕一 | 

    リラックスして過ごせる高級ウール生地のセットアップ。着ているのは「オーラリー青山店」スタッフの真野さん。シャツ ¥39,600(税込)、パンツ¥41,800(税込)/オーラリー(オーラリー 青山店 TEL:03-6427-6336)

    今年の秋に、皆さんがほしい服はどのようなものだろうか? 「家でも外でも着られる、快適で見栄えのいい服」を筆頭候補に挙げる人が多いかと思う。わずか半年前にはファッションブランドやセレクトショップがこぞって、通勤と自由時間で着回せるオン・オフ兼用の服に力を入れていた。社会がそれを必要としていたからだ。ところが家の中で過ごす時間が増えオフィス勤務が減り、「心地よく過ごせる服」「外出もできる自由度の高い服」の人気が急浮上。長く愛用できるタイムレスなものへと確実に変化している。

    そこでこのたび「着る/知る」は、上質な日常着の代表格であるオーラリーのもとを訪れた。つくり手であるデザイナーの岩井良太さん、ファッションメディアと関わるPRの新井カナエさん、日々顧客と接するショップスタッフの真野伊織さんという立場の異なる3名に、注目のアイテムについて語ってもらった。彼らのアイテム選びや着こなしのアドバイスは、ファッション通の人でも耳を傾ける価値大だ。


    ショップスタッフの真野さんが薦める、上質なセットアップ

    記事上段写真のパンツ。ウエストにドローストラップつきのイージータイプだ。ステッチも表に出したカジュアル仕様だが、ヒップポケットは玉縁でボタンつき。ドレスとリラックスの中間バランスが計算されている。

    スーパー160'sという、最高級スーツ生地にもできる繊細な羊毛で織られたフランネル生地のシャツアウターとパンツ。しなやかながら耐久性もある。リビングのソファのようなグレージュの色も着るシーンを選ばない。単体売りなので個別に着てもいいし、上下のセットアップとして揃えれば旬のパジャマ風スタイルになる。

    このアイテムを着るコツを真野さんがレクチャー。

    「外出するときは、何らかのポイントを加えましょう。ここでの着方のようにボリュームのあるブーツを履いたり、シャツのインナーをタートルネックにして上品さを足したり。家の中ならば、なるべく装飾を省くのがお薦めです。インナーをTシャツにしてこのウールシャツを羽織り、足元は素足にスリッパといった具合に。とても滑らかなフランネルの風合いを、肌で感じられる装いを愉しんでください。生地づくりの工程で縮めて密度を高くしていますので、毛玉などはさほど気にせず着られます」

    やや値は張るが、手に入れればきっと長く愛用できる。オーラリーでは同様のセットアップを購入しに来店する人が多いそうだ。

    「このシャツは同じ素材でテーラードジャケットも展開していまして、どちらもウエストをあまり絞っていません。オーラリーのセットアップは肩肘張らずに日常使いできることが、お客様の心に響いているようです」

    シャツは着脱が簡単なスナップボタン式。ヨーク裏には滑りのいい裏地がつきウール素材でも着やすい。これもパンツと同様に、CPOシャツのような重ね着できるアウターとしても、シャツとしても自由に解釈して着回せる。

    外出自粛を受けた来店者の意識の変化についても意見を伺った。

    「着心地の良さを求める方が増えました。オーラリーにはこうした服が多いため、その目的で初めてご来店くださる方もいらっしゃるほど。遠出する機会が減った分、“特別な一着” より “日常に寄り添う普遍的な一着” を探しに来られる方が多いです」

    直営店ではオーラリーの特徴である快適さを理解している顧客が多く表立った変化は少ないとのことだが、それでも動きは感じられるそうだ。

    デザイナーの岩井さんの推しは、ニットのワークウエア

    通常はデニムのジージャンとジーンズを、ニットにアレンジしたセットアップ。ジャケット ¥59,400(税込)、パンツ¥53,900(税込)/オーラリー(オーラリー 青山店 TEL:03-6427-6336)

    ジージャンとジーンズこそ普遍的な男性の日常着である。しかし生地が固く印象もハードなデニムは、家族でくつろぐ室内着にはしにくいものだ。ニットが得意なオーラリーが今季初めてつくったこのニット製ワークウエアなら、巣ごもり生活にアクティブな空気を運んでくれるだろう。近所の外出時にはニットの上下を着ることが多いというデザイナーの岩井さんにとっても、新しい発想のデザインのようだ。

    「ウルグアイ産の糸を、限界まで目を詰めて編んだ編地です。これまで触ったことのないハリ感があり、伸びにくく毛玉も少なそうな安心感もあり、デニム型のセットアップにしてみました。ニットならではの上品さを出すため、各部位の縫い合わせはリンキングという繊細なつなぎ方を採用しています」

    シャープなミシン縫製でなくリンキング手法により優しい印象の仕上がりに。リベットやドーナツボタンといったディテールがいいアクセントだ。

    いま人々が求めている、または必要な服とは?という問いに、
    「誠実な服。ささやかでも気持ちが高揚する服」
    と答えた岩井さん。

    時代感覚がありつつも普遍的な服という、舵取りの難しい服づくりがこれからさらに増えていくのだろう。


    PRの新井カナエさんが明かす、メディアに評判の服。

    ベーシックな形で、個性的な編地と美しい色で勝負するカーディガン。家生活の気分を上げてくれる一着だ。カーディガン ¥41,800(税込)/オーラリー(オーラリー 青山店 TEL:03-6427-6336)

    「ファッション誌では自宅やリモートワークで使える服や、着心地がいい服の企画が増えています」

    PRの新井さんは、仕事で関わるメディアの動きをそのように語る。さらに、

    「『なぜその服を選ぶのか』の理由が重視されてきました」

    という。誰もが自分らしい生き方を追求しはじめた現在、メディアも大きな変革を迫られている。もはや軽いノリで流行のお洒落提案をされても説得力がない。この状況の中でジャーナリストやスタイリストなどから人気を得た今年のアイテムのひとつが、ふわふわの風合いに癒やされるカーディガンだ。

    「オーラリーらしいきれいな色が目を引く」「着る前から気持ちのよさが伝わる」「柔らかで軽くストレスがない」

    こうしたコメントが寄せられているそう。モヘアセーターのような温もりとボリュームがあり、着る人を優しい表情に見せる。男性には新鮮に映るジェンダーレスなこの服の着こなしを、新井さんがアドバイス。

    「合わせる服をグレーやベージュなど繊細な色にすれば、今季らしさを出せるでしょう。でも難しく考えずここで着たようにパンツをデニムにしたり、いつもの服装に合わせるだけでOKです。カーディガン以外をワントーンに揃えるのが、色のきれいさを強調するコツでしょうか。インナーはかっちりとしたシャツよりもカットソーのほうがリラックスして見えます。素材が上質なのでだらしなくならないのがこの服の良さです」

    素材はペルー産アルパカ70%、オーストラリア産ウール30%の比率。糸がループ状になっており、タオルやカーペットのような印象で肌寒いときの羽織モノにもぴったり。

    こうした華やかな服を手に入れてコーディネートを模索すれば、マンネリの着方から脱出するひとつの道になる。人に会う機会が減った昨今は、自分改革に着手するいいチャンスでもあるのだ。


    長く着られる上質な服は、定番ブランドの歴史的なアイテムとは限らない。新しくデザインされた服には、確実に現代の感性が含まれている。仕事も私生活も次の時代に突入してきたいまこそ、着る服が自分の心と周囲の人に及ぼす影響の大きさに目を向け、ワードローブを見直してみよう。