愛用して気づいた。フライターグ新定番バッグがいかに使いやすいかを。

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    vol.89

    愛用して気づいた。フライターグ新定番バッグがいかに使いやすいかを。

    構成、文:高橋一史 写真:杉田裕一 | 

    都会的な服装を好む大人に馴染む、クールな色も。2019年スタートの新定番バッグ「F640 ROLLIN (ローリン)」。 ¥31,680(税込)/フライターグ(フライターグ ストア シブヤ TEL:03-6450-5932)

    Pen「愛用品と、ともに。」特集(2020年8月1日号)で取材したクリエイターの中に、デイリーに着る服としてメゾン マルジェラとコム デ ギャルソンの名を挙げた人がいた。尋ねるとその理由はさまざまだったが、中でも印象的だったのが「ブランドの姿勢に共感しているから」との答え。本来、企業や銘柄が“ブランド” と呼ばれる第一の条件は、品質やデザインが信頼できることだろう。さらに、理念をもって活動していることも大切な要素になる。その意味で今回クローズアップするスイスのフライターグは、これらの条件を満たす確かなブランドだ。

    フライターグはファッション企業がこぞって目標に掲げる、サステイナブルなモノづくりの先駆者だ。主な製品は、捨てられるトラックの幌を再利用(アップサイクル)したグラフィカルなバッグ。その彼らが2019年に新開発の使用済みペットボトルから再生されたポリエステル生地を採用し、幌とミックスした軽妙なバッグシリーズ「ToP(Tarp on PET)」をローンチした。遅ればせながらこの夏に同シリーズのショルダーバッグ「ローリン」を手に入れて日常で使ってみた。すると、シンプルな見た目からは想像できないほど、使い勝手が深く考えられたデザインだとわかった。まずはこのバッグの魅力を紐解いていこう。

    バッグはともに同型モデル。荷物の量や使い方によって姿を変える。本体がアップサイクル生地なため、一点として同じ模様はない。

    ショルダーストラップの斜めがけがよく似合うバッグだ。写真のように女性も使いやすい大きさ。

    ローリンの構造は、トラックの幌を裁断した厚手生地の本体と、柔らかい再生繊維のトップを組ませたもの。ふだんはトップを丸めてメッセンジャーバッグのように使う。縦21cm(最小時)×横31cm× マチ10cmとコンパクトで軽く、日常使いにちょうどいいサイズ感だ。荷物を入れなければクラッチバッグのように平たくなり、家での収納にも便利だ。このバッグは外出中に荷物が増えたときに真価を発揮する。ロール部分を伸ばすことで、トートバッグにトランスフォームするのだ。トートにショルダーストラップをつけて2WAY、さらに背負えるストラップもつけて3WAYと称するバッグは世に多々あるが、機能がてんこ盛りの印象は拭えない。ユーザーの必要性に応じて顔つきを変えるローリンの見た目は実にスマート。そしてこのバッグには、生活の道具としてのさらに奥深い工夫が込められている。

    スタイリッシュ、かつ持続可能なブランド

    幌を使った本体のフロントには大きなフラップポケット。出し入れ口の中央(フック留め用のタブ位置)だけが内側で縫い止めされているため、不用意に広がることがない。

    トートにしたときも、同じストラップのフックで内側を固定でき、口の広がりを防止。ストラップの長さは素早く調整できるため、買い物などで急に荷物が増えたときも戸惑わない。

    内側になる側には止水ファスナー式ポケットがつく。

    現在筆者の家には約50個のバッグがあり、それぞれ一長一短あるがどれもお気に入りだ。それでもローリンほど使う人の生活スタイルを追求し、 洒落心にも妥協しないバッグは他にない。機能を目立たせず、よくここまでミニマルに仕上げたと感心しきりである。そのひとつがポケットの配置だ。外側のオープンポケットは、バッグをいろいろいじってようやく気づいたほどさりげなく便利な機能だ。ダボつかないため出し入れの多いスマホや財布を入れても不用意に落とす心配が少ない。内部にも小さなオープンポケットが2つあり、本体の背面には止水式のファスナーポケットもつく。水の侵入を防げるので雨の日も安心だ。

    メイン生地の幌は防水性があるが、トップの再生ポリエステルは撥水レベルの耐水性しかない。ただしショルダーバッグのときは、上部は何枚も重なった生地をさらに丸めてガードした状態になる。長時間雨の中を歩かない限り、内部が水濡れする可能性は低い。生活の一部として本当に毎日使えるバッグは、天候に左右されないものだ。

    フライターグ ストア シブヤ内にある修理工房。欠けた幌の色直しのような複雑な修理にも対応。窓際に並ぶのはその染料だ。長く使える安心感もブランドの証である。

    コンビニやスーパーの買い物袋が有料になったいま、自在に容量を変えられるローリンはエコバッグ的にも活躍する。環境への配慮という観点からも、モノを再利用してさらに長く使い続けることを提案するフライターグの企業姿勢に賛同する人は多いのではないだろうか。



    フライターグの企業ポリシーとは?

    スイス・チューリッヒにある本社兼工場の様子。各地から持ち運ばれた使用済みトラックの幌がメインの材料だ。photo©FREITAG

    工場勤務の職人が手作業でパーツをカットしていく。どの部位が使われるかにより、すべてのバッグは異なる表情を持つ。photo©FREITAG

    共同創業者で、現在もクリエイティブ・ディレクターを務めるフライターグ兄弟。photo©FREITAG

    フライターグの設立は1993年。スイス人のマーカス&ダニエル・フライターグ兄弟が機能的なバッグをつくろうとして道路を走るトラックの幌に目をつけたことがきっかけになった。自転車のインナーチューブ、廃車のシートベルトなども活用し、メッセンジャーバッグを制作。汚れをも味とするグラフィカルなバッグが世界的に知られることになった。

    スイス・チューリッヒの自社工場にて、幌の解体、洗浄、カットが行われている。会社組織も独特で、製品と同様に持続可能な社会を実現するための経済システム「サーキュラー・エコノミー」に基づく。フライターグ兄弟がクリエイティブ・ディレクターである体制を維持しつつも、2016年に上司や部下といった階層をフラットにして、管理職の存在しない組織形態の「ホロクラシー」を導入。社員ひとりひとりの意思決定を尊重する体制の実現に向けて動いている。

    それでも彼らのルーツは、スタイリッシュなバッグをつくることにある。社会貢献を第一に掲げるブランドとは立ち位置が異なるのがフライターグの個性だ。「カッコよく便利なバッグだから」。その気持ちだけで使うのもOKな、ユーザーフレンドリーなファッションアイテムなのだ。