写真:宇田川 淳
Vol.30 ドイツ人デザイナー、フランク・リーダーが染めて絞った服は、タダモノではない迫力のアートです。
朽ちた石壁、もしくは墨絵のように深いグレーの色が与えられた、シャツ、テーラードジャケット、カーディガンジャケット。生成りの無地の服が、時を経て風化したような姿に変わっています。製造手法は、いわゆる「製品染め」です。ただしこれらの服には、一般的な製品染めの “こなれた風合い” とは趣の異なる、ある種の “凄み” があります。それでいて着る人をカッコよく見せる、スタイリッシュなファッションにもなっているのです。
手がけた人物がフランク・リーダーだと知ると、彼の活動を知る人にはアート作品としての興味も湧いてくるでしょう。ドイツで生まれ暮らすフランクは、作家性の強いファッションデザイナーです。自国の伝統に目を向けてクラフトワークを学び実践しつつ、プレタポルテのシーズンコレクションを発表しています。使う素材や世界観は、同じくドイツ人のアーティスト、ヨーゼフ・ボイスにも通じます。古い時代に生まれたヴィンテージが、現代のモードと融合して彼独自の世界に結実しています。
ここに紹介する服は、定番的な素材や型を用いた「ファンダメント(FUNDAMENT)」コレクションの1シリーズ。ベースになっているのは、1960年代のデットストックベッドシーツで仕立てた服です。これにヴィンテージのインクをつけて染め、水洗いし、絞って乾かすことで不思議な模様を出現させています。
凝った技法ながら親しみやすさもあるのは、アイテムがベーシックだからでしょうか。男性の基本ワードローブから離れすぎず、その枠組の中で目いっぱい遊んでいるのです。おおもとの布の風合いを活かした、未染色の服も販売されているのがさらにユニーク。どちらを選んで着ても、間違いなく「フランク リーダー」です。
ブリーチ手法で表情をアレンジ
今季のファンダメント・コレクションには、ブリーチ手法で色を変えたシリーズもあります。上写真の右側のスキッパーシャツとショートパンツが、その加工による服です。左側は未加工の状態の同じ服。ブリーチ加工は派手なようですが、実物を手に取ると青空のような清々しさを感じます。経験値が高いデザイナーならではの完成度の高さです。
ペンキが飛び散ったようなこの技法を種明かししましょう。実は、スプレーで服にブリーチ液を吹き付けているのです。点々と色が白く抜け落ち、一着一着が異なる表情に仕上げられています。
右側(ブリーチ後):スキッパーシャツ ¥42,120、ショートパンツ ¥46,440(ともに税込)/フランク リーダー
左側(ブリーチ前):スキッパーシャツ ¥35,640、ショートパンツ ¥39,960(ともに税込)/フランク リーダー(マッハ55リミテッド TEL:03-5413-5530)
ペイントで定番素材を新しく
フランク リーダーの定番テキスタイルである「ジャーマンレザー」は、古い時代のワークウエアや乗馬服の布に近い、分厚く硬い、目の詰まったコットンです。革のように、長年着込むことで身体に馴染む、フランクがこよなく愛する素材です。
今季はそれがノーカラージャケットとベストになり、表面にアクション・ペインティングのごとくインクが吹き付けられています。インク染色、ブリーチに続く、3番目の加工方法です。画家の作業着にも通じるこれらの服を、着る人がさらに味を加えて育てていくことで作品が完成されていきます。
ノーカラージャケット ¥73,440、ベスト ¥51,840(ともに税込)/フランク リーダー(マッハ55リミテッド TEL:03-5413-5530)
制作風景
今回紹介した服の制作風景のムービーが、ネット上で公開されました。2分26秒の短い映像で、服に命を与えるプロセスがよく描写されています。フランク リーダーのコレクションは、コンセプトや制作のプロセスを知ることで魅力が増していきます。一着の服を長く大切に着たい人の琴線にも触れるに違いありません。
2018年春夏 ファンダメント・コレクション 制作動画