パリの「コレット」、ロンドンの「DSM」もお気に入り! 東京新世代の「ダブレット」は、本気で遊んでるからカッコいい。

    Share:

    構成、文:高橋一史
    写真:宇田川 淳

    Vol.15 パリの「コレット」、ロンドンの「DSM」もお気に入り! 東京新世代の「ダブレット」は、本気で遊んでるからカッコいい。

    doublet

    パッと見はスクールセーターとデニムパンツの爽やかで品のいいコーディネート。と思いきや、セーターのワッペンは極端に数が多く縫い付けられ、自らの重みに耐えられず下がってしまったように裾からはみ出ています。デニムパンツはウエストに共布のガチャベルトがつき、だらっと端が垂れ下がり、裾はボロっとほつれています。「ぶっ壊れたプレッピー」とでも言いたくなる、懐かしさと斬新さがミックスされた独特なフィーリング。「ダブレット(doublet)」は、コーデに一点取り入れるだけで着こなしに動きが生まれ、着る人の気分を上げてくれる個性派ブランドです。

    '90年代のストリートスタイルを再解釈するデザイン発想が、現在のファッション感覚にジャストフィット。異なる服を一着に融合させたり、古着のリメークのごとくアウターの着丈をばっさりと短くカットしたり、笑いを誘うユーモラスなアプローチも評判を呼んでいます。さらに重要なのが、どの服も高いクオリティで丁寧に仕立てられていること。ハイモードも扱う有力セレクトショップであるパリの「コレット」や、ロンドンの「ドーバー ストリート マーケット」などもラインアップするほど、そのセンスに加えて品質の良さも世界で認められています。

    上写真のセーターは、春夏向けに軽量化するためコットンの糸をベースにアクリルを混ぜて編んでいます。ビンテージふうのワッペンは本当に重ね付けすると重量が重くなるため、刺繍ミシンを活用し重なって見える一枚の大きなワッペンを製作し取り付けています。一見すると無秩序なレタードも、実は並び替えるとブランド名の「DOUBLET」に。デニムは驚くほど柔らかな風合いの生地がキモです。タテ糸がインディゴ染めのコットン、ヨコ糸が生成りのシルクという贅沢な織り。「広島のデニム工場さんと知り合ったことで実現できた生地です」と、デザイナーの井野将之さん。彼のモノづくりの話や、2017年春夏展示会の紹介などは次ページに続きます。

    「若い頃に着ていた服がベースです」----- 井野将之

    撮影(展示会、ポートレート):高橋一史

    2種類のシャツのミックス。 ¥34,560 撮影:宇田川 淳

    上シャツと同じ手法のTシャツのクローズアップ。黄の布を溶かして、白の布に貼り合わせ。

    服の製造プロセスに関わる凝った技法を多様する「ダブレット」。白と黄の2種類のシャツをつなぎ合わせたような上写真のシャツは、左右が明確に分かれておらず、プリントも一部が重なっています。図案のモチーフは黒白のクールな写真と、バイカーふうの炎Tシャツ。「INTEGRATED(統合させた)」の言葉がユーモアを掻き立てる、ビッグサイズの一着です。

    2017年春夏シーズンの展示会。

    今季のコレクションテーマは、「トゥーマッチ」。'80年代後半〜'90年代前半の音楽カルチャーを代表するイギリスの「マンチェスター系」と呼ばれるムーブメントがイメージされています。モードも含む現在の世界的なファッショントレンドとも合致するジャンルですが、井野将之さんいわく、
    「自分が若い頃に着ていた服に素直な気持ちで向き合い、“アンチノームコア” を目指して好きなモノをつくったら評価され、ダブレットのスタイルが確立されてきたんです」。

    2012年にアパレルメーカーから独立した井野さんがスタートさせたダブレットが転機を迎えたのは、2015年になってから。過剰なほどに刺しゅうを重ねたスカジャン、スケボー型のバッグがインスタグラムらのSNSで反響を呼び、世界中に取扱いが広がりました。
    「とくにスカジャンがヒットしたことで、『こんなことやっていいんだ! 』と、自信がつきました。お洒落なことをやろうとすると失敗しちゃうタイプなんです。現在のブランドのコンセプトは、『いかに崩すか』。『論理的なユーモア』と自分で呼んでいるのですが、単なる思いつきのノリではないモノづくりを心がけています」

    前ページ掲載のセーターの着こなし。

    '90年代のイギリスを感じさせるトラックスーツ。ブルゾン ¥42,120、パンツ ¥36,720

    生地耳を、スポーツウェアふうのラインに見立てたテーラードジャケット。¥103,680

    コレクションの中には、オーダーメイドのテーラーが買い付ける高級生地を使ったテーラードもあります。しかしそこはダブレットのこと、一筋縄ではいきません。パーツ毎に異なるイタリア、イギリスの生地メーカーの生地を用い、それぞれの部位にメーカーのタグを縫い付けています。さらに、ジャケットの肩線と袖に生地耳がくるように裁断し、スポーツウェアのような表情を持たせました。このジャケットは、パリの「コレット」も買い付けています。

    ロンドン「ドーバー ストリート マーケット」の売り場。キャップ、スニーカーも「ダブレット」。撮影:井野将之

    ミラノの「コルソコモ」をはじめ取扱い店が増え続けている背景には、いまの世の中が、クリエイティブに活躍する30代〜40代男性の記憶とリンクするデザインを求めていることが挙げられます。この世代が親しみを持てるエッセンスがちりばめられているからこそ、「着たい」、と思わせる力があるのです。'90年代に馴染みがない若者の目には、日本発の前衛ファッションとして映っていることでしょう。「ドーバー ストリート マーケット」はロンドン、ニューヨークに加え、東京・銀座でも取り扱っています。我が国では「ミッドウエスト」、「WISM」など様々な店で展開中です。

    デザイナー、井野将之さん。

    お近くの店でぜひいちど手にとってみてください。思わずニヤリとしてしまったなら、その服はきっとあなたが着るのにふさわしい一着のはずです。

    パイル状に起毛された本格ビンテージふうワッペン。
    セーター ¥49,680、ベルトつきパンツ ¥36,720 共にダブレット
    問い合わせ先/スタジオ ファブワーク
    TEL : 03-6438-9575
    doublet-jp.com