ファッションクリエイターが薦める、いま行く価値のあるショップ【ひとり1選 Vol.2】
目当てのレコードを購入しにレコード店に行ったら、思わぬものを発見し何枚も買ってしまうことがある。それは好きなミュージシャンのレアな音源だったり、優れたカバーアートの名も知らぬバンドだったり。レコードだらけの店内空間は日常を忘れさせ、趣味の世界へと誘う。MP3音楽をダウンロードする時代になっても、実店舗でしか得られない“体験”は捨てがたい。
ファッションの世界においてもそれは同じこと。服を手に取り素材の魅力に気づき、着て面白さを発見できるのが実店舗だ。自分にとっての“新しさ”と出合い、知見も広がる。ネットショッピングは便利だが、この肌感覚までは味わいにくい。休日くらいは自宅ワークの手を休め、とっておきの店に出かけたいものだ。
服づくりのプロが称賛するスペシャルな店を紹介する企画の第2弾となる今回の参加クリエイターは、アトリエベトンのデザイナー藤田将之さんと、ニートのデザイナー西野大士さん。藤田さんはコロナ禍以前から家の内外で着られることをコンセプトに、オリジナリティあふれるコレクションを発表し続けている。ライフスタイル全般に目を向ける彼らしく、選んだ店は生活雑貨と服を取り揃える「キャビネット オブ キュリオシティーズ」。一方、西野さんは自身のパンツブランドのニートでもヴィンテージをベースにするほどの古着好き。プロ御用達のハイセンスな古着店「ブラケット」の名を挙げた。キャビネット オブ キュリオシティーズは商業施設の東京ミッドタウン日比谷内にあり、ブラケットは渋谷から富ヶ谷へと向う“奥渋谷”にある。大人の休日散歩にもぴったりなロケーションの2店を詳しく見ていこう。
知的好奇心をくすぐる大人のテーマパーク
キャビネット オブ キュリオシティーズ
選者:アトリエベトン デザイナー藤田将之
東京一等地の商業施設のなかにある大人のテーマパーク。そう言えるほどのユニークな空間が、東京ミッドタウン日比谷内の「ヒビヤ セントラル マーケット」である。中を歩き回るだけでワクワクする、東京広しと言えども他にないワンアンドオンリーな複合店だ。ファッション&雑貨店、ヴィンテージ眼鏡店、床屋、コーヒースタンド、居酒屋、日用品店で構成され、時代も昭和から現代までが入り交じる。このフロアのセンターに位置し、周囲を本棚で囲んだ店が、「キャビネット オブ キュリオシティーズ」だ。掲げるコンセプトは博物館。同スペース内のもう一軒のファッション店「グラフペーパー」がモダンギャラリー(美術館)なのに対する別のアプローチである。博物館らしく、温もりのあるファッションアイテムや雑貨が静かに並んでいる。中世ヨーロッパふう内装と、現代日本のライフスタイルとのミックス具合が面白い。
推薦者の藤田さんが店の魅力について、次のように語った。
「人気ブランドの服と一緒にスタイリッシュな雑貨、器、書籍が並んでおり、探し出す楽しみと、興味のあるカルチャーの新たな発掘ができる楽しみがあります。店の周囲にある駅のキオスクのような日用品店を見たり、アンドコーヒーロースターズでコーヒーを飲み、ちょっとひと息ついたりもできます」
取り扱いファッションは現在、コモリ、オーラリー、ブラームス、サイ、マーカウエア、フィータといった日本の大人ブランドが中心。雑貨は真鍮カトラリーのルー、ブランケットやラグのルーマー、九谷焼のノウェムといったこれも日本のものが多く価格も手に届きやすい。ここに行くだけで日本流モダンライフを一望できる品揃えの妙は、仕掛け人であるクリエイティブディレクターの南貴之さんならでは。よく見るウエブサイトをブックマークするように、定期的に訪れて感覚磨きに役立てたい。
「東京ミッドタウン日比谷は駅に隣接した商業施設なのでアクセスが便利で銀座にも歩いて行けます。すぐ近くに日比谷公園もあり、ゆっくり休日を過ごすのにも最適です。TOHOシネマズで映画を見たついでにお店に行くこともあります」
藤田さんが周辺散歩の仕方をこのようにガイドしてくれた。高層ビル郡から抜けて公園に行けば高く広がる青空も眺められる。買い物、カルチャー体験、屋外リラックスと全部入りの休日を過ごせる日比谷は見逃せないスポットだ。
東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷3階
TEL:03-6205-4861
営業時間:11時〜21時
定休日:施設に準ずる
プロが真剣な目になる、ヨーロッパ古着の名店
ブラケット
選者:ニート デザイナー西野大士
スーパーヴィンテージと呼ばれる希少品を探すマニアも、日常で着る洒落たデッドストックを求める人も訪れるレンジの広い古着店がブラケットだ。見るからに個性的なアイテムがコンパクトな店内にぎっしりと詰め込まれているが、決して “一見さんお断り” の店ではないことを推薦者の西野さんが話してくれた。
「確かにスーパーヴィンテージも扱われていますが、僕がここで好きなのはレギュラーもの(年代の浅い古着)の品揃え。先日購入したのはアディダスのジャージで、2010年代以降のもの。価格も高くありません。店に立つオーナーの飯田くんに、ドイツ軍サッカーチームのものと教えてもらいました。どのアイテムにも、買い付けられた理由がちゃんとあるのもブラケットのよさです」
この店は日本を代表する古着の名店「ジャンティーク」に10年間勤めた飯田康貴さんが独立してはじめた個人店だ。アメリカものが主流のジャンティークに対して、ヨーロッパ、とくにイギリスのミリタリーやワークが強化されている。品揃えの約半分がイギリスもの。1940年代の古いものも21世紀以降のデッドストックも、状態がよくスタイリシュなアイテムばかりが並ぶ。
西野さんいわく、
「地方の古着店に似ている気がします。東京は何か流行するとすぐそちらに流れがちですが、ここは左右されませんから」
トレンドを生み出すクリエイターは、他人が目をつけていないところからヒントを導き出すものだ。オーナーの飯田さんによると、もともとイギリスものが好きだったからこの品揃えにしたそうである。ただオープン当初の6年前は客がまばらで、イギリス古着の熱が上がりはじめたのはここ2~3年という。同じミリタリーウエアでも、アメリカものと比べ着たときにバランスが洗練されていることに気づく人が増えてきたのが理由のひとつのようだ。
古着店の独特な匂いもせずクリーンなブラケットの品揃えは、これまで古着と距離を置いてきた大人層にも響くだろう。店のエリアも渋谷中心地の喧騒から離れた、コーヒー店、レストラン、雑貨店、本屋が軒を連ねる奥渋谷だ。のんびりと歩く休日散歩に最高のロケーションも併せて愉しみたい。
東京都渋谷区神山町13-13
TEL:03-6416-8079
営業時間:12時〜22時
不定休