新生「ジェイエムウエストン 青山店」は、まるでパリの美術館のような空間です。

  • 写真:大瀧格
  • 文:高橋一史

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昨年末にリニューアルオープンした青山店の店内。オーク材を使った博物館のような什器が、この店のアイコニックなディテール。

すっきりとクリーンに軽やかに。穏やかで親しみやすく、より知的に。シューズブランド、「ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)」の日本第一号店である青山店がリニューアルしました。2018年1月にアーティスティック・イメージ&カルチャー・ディレクターに就任したフランス人、オリヴィエ・サイヤールの手による、世界初のコンセプトショップになります。

フレンチシューズのシンボルとして、パリのシャンゼリゼ通りに旗艦店をもつジェイエムウエストン。現在、世界中で50店以上展開する彼らが1993年にオープンさせたのが、骨董通り沿いにあるこの青山店です。今回のリニューアルで印象的なのは、ふんだんに使われたライトな色調の木材。趣味のいいモダンなリビングルーム、といった趣です。さらに、ガラスのファサードと店内を隔てるウィンドウディスプレイがないため、通りから店内全体を見わたせる、明るく開放的な空間になったのも特筆すべき点。

高級シューズを扱いながらも、豪華さや重厚さとは距離を置いた空間です。ディレクターのサイヤールが長く勤めてきたフランスの美術館や博物館の展示のように、一点一点のシューズが大切に飾られています。

来日したサイヤールが、店のテーマを語りました。

「年齢や職業を問わず、美術館のように若い人にもどんどん入って楽しんでいただきたいです。歴史的なノウハウが詰まった、アートに匹敵する我々のシューズを眺めていただくだけでも嬉しいですから」

店内の向かって右側は住居のようなスペース。革のソファが置かれ、壁に飾られたシューズを眺めながら過ごせます。床の絨毯は、シューズ工場で目にした吸取紙についたインク染みを表現した特注品。

財布やカードケースなどの小物類も、絵画作品のように額縁を用いてディスプレイ。¥29,160(税込)〜。120年以上もの歴史をもつジェイエムウエストンならではの革の美しさを伝える演出です。

サイヤールが初めて手がけた、2018年秋に登場した「コレクション パピエ」シューズ ¥129,600(税込)〜、ベルト ¥86,400(税込)。インクの吸取紙や古い製本紙などから着想されたデザイン。

リニューアルした青山店は、移り変わりが激しい青山・骨董通りの中でも、25年同じ場所にあり続ける老舗。青山通り(国道246号)からこの通りに入ると、ほどなく現れる好立地です。

スタッフユニフォームも一新され、クラフト感のあるショップコートとエプロンに。日本の「サイ(Scye)」とのコラボレートアイテムです。「彼らの店で見たワークウエアが素晴らしく、一緒にモノづくりしたかった」とサイヤール。

テーブルや床は、丈夫なオーク材の組み合わせ。温もりのあるイメージに大きく貢献する素材です。ブランドの頭文字である「W」をヘリンボーンで表現したという遊び心ある演出も、店内で見られます。

参考にしたのは、パリにある日本人デザイナーのショップ

2005年に京都・ヴィラ九条山に半年間滞在し、アーティストとして詩を書くなど、アート活動にも携わっていたオリヴィエ・サイヤール。日本人とメンタリティが似ているのは本人も認めるところ。

学生時代に美術史を学んだサイヤールは、その後マルセイユの「モード博物館」でディレクターを、パリの「ガリエラ宮パリ市立モード美術館」で館長を務めたファッションヒストリーの専門家です。パリにある日本人デザイナーのショップの記憶が、青山店をリニューアルするヒントになったようです。

「1980年代、パリで学生だった頃、ヨウジヤマモトやコム デ ギャルソンの店によく通いました。お金がないから買えませんでしたが、店はそんな若者も迎え入れてくれたのです。ジェイエムウエストンの青山店も、同じように開放的であることを望んでいます。できるなら、正面のドアも取り払いたいほど(笑)」

彼は一時的な流行より、歴史の中で価値が確立されたモードを好みます。

「ファッションは、それが生まれたときはインパクトがあります。そして、半年、2年、10年と経つうちに本当にいいモノが残っていきます。“時間” はいい仕事をするんですね。ジェイエムウエストンも、11あるアイコンモデルは昔から変わりません。その基本を守りつつ、同じピアノで違う楽譜を演奏するように新しい音楽を奏でるのが私の仕事です」

優雅な物腰で、笑顔を絶やさずに話すサイヤール。画家のアトリエや靴の工場が好きな彼のクラフト的な世界観が、リニューアルした店にも漂っています。

「日本の器の“金継ぎ” のように、シューズを長く履き、修理しながら愛用し続けてほしいです」

私たちと似た感性をもつ彼がディレクションする新生ジェイエムウエストンはまさしく、フランスと日本とをつなぐ架け橋になりそうです。

11の定番モデルのなかで、価格も含め最高峰に位置するのがこの「677ハントダービー 」。誕生は1968年で、もとは山歩き用でした。サイヤールは、水が染み込みにくいノルヴェジアン製法によるこの靴の黒モデルを愛用中。¥345,600(税込)

新デザインとしてサイヤールのアイデアでラインアップに加わったのが、日本でも一番人気の180シグニチャーローファーを厚底にアレンジした「180シグニチャーローファートリプルソール 」。定番にコンテンポラリーな味わいが加わりました。¥140,400(税込)

最下部のアウトソールの上に、ミッドソールを2層重ねた構造のトリプルソール。サイヤールが「ジェイエムウエストンは頑丈な靴」と誇らしげに語るなかでも、もっとも耐久性が高いのがこのソールです。

ジェイエムウエストン 青山店
東京都南青山5-11-5 住友南青山ビル 1F
TEL:03-5485-0306
開館時間:11時〜20時
不定休
www.jmweston.com