4人のプロに教わる、紳士的ジャケットとスニーカーの相性学。

  • 写真:清水健吾
  • 文:菊地 亮

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品行方正なジャケットにラフなスニーカー。その違和感を日々楽しむ4人の識者たちが、独自の紳士論から導く最良の組み合わせとは? それぞれが、普段から愛用している私物アイテムで回答する。


※Pen3/15号「TOKYO GENTLEMEN」特集よりPen編集部が再編集した記事です。


1人目:栗野宏文(ユナイテッドアローズ上級顧問 クリエイティブディレクション担当)

【CARUSO + NEW BALANCE】白レザーに身を包んだコートシリーズはあらゆる場面を行き来できる便利な一足ですね。ジャケットは三者混の別注生地で抜群のなめらかさ。よく第一ボタンだけ留め、ワイドパンツと合わせながら自然と起こる裾の揺らぎを楽しんでいます。

極論、いまのジェントルメン像を明確に定義するものはないのでしょう。ダイバーシティな世の中において決めつけてしまうのはナンセンスにも感じます。強いて言うならトラッドマインドをブラさないということでしょうか。昨年、上梓した『モード後の世界』(扶桑社)でも取り上げましたが、トラッドマインドは我々が常用する“UA語”で、要は、ある本質を備えた時代を超越するヒト・コト・モノの意。僕はニューバランスにもそれを感じます。

【COMME des GARÇONS Homme Plus + NEW BALANCE】フィレンツェで購入したトレッキング型の一足は、当時は雨天のため必要に駆られて、でした。色の足並みを揃えたジャケットは、保守的政治、気持ちの萎縮などが顕著な世の中への天啓にも感じます。袖を通すたびに、心が高揚してきますね。

ともすると、紳士たらしめるものとは確固たる哲学が存在しているかが分水嶺になるのかもしれません。コム デ ギャルソンのジャケットは昨季の作品でテーマは“カラーレジスタンス”。いわゆる色による抵抗ですね。デザインされた川久保さんは時代感の鋭い方ですから、閉塞感が漂う現代に対し、なんらかのカタチで対抗したいという想いを表したのでしょう。一方のカルーゾはやわらかな着心地が素晴らしく出張時などには頻繁に袖を通しますが、根底には変わらぬトラッドの軸が存在していて、培われた伝統的技術が心地いい着心地を生み出します。

変化が著しい昨今の紳士像はとどのつまり、自由ということになるのでしょう。しかし、確固たる哲学(回帰する場所)がその自由を担保することも忘れてはならないのです。


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栗野宏文●ユナイテッドアローズ上級顧問 クリエイティブディレクション担当。販売促進部部長、最高クリエイティブ責任者など歴任し、現職へ。原宿・トンちゃん通りでのランウェイやアフリカへの支援など、いまなお新しい挑戦に意欲を示す。

2人目:小澤匡行(編集者、ライター)

【ENGINEERED GARMENTS + VANS】ジャケットは、エンジニアドガーメンツを着てセレモニーに出るとしたら、というコンセプトでつくられたもの。かたや、フォーマルで履けるヴァンズがコンセプトというシボ革のオールブラックな一足。似て非なるアプローチの共演はバランス感がいいと感じます。

いまは、ジャケットにスタンスミスやジャーマントレーナーが、すんなり受け入られる時代です。とはいえ、スーツはスーツとしてちゃんと着たい派。革靴ならば王道のストレートチップが基本です。とすると、スニーカーに置き換えた場合はやはり内羽根式のデッキシューズが理想的かと。

ただ、“革靴みたいなスニーカー”はなかなかジャッジが難しい。個人的には、自分たちがカルチャーをもって接してきたスニーカーとしての姿を変えずに、より革靴らしくなっているものがいい。となると、シボ革を纏ったこのヴァンズの一足は格好の代物です。たとえば、エンジニアドガーメンツがつくるタキシードと合わせれば、それでセレモニーに出席したい衝動に駆られます。面白いのは、ジャケットはカジュアルダウンしているのに対し、スニーカーはドレスアップさせているところ。真逆のアプローチによってお互いが寄り添った、意外な着地点を見つける楽しさがそこにあります。

【Belvest + asics】ジャケットの袖口のボタンを外したのは腕まくりがしやすいから。スニーカーは、ゲル プレレウスをベースとしたNYのコレクションブランド、アウェイクとのコラボで、総柄デザインの斬新な一足を合わせるアプローチは、どこかアメリカ的で楽しいですね。

もう一方のジャケットには正統派クラシックのベルベストを選びました。ただ、こちらはあえて袖口のボタンを付けていないのでラフに羽織れる。そこへアウェイクがラグジュアリーなストリートの品格を演出します。これはアシックスでありながらハイブランドの靴を履いている感覚。アシックスの寡黙な姿勢による匿名的なデザインが、そう思わせるのでしょう。


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小澤匡行●編集者、ライター。アメリカ留学を経験した後、ライター業をスタート。ファッション誌をメインに、カタログなどの制作も手がけている。著書に『東京スニーカー史』(立東舎)がある。

3人目:坂田真彦(アーカイブ&スタイル代表)

【MAISON MARGIELA + CONVERSE ALL STAR (ORDER)】ブルックリンの芸術系大学内の、学生が純白スニーカーにペイントする手法がベースとなったカスタムサービスで我が社名をプリント。そこへ、仕付け糸すらもデザインへと昇華させたメゾンのジャケットを合わせるシニカルさがいまの気分ですね。

いまは自由度が増し、なんでもありなスタイルが横行しています。格好いいモノは格好いい、格好悪いモノも格好いい。なかなか正しい方向性を見つけづらい世の中です。だからこそ通す筋が大事。アメカジの代名詞たるコンバースのオールスターにモードなメゾン・マルジェラのジャケット。イレギュラーな組み合わせですが、すこぶるクリーンでジャケットの背景にテーラーの基本が透けて見えるものなら、諸手を挙げて迎え入れられる。


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【Vintage BURBERRY + SOPHNET. × REPRODUCTION OF FOUND】肩パッドやラペルの緊張感が士官学校の制服を想起させる一着はドイツのとあるショップがオーダーしたとみられる80年代物。ソフネットとのコラボレーションによるジャーマントレーナーは配色や細身のラストにシックを感じます。

一方では、メンズウエアの基礎でもあるミリタリーを軸としました。英国海軍の乗組員が着用したジャケットを起源とする(※諸説あり)ブレザーに、革靴の風情漂う軍のトレーニングシューズは、クラシックとカジュアルがなかなかにしていいバランスです。どちらも筋を通すからこそアンダーステイトメントな遊び心がより活きますし、さりげなく公的な場でかけられる「それどこの?」なんてひと言から、各々のジェントルメン度を推し量ることができるのではないでしょうか。

伝統や格式といった“形式 ”を重んじるがあまり、紳士の認識を難しくさせている気はします。とはいえ、かのウィンザー公はそれらを踏まえていたからこそ、いい意味での裏切りが賞賛を浴びました。大切なのは大人としての筋を通すことなのです。

坂田真彦●アーカイブ&スタイル代表。コレクションブランドのデザインを担当したのち、2001年に独立。ソフネットやマンハッタンボーテージブラックレーベルなどのブランドのクリエイティブディレクターを担う。

4人目:尹 勝浩(ビームス ファッションディレクター)

【Custom Tailor BEAMS + MOONSTAR × Fennica】ビームス フェニカのバイヤー、テリー・エリス氏、北村恵子氏が別注をかけたデュークは、ウィンザー公が履いていたスニーカーがソース。その背景にもグッときます。オーダーしたこのジャケットとのコンビは、トーキング・ヘッズのデビット・バーンをイメージ。

ジェントルメンは、得てして普遍性を前提に語られることが多いですが、明らかにその概念は、昔といまでは大きく変わってきています。海外の映画やドラマを見れば、わかりやすいかもしれません。

いま注目しているネットフリックス作品で『ルパン』というドラマがあります。オマール・シー演じる主人公が実父を陥れた裕福な一家へ復讐を仕掛ける内容ですが“紳士”という言葉が頻繁に出てくる。作中で女性が「男は二種類に分けられるわ。野獣と騎士よ」と語る場面がありますが、彼はもう一種類いると言葉を紡ぎ「それは紳士だ」と言い放つのです。その主人公はエア・ジョーダンを履いていました。


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【Custom Tailor BEAMS + adidas BW Army】こちらはバルベリスカノニコの生地で仕立てたオーダースーツのジャケット。足元はドイツ軍のミリタリーウエアをパッチワークで構築した異色作で、20年ほど前に購入しました。唯一無二のアシンメトリーデザインと、いまの時代を先読みしたようなアプローチに脱帽です。

日々の生活を考えるとジャケットスタイルの息抜きとして機能しつつ、変に傾いているわけでもない一足が好ましいのではと感じます。ムーンスターのスニーカーはソールの主張が革靴的ですし、パッチワークの一足は斬新ですがジャーマントレーナーならではのナローラストは健在で、シアサッカーのセットアップともウマが合います。

外出時は周囲の目もありますから好き放題というわけにはいきません。押し付けがましさや気障と気取られず、場所をわきまえ“らしさ”を表現することもかなりのセンスが要求されます。ただ純粋に楽しんでいる姿は、どこか紳士的ではないかと個人的には思うのです。

尹 勝浩●ビームス ファッションディレクター。ビームスにて販売やバイヤーのほか、数々のプロジェクトにも参画。いまなおビームスのドレスクロージングの“顔”として君臨し、映画や音楽などのカルチャーにも精通。