「オーダースーツ」で盛り上がるメンズファッション。いまなぜ、“国産”が人気なのか?

  • 文:海老原光宏

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いま、国内ファッション市場は不調と言えます。三陽商会やワールドなどの大手アパレルのリストラや、三越伊勢丹、西武・そごうなど百貨店の店舗閉鎖など日々暗いニュースを目にし、直近の報道媒体でも、経済誌『日経ビジネス』では「買いたい服がない」(2016年10月3日号)、ファッション週刊紙『WWD JAPAN』では「ファッションは本当にオワコンか」(2017年1月9日号)といった、キャッチーなタイトルの悲惨な特集が組まれています。日本のファッション消費が転換点を迎えているのは間違いありません。  

しかしそんな中でも沸々とたぎっている分野があります。それがメンズファッションです。もともと日本のメンズデザイナーズブランドの評価が世界的に高いのはご存じでしょう。けれども今回はモードの世界の話ではありません。コンサバティブなビジネススーツの領域です。では、それがいま受けている理由とは何でしょうか?

老舗オーダースーツが銀座に進出

ラグジュアリーブランドや老舗テーラーが軒を連ねる銀座に3月16日、イージーオーダースーツブランドの旗艦店がオープンしました。埼玉に本社を構える花菱縫製の「HANABISHI 銀座店」です。同社は1935年創業のオーダースーツ事業をメインに据えた老舗アパレル企業。国内5か所の自社工場をもち、今まで培ってきたノウハウによって、職人の手仕事とマシンメイドのハイブリッドでスーツを日々生産しています。ブランドサイトで発信しているメイキング動画は洋服好きなら思わず見入ってしまうもの。

(花菱によるオーダースーツのメイキングムービー)
 

既存のHANABISHIショップは北海道から東海にかけて18店舗を展開。19店舗目となる銀座の旗艦店は2層にわたり、1階にはフラッグシップならではの買い付けブランドが並びます。セレクトされているシューズの「Mark Boots」やジーンズの「Betty Smith」はオーダー専門で、価格はそれぞれ¥65,000~、¥31,000~。こうしたアイテムをスーツに合わせて購入するのもHANABISHI銀座店らしい楽しみ方でしょう。そのほか、バッグの「Kiefer neu」、ネクタイ・チーフの「Franco Bassi」、カフス・タイバーの「ELIZABETH PARKER」などドレスアイテムも揃っています。

「HANABISHI 銀座店」の1階内観。買い付けられたアイテムが並んでいます。

多様化した消費者ニーズに応える、“オーダー”という仕組み。

2階の内観。こちらがオーダースーツのフロア。

2階はオーダーサロンです。スーツ、ワイシャツ、ジャケット、パンツ、コート、ジレがオーダー可能。スーツは生地、シルエット、ラペル幅やボタンなどのディテールを組み合わせること30,000通り以上に及ぶと言います。価格は39,000円からで、納期は約3~4週間。また、ブランドホームページではカスタムをシミュレーションすることができ、オーダーシートとしてプリントして店舗に持参することも可能となっています。この手軽さ、アフォーダブルさがいまのメンズマーケットに受けているのでしょう。

体験価値のビジネスモデル

こういったオーダービジネスで話題を集めているブランドがいくつかあります。紳士服大手のコナカが佐藤可士和をクリエーティブディレクターに迎えたスーツブランド「DIFFERENCE」は昨年10月のローンチからわずか半年ほどで12店舗出店とアクティブです。スマホアプリで店舗予約、カスタムオーダーもできるというモバイル時代に適したサービスを実施しています。

スタートアップ領域でも注目を集めている分野で、メンズカスタムオーダーブランド「La Fabric」を運営するライフスタイルデザインは、この1月に4億円の大型資金調達を完了したばかりです。こちらは当初ECから始まり、現在ではリアル店舗も出店。工場、生地屋と直接取り引きし、中間マージンを削減。撥水や洗える生地を開発し、機能的かつリーズナブルなオーダースーツを提供しています。

これら3者に共通しているのは、現代の消費者の多様化するニーズに“オーダー”で応えられていることと、サプライチェーンの垂直統合によるクオリティーとプライスのバランスの良さです。商品はmade in Japanという裏付けをもち、質は間違いないレベルに達しています。それが品質と価格にシビアな今の消費者に“刺さる”状態になっているのです。

自社サイトなどから発信するコンテンツでコンセプトをしっかり伝え、ブランドイメージを確立していることも見逃せません。リアルとデジタルを行き来する現代の男性に向けたマーケティング施策がユーザー体験を向上させているのでしょう。ブランディングなら海外ラグジュアリーブランドも得意としているところですが、大量の広告宣伝費を織り込んだ上代設定に消費者は気付き始めており、現代の日本の中間層には響きづらくなっています。既製服で30万円以上、オーダーとなると50万円以上も当たり前というインポートブランドは、その値段に見合う価値を伝えることが難しい時代なのでしょう。

私は以前からオートクチュール=注文服こそ最高のビジネスモデルと考えていました。既製服に比べ在庫リスクがなく、顧客満足度が高い。問題は納期と価格でしたが、サプライチェーンの見直しによって、かなり改善されています。デジタル時代のオーダーファッション。このモデルに国内アパレル産業復活のヒントが隠されているのではないでしょうか。

HANABISHI 銀座店

住所:東京都中央区銀座1-7-17 銀座一丁目ガス灯通ビル1F/2F
電話:03-5524-1091
営業時間:11時~19時30分
定休日:水曜日