自分の在り方と重なった、服のサイクルを題材に。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    酒井瑛作・文
    text by Eisaku Sakai

    自分の在り方と重なった、服のサイクルを題材に。

    大谷将弘+今福華凜(パグメント)Masahiro Otani+Karin Imafuku (PUGMENT)
    ファッション・デザイナー
    ともに1990年、東京都生まれ。2014年より活動を始める。衣服と人・都市・社会・時間との関係性を抽出し、衣服制作を行う。2018年に秋冬コレクションをもとにしたアートブックを出版予定。

    2014年にファッション・ブランド「パグメント」を立ち上げ活動している大谷将弘と今福華凜。ふたりは、従来のイメージから想起されるようなファッション・デザイナーではない。言うなれば、コンセプトメイカーだ。 
    彼らのコレクションは、ファッションのみならず、アートまでをも射程に入れた自由な表現で大きな世界観を提示し、発表ごとに形式や内容ががらりと変わる。さらに服はあくまでコンセプトを伝えるためのひとつのツールだという。どういうことだろうか。 
    彼らのファッションに対する独特な向き合い方をひも解く上で、美大から服飾学校へと学びの場を移したという経緯はひとつの補助線となる。活動のきっかけを大谷はこう語った。
    「最初は現代アートを学ぶために美大へ通い、作家性とはなにかを考えていましたが、自分にはアイデンティティがないと気付いてしまって。けれどある日、その時の気分で選んだ服で、ある種のキャラクターを表現することも自分らしさだと思ったんです」 
    それからテーマとして、ファッションを取り巻くシステムそのものを扱い始めた。どう見られたいかという欲求に訴え、シーズン毎に新たなアイデンティティを提案し、消費を促すファッションのサイクルそのものが自らの在り方にぴたりと当てはまるからだ。 
    ならば、アーティストよりもファッション・ブランドとして制作したほうが大勢に伝わりやすいと考えた。 
    新作のコレクションでは、戦後から現在までの日本で流行したトレンドを年表にまとめ、そこから検索した画像をもとに一枚の画をつくり、服にプリント。それらはスタイリストの小山田孝司と共同でつくり上げた。さらにこの服をセレクトショップやギャラリー、書店など複数の拠点で発表、販売した。ふたりはこう続ける。
    「日本のファッションは消費とアイデンティティが合致していて、そんな状況に批評的な視点をもちつつ、同時に楽しんでいる自分たちがいます。そこから生まれるコンセプトを大切に、いかに流通しやすいデザインに変換してアウトプットするか、かたちに捉われず世界に向けて発信していきたい」 
    彼らは特定の手法や媒体にこだわらない。人と服を取り巻く現代ならではの感覚を伝えたいのだ。いまは表現として服が適しているから服をつくる、と語るふたり。さらなる変化を秘めた動向に注目したい。

    works

    昨年発表したコレクション。モデルを覆うベールにはネットから取得した日本の服飾史をたどる画像がプリントされており、近未来のファッションの在り方を考察する。photo:Arata Mino

    ※Pen本誌より転載