夫婦揃って同じ空間で働ける、“閉じない”ワークスペースのある家

  • 写真:大河内 禎
  • 文:Koba.A

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住居は半地下に位置。隣人と繋がりやすいコーポラティブハウスの恩恵を受けつつも独立性が高く仕事や暮らしに注力できる。

夫はブルーライトカット眼鏡をかけ、妻はコーヒーを淹れるのが、仕事開始の合図。SONYで自立型エンターテインメントロボットのソフトウエア開発に携わる藤井拓矢さんと、フリーランスライターのそのこさん夫妻は都内のコーポラティブハウスに暮らす。3.5畳のワークスペースが目を引く家だが、ここ、当初は「将来、子どもが宿題をするのにいい」くらいに考えていたそうだ。まさかここで並んで仕事をすることになるとは想定外だったのだ。

会社では以前から月に10回のフレキシブルワーク(在宅勤務)が認められていたが、「その制度を使ったことはありませんでした」という拓矢さん。それが「コロナ禍で気づけば全社原則フレキシブルワークに切り替わり、いまは月に一度程度しか出社していません。大半はこのスペースで仕事をしています」というから急転だ。以前まで取材や撮影の後、「そのままカフェなどでPCを開いて仕事を終わらせて帰宅していた」というそのこさんもいまはほぼ在宅になり、この場所を活用する。

自由設計が叶うコーポラティブハウスの中で夫妻がこだわったのは「閉じない空間をつくること」。家族が別々のことをしていても同じ空間にいることを感じられる家にしたいと、ワークスペースをアールの壁で仕切るいまの形にたどり着いた。

カウンターとデスクには30㎝の高低差があり、仕事場にありがちな雑然とした感じが暮らしに影響することもない。だから必然的に、開発作業に必要な関連機器、ロボットサンプルなどで手元が広がりがちな拓矢さんがデスクを占拠する頻度が高くなる。そういう時、PC一台で事足りるそのこさんは、ダイニングスペースを使うそうだ。

PCさえあれば家でもどこでも仕事はできると謳われがちな在宅ワークだが、簡単ではない場合も少なくない。これだけのワークスペースをもつふたりでも、だ。拓矢さんは「オフィスで使っていたものをすべて自宅に持ち帰りましたが、より快適さを求めて、高解像度のモニターを2枚に増やしました。おかげで会議ツールやチャットを常に開いておけるので、便利です」と話す。それに合わせ、アダプターやセパレートキーボード、椅子……、環境を整えるべく多くを用意した。「都市部にオフィスを構える企業は、オフィス縮小の傾向にあり、在宅ワークは推奨され続けると思います。ただやはり、相手の顔が見えないので相談のタイミングには気を遣いますね。対面でのコミュニケーションが減ることにより生じる不便さを感じています」と拓矢さん。

もちろんメリットもある。ふたりも「早めに始業できたり、家族の時間が増えたり。時間的な面はメリットが多いし、互いに相手がどんな仕事をどんなペースでしているか知ることもできました。結婚10年目にして発見があり、尊敬の念も生まれて。このスタイルを続けたいと思いますね」と口を揃える。

新しい働き方はすぐには馴染まないかもしれないが、こんな時だからこそできたことのもつ意味がなにより尊い。ふたりが働く空間に温もりがある理由がわかった気がした。

カウンターの高さは1m。リビングから見て雑多になりがちなデスク上を隠しながらも、圧迫感を生まないちょうどいい設計。

同居する「aibo」が在宅時間の癒やし。瞳や表情の変化が愛らしい。「とにかく僕らが好きらしく、甘えてくるんです(笑)」