『井上嗣也展 Beginnings』で、80年代から現代まで加速するクリエイションに飲み込まれる。

  • 文:はろるど

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奥の壁に展示されているのは、新作のポスター『The Burning Heaven』シリーズ。天体や宇宙を思わせるイメージが、輝かしい光を放って高速で動いているようです。写真:藤塚光政

パルコやコム・デ・ギャルソン、サントリーのウイスキーオールド。1980年代、世間を騒がせたこれらの斬新なポスターに、見覚えがある人は多いはず。写真とタイポグラフィーを自在に操る、アート・ディレクターの井上嗣也(いのうえつぐや、1947年生まれ)によるデザインです。

ギンザ・グラフィック・ギャラリーでの初めての個展から約10年ぶりに、井上の展覧会が開催されています。タイトルは『井上嗣也展 Beginnings』。サカナクションのシングル『多分、風。』のジャケット、篠山紀信が半世紀にわたって撮影したヌードをまとめた写真集『NUDE by KISHIN』……展示されたグラフィックは、どれもがひと目で脳裏に焼きつくほどのインパクトを放っています。特に、太陽や月、植物などの写真を巧みに用いて、架空の宇宙を表現した新作のポスター『The Burning Heaven』シリーズは凄まじい迫力。まるで映像のような躍動感があり、光は熱気を帯びているように見えます。会場BGMは、井上と関係が深く、レコーディング・エンジニアであるオノセイゲンが、コントラバス奏者のパール・アレキサンダーとコラボした『Memories Of Primitive Man』。ジャケット・デザインは、もちろん井上です。

1980年代から現在まで、広告や出版、さらには音楽やファッションとのコラボレーションなど、いまも進化し続ける井上のクリエイション。その軌跡を、デザイナーの矢萩喜從郎は「稀有な好奇心に誘われる旅を続けている」と評しました。新作『The Burning Heaven』で宇宙にまで達した井上の好奇心に、終わりはありません。まさに「Beginnings」という言葉の通り、彼の新たな旅が、いま始まるのです。

『Whisky Old 監督シリーズ』1987年 AD・D /井上嗣也、P /冨永民生、CD /辰馬通夫・貝原武、C/ 小野田隆雄 、ADV/サントリー  アメリカの映画監督、ジョン・ヒューストンの顔を大胆にクローズアップして並べています。

『Sakanaction』2016年 AD・D/井上嗣也、D/稲垣 純、P/阿部克昭、PR/山口健司 、ADV/ビクターエンタテインメント  サカナクションの12枚目のシングル『多分、風。』のジャケットのポスター。白い馬が転げながら跳ねる、躍動感のある作品です。動物は井上がよく引用するモチーフのひとつ。

威嚇するように、鳥が大きく口を開くポスター。オノセイゲンの楽曲30周年を記念して今年発売された『COMME des GARCONS SEIGEN ONO』のジャケットです。 写真:藤塚光政

『井上嗣也展 Beginnings』

開催期間:2019年5月14日(火)~6月26日(水)
開催場所:ギンザ・グラフィック・ギャラリー
東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
TEL:03-3571-5206
開館時間:11時~19時
休館日:日、祝日 
入場無料
http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/