多くの人のため、進化する東京都のコロナ対策サイト

  • 文:山田泰巨

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立ち上げ当初の2020年3月5日時点のサイトでは、4項目の情報が公開された。陽性患者数や検査実施数、海外からの帰国者の相談件数。そして感染の疑いがある際の連絡先として、コールセンターの情報などを最優先したという。

2020年3月3日に東京都が開設した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」。小池百合子知事が立ち上げを指示してから、わずか6日後のことだ。迅速な立ち上げや情報開示の手法が評価され、サイトは昨年度のグッドデザイン賞金賞を受賞。構築したのは、一般社団法人コード・フォー・ジャパンである。彼らは、デジタル技術に長けた市民が社会課題の解決に寄与する「シビックテック」を推進する非営利団体だ。東京都のケースは、開発を受注した翌日の深夜にサイトを開設するという離れ業ぶりでも話題を集めた。

コード・フォー・ジャパン代表の関治之は、受託の可否を問わず、コロナ禍の対策サイトを構築したいと動き始めていたことが功を奏したと分析する。彼らには災害支援のサイト構築を行ってきた実績があった。その知見を活かし、都の要望を含む追加要素などの検証を進め、最速で完成させるのに必要なスタッフやサイト構築の方法を決めた。

「サイトに表示する情報は都が提供します。開発時までに用意された情報はよく精査され、立ち上げ以降の共有も迅速に進められました。このパンデミックの状況下で、正しい情報を集め、わかりやすいかたちで一元化することは非常に大変な作業です。それを一年以上にわたって更新する経験は、今後のIT行政にも活かされるでしょう」

関 治之(せき・はるゆき)●1975年生まれ。「コード・フォー・ジャパン」代表。開発者としておもに位置情報系サービスを数多く立ち上げ、テクノロジーを活用したオープンイノベーションの研究を行う。2009年、ジオリパブリックジャパン設立。東日本大震災の復興支援プラットフォームサイト「sinsai.info」の総責任者として運営に携わり、13年コード・フォー・ジャパンを設立。東京都新型コロナウイルス

ソースコードを公開し、 みんなで議論していった

「やさしい にほんご」での表示。ひらがなを中心にして漢字には読みがなをふった。英語、中国語、韓国語も選択可能。色彩については、色覚特性をもつ人にも見やすく、グラフの変化が認知しやすい濃度に設定している。

これらのデータをどのように届けるか。コード・フォー・ジャパンは、ソースコードやデータをコード共有サイト「GitHub」に公開して多様な意見を収集する一方、国内外にサイト構築のひな型を提供していった。さまざまな利用者を想定。直感的な理解を促すデザインも探った。たとえば基調色の緑は、利用しやすさを鑑み、初期のものから色調を変えている。色覚特性をもつ人も読みやすく、視覚障害者のためのスクリーンリーダーで認識ができ、グラフの動向を認識しやすい明瞭な色が選ばれた。このように、ときに専門家の指摘を受けながら、改善が続けられている。

「みんなでいいかたちを議論しながら積み上げていきました。機能性と暗く重たい印象を与えないデザイン性など、その両立のために多様な意見を聞き、総合的に考えて進めていきました」

関は、このサイトの最たる意義は「透明性」にあるという。そのためにサイトのソースコードを含む情報を開示して、利用者の信頼を得る。今後はワクチンや予防策へのさらなる情報掲出が予想され、信頼性の担保はますます強く求められるだろう。市民の知恵とともに、新たな行政の情報発信の在り方が提示された。その役目を終えるまで、本サイトの進化は続く。

検査陽性者数の状況を示す表。右ページにあるサイトの立ち上げ時の図表と比較すると、読みやすく変化しているのがわかる。ひと目で状況を理解できるとともに、冷静沈着に情報を読み解くことができるかたちを模索している。

行政のサイトとして、日に日に増える情報を切り捨てるわけにはいかない。利用者の要望に合わせてストレスなく見せる、最小のステップ数で求める情報にたどり着けるようにするなどのアップデートを、絶えず繰り返している。

東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト

東京都の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、2020年2月26日に小池百合子知事が感染症対策の立ち上げを発表。東京都は庁内の部署を横断した特別広報チームの編成を行い、各部署のデータをもとに構成案を練って仕様書を作成。3月2日にコード・フォー・ジャパンが受託。翌3日にサイトは公開に至った。2020年度のグッドデザイン賞で金賞を受賞。

https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp