日本民藝館『食の器』展で、柳宗悦の目線から豊かな暮らしのヒントを見つけよう。

  • 文:はろるど

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すべて柳宗理による遺贈品で、実際に使った痕跡も。左奥の赤みを帯びた『辰砂角筥(しんしゃかくばこ)』は河井寛次郎作。柳邸でバターを入れるための器として使われました。

日々の生活に欠かせない食器。土地や時代によっても形や色、制作手法はさまざまで、最も身近な工芸品と言える存在でしょう。そうした食器を、自らの哲学と審美眼に則ってコレクションした人物がいました。現在、特別展『食の器』を開催している日本民藝館の創設者、柳宗悦(1889年〜1961年)です。「実用のためにつくられた雑器にこそ美が宿る」と考えた柳は、日本の地方民窯や朝鮮の陶磁器などを中心に、名もなき職人がつくった食器を多く蒐集しました。

「見ることは悦びである。しかし使うことの悦びはさらに深い」とは、柳が『作物の後半生』(1932年)にて著した言葉です。柳は、単に食器を目で楽しむだけでなく、使いこなすことに価値を置き、蒐集品を日常的に使いました。また同時代の工芸作家、河井寛次郎や濱田庄司の作品も普段使いの器として愛用。なかには日頃使っていた食器が、いつの間にか日本民藝館のケースに飾られていたというエピソードも残っているそうです。今回の展示でも、旧柳邸を飾った小襖を背に、柳の蒐集した食器を載せたテーブルセットが設えられ、在りし日の柳が囲んだであろう食卓の光景が思い浮かべられます。

この他にも、柳が深く愛した侘び茶に連なる茶道具をはじめ、江戸時代の土瓶や急須、また螺鈿で装飾された菓子箱、それにイギリスのスリップウェアや透し彫の見事な朝鮮の膳まで、『食の器』のコレクションが惜しみなく展示されています。どれもが魅力的で、「この器ならどんな料理が合うだろうか?」と空想を誘います。ひとつひとつに柳の美意識が反映された食器を通して、暮らしを豊かにするヒントが得られるかもしれません。

濱田庄司『色釉格子文茶器(いろゆうこうしもんちゃき)』1928年 『濱田庄司陶器集』(1933年)に柳の所蔵品として掲載された、濱田の初期作品。クリーム色の地に、水色や茶色の線で格子が描かれています。一部にヒビが入ったのか、湯呑は金で継がれていて、柳邸で愛用されていたことがわかります。

『独楽盆(こまぼん)』江戸時代・19世紀 色漆を同心円状に塗り分けた盆。木目の質感をそのまま残しています。戦前の柳邸で長年使われていました。

中国・明時代の『色絵波文輪花形皿(いろえなみもんりんかがたさら)』や、江戸時代の『織部草文額皿(おりべそうもんがくざら)』など、懐石の基本である一汁三菜を供するための器が並んでいます。和歌山の根来寺に由来し、元々は社寺の什器として利用された『根来盥(ねごろたらい)』が、折敷(おしき)に見立てられているのも特徴です。

『食の器』

開催期間:2019年6月25日(火)~9月1日(日)
開催場所:日本民藝館
東京都目黒区駒場4-3-33
TEL:03-3467-4527
開館時間:10時~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌平日)
入場料:一般¥1,100(税込)
www.mingeikan.or.jp