【Pen最新号をチラ見せ|宇梶剛士×貝澤雪子】樹皮から糸をつくり、織り...

【Pen最新号をチラ見せ|宇梶剛士×貝澤雪子】樹皮から糸をつくり、織り上げる壮大な世界。

写真:佐々木育弥 文:渡辺芳浩

貝澤雪子●1941年、北海道日高町出身。62年、二風谷に民芸品店を開業。2013年に二風谷イタとともに北海道で初めて経済産業省の伝統的工芸品に指定された、二風谷アットゥㇱの第一人者。北海道アイヌ伝統工芸展伝統工芸部門で優秀賞を数度受賞、アイヌ文化活動アドバイザーを務める。18年に伝統文化ポーラ賞・地域賞、19年にアイヌ文化の普及と振興における文化庁長官表彰と北海道文化賞を受賞、また平取町産業経済功労表彰を受けている。

1993年、国際先住民年のイベントが平取町二風谷で開催。その時訪れた頃からの縁で、宇梶剛士さんは何度か二風谷を訪れてきた。

「ここにはいまも伝統を受け継ぐ作家がいて、訪れるたびに学びと刺激をもらっています。僕が手がけた舞台『永遠ノ矢=トワノアイ』も、二風谷の方々に相談しながらつくりました」

二風谷は北海道で初めて伝統的工芸品に指定された「二風谷イタ」と「二風谷アットゥㇱ」の生産地。「イタ」はアイヌの文様を彫った木製の盆で、「アットゥㇱ」はオヒョウやシナなどを繊維状にし、よった糸で織るアイヌの布や着物だ。宇梶さんは、60年以上にわたりこの地でアットゥㇱ織りを手がける貝澤雪子さんと、若い頃から交流をもつ。雪子さんは言う。

「作業時間は、目が覚めてから眠たくなるまで。夜9時とか10時になることもあります。なにしろ楽しいので、飽きることがないんです。糸の強さに合わせて加減をしたり、帯や反物の一つひとつが生き物なんです」

高機と違い、糸の上げ下げや、隙間に糸を通しヘラを倒して横糸を手前に寄せてたたくといった工程のすべてが手作業。根気が要るが、楽しみながらの製作と雪子さんは話す。

アットゥㇱは、樹皮から取った繊維をより合わせてつくった糸で織り上げる。独特の張り感をもち、手間や技術を要する仕事だ。織機は一般的な布のように大型化できず、小さな腰機を膝に抱え正座で織り上げていく。雪子さんは伝統衣装の帯や反物として、年間12本ほどを製作。その工程の八割が、実は糸づくりに関わるものだ。立木から剥いだ樹皮を灰汁で煮た後に、流水で洗い、ぬめりを取りながら内皮を剥がして乾燥。さらに糸にするために内皮に裂け目を入れ、乾燥後、糸に紡いでいく。この作業は伝統的に女性が一年を通して行うものだ。

膨大な手間をかけてつくられるアットゥㇱについて、宇梶さんはこう語る。

「実は数年前に母からアットゥㇱをもらいました。やはり着ると気持ちが引き締まります。独特の風合がアットゥㇱの魅力。雪子さんの作品はとても目が細かくて、飾ってあると雪子さんの作品だとすぐわかります」

  • 工芸品として需要が高まったのは18世紀といわれるアットゥㇱ。二風谷は製作が盛んで、後継者の育成にも力を入れている。雪子さんのこの作品は、これまでの伝統的な布には見られなかった柄を表現した“新作”。爽やかな色味のストライプや、色のトーンを変えた格子柄は、モダンで華やかさも感じさせる。
  • 雪子さんが織り上げた織物に娘の真紀さんがアイヌ文様の刺繍を施したアットゥㇱ。アイヌ文様は後からステッチを縫い込んでつなげられるが、モレウノカという渦巻の文様やアイウㇱノカというトゲなど、基本的なルールを理解していないと連続性が損なわれる。photo: epuy

雪子さんは実演などを積極的に行い、アットゥㇱの存続に貢献している。一方で、自分の感性を反映させ、これまでにはない新作柄も発表。格子柄とストライプの2本は、2020年に誕生したアイヌ柄の進化系だ。アイヌの伝統的な衣服は、織られた布地に切きり伏ぶせや刺繍が施され完成する。

「アイヌ文様には型があって、そのルールに沿った描き方をする限り、永遠に続くようになっているんです。無限に広がる世界観をもっています。ですから、後から布を付け足し絵柄を広げて衣服をつくることもできます」

そう語る雪子さんのこぢんまりとしたプレハブの作業場は、『永遠ノ矢=トワノアイ』で主人公の家の舞台設定となった。北の大地に思いを馳せる青年が壮大な旅に出る物語に、アットゥㇱが生まれる場所はインスピレーションを与えたのだ。


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