世界中の「掃除」を採集した新メッセージと「これからの無印良品」について、原研哉、上田義彦らが語った。

  • 文:Pen編集部

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9月1日に開催されたトークイベント「これからの無印良品」。「掃除」をテーマにした新メッセージは本来3月に展開される予定だったが、新型ウイルスの感染が拡がり始めた状況を鑑みて延期されていた。

今年、創業40周年を迎えた無印良品が、新たな企業広告とメッセージ「気持ちいいのはなぜだろう。」を打ち出した。テーマは「掃除」。あらゆる国々で日々営まれている掃除の様子を写真や映像に収め、公式サイトやテレビCM、雑誌、新聞を通して日本国内外に展開している。

広告のスタートに合わせ、9月1日にトークイベントが開催され、長年にわたり同ブランドの広告を手がけてきたグラフィック・デザイナーの原研哉、写真家の上田義彦、良品計画の代表取締役会長・金井政明が登壇した。

グラフィック・デザイナーの原研哉。世界中の「掃除」をリサーチし、その営みと道具の両方を見つめ直そうと考えた。今回の撮影を振り返り、「広告では、いくつかの映像を使わせてもらっているけれど、ひとつひとつの掃除のなかに面白い物語がある」と話す。

第一部は、原と上田が登壇。冒頭に前回の2018年の企業メッセージの撮影の際に行ったガラパゴス諸島で出合った動物たちの話題から始まり、今回のイランで日常的に行われているペルシャ絨毯の洗濯や中国の高層ビルの窓掃除、日本の大仏の「お身拭い」など、100カ所以上で行われた掃除風景の撮影を振り返った。

テーマである「掃除」について原は、「人間はなんで掃除するんだろう?と考えた時に、自然は人間にとってつらいもので、人間だけが好きなように環境を整えている。一方で自然は、どんどんそこに侵食してくる。それを放っておくと気持ち悪いので人工的に整えていく。人工が増えていくと自然が恋しくなって、自然に行き過ぎるとまた少し人工に戻りたくなる。その間を調停しているのが掃除っていう作業で、ものすごく人間臭い営み」と話す。

写真家の上田義彦。公式サイトやテレビで流れている新CMを見て「いまはコロナ禍で生活していますが、これはその直前に撮られた映像。なんでもない日常の姿なんだけれど、とても大切な映像を見せられているような、見ていると切なくなる」と話す。

上田は、「2000年代頃までは、夢を見たり、世界を意識し始めたのも広告からだった気がする。ここ最近の広告は物を売るだけに見える」と憂う一方で、無印良品の広告について「日常のちょっと先の夢を見させてくれるような、ホッとする感じがする」と評価した。

また、今回の撮影と完成した広告を振り返り、「世界が混沌としていて、大丈夫かって思うんだけど、それぞれの国の日常の風景にとんでもなく大事なものもある。こういう豊かな地球の姿をどんどん見ることができたら、ちょっと幸せな時間を見た人たちがもてるかなと思いますね」と語った。

世界中から採集された掃除の風景は、写真集『掃除 CLEANING』として一冊にまとめられ、日本国内の無印良品123店舗とネットストアで先行発売中だ。

良品計画 代表取締役会長、金井政明。延期された今回の広告展開をアフターコロナではなくウィズコロナ時代に実施すると決めた理由について、「コロナ禍で日々テレワークしたり、掃除したり、料理作ったり、やってるのを見ながら、やっぱり人間の本来の営みっていうのは大事なメッセージになると思った」からと答えている。

第二部は、原と金井が登壇。新潟県直江津にオープンした大型店舗や、同店や山形県酒田市でスタートしている移動販売について取り上げ、今後の展望について語った。

金井は、これからは世界進出よりも日本の深部にどれだけ関われるかが重要だとし、「小売業を、個店を主人公につくっていくことがこれからの無印良品」と語り、それぞれの店舗や地域に特化した商品やサービスの拡充を示唆した。

そして「無印良品の商品は、“生活のOS”。裏方の商品をしっかりした品質で、倫理的にも誠実で安いっていうのをつくろうと思って売り場にいます。例えばキッチンや洗面台の扉を開けると、いろんなグラフィックの派手なものに囲まれていませんか?裏方でも生活にとって大事な商品がものすごく生活臭を出している。そこを整えながら買いやすいことが大事だと考えて、それを本気になって追及しています」と締めくくった。

ただ物を売るだけでなく、人々の暮らしを見つめ、そこから大事なメッセージを見出そうとする無印良品。その姿勢が表れる広告は、物だけでは測れない日々の暮らしの価値を気づかせてくれるだろう。


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