名作椅子も座ってOK!「椅子の神様」、宮本茂紀の仕事に触れる展覧会。

  • 文:はろるど

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『SPRING』2019年 デザイン:佐藤卓 製造元:ワイス・ワイス 製作・所蔵:五反田製作所グループ 撮影:尾鷲陽介 宮本による最初の試作品。スケルトンでできていることから、内部のコイルスプリングの構造などがよくわかる。「人の一生より長い寿命をもつソファ」をコンセプトに、伝統的な日本の木組みの技術を生かして開発された。

1950年代から現在に至るまで約65年以上も椅子づくりに携わり、「椅子の神様」と称される宮本茂紀。15歳にして明治由来の伝統的な椅子づくりを学び、新たな素材や変化する技法に対応しながら、デザイナーや建築家のデザインした椅子を試作するモデラーとして数多くの名作を世に送り出してきた。

LIXILギャラリー東京で11月23日まで開催中の『椅子の神様 宮本茂紀の仕事』では、最新のオリジナルの椅子など約35点を展示。さらに鹿鳴館で使われた古い椅子の修復の仕事や、美大生を対象に椅子の研究を行った「Mプロジェクト」など、過去と現在、そして指導者として未来を見据えた宮本の幅広い活動を紹介している。

手前は旧鹿鳴館で使用されていた『竹塗蒔絵小椅子』(所蔵:博物館明治村)。戦後にGHQが朱色のペンキを塗るなどして改変したため、明治村より依頼され、宮本が本来の蒔絵の姿に修復した。その奥に並んでいるのが、明治時代から現代までの椅子のサンプル。全部で6脚あり、手前の3脚は実際に着座できる。 製作・所蔵:五反田製作所グループ photo:Harold

嬉しいのは、実際に座れる椅子があることだ。注目は「時代ごとの椅子作り」のコーナー。ここでは宮本が椅子の構造の変遷を職人に教えるために制作した、1870年、1950年、そして2000年頃の特徴をもつサンプルに座ることができる。それぞれ馬毛やヤシの葉の繊維、ウレタンフォームなどクッションの素材が異なり、一見似たような形でありながら、座り心地が全く違うことが実感できるのだ。さらにサイズや布地を選べるイージーオーダーの『Mychair』(2002年)も着座OK。背面に向けて低くなる座面へ腰を深く掛けると、身体が優しく包み込まれるようだ。

佐藤卓デザインの『SPRING』制作時の映像も必見。宮本が革を手早く切っては伸ばし、丹念に編み込んでいく作業は、まさに職人技だ。インタビューも収録されていて、椅子づくりに対する深い洞察を知ることもできる。宮本は「神様とは自分から程遠い」と謙遜するが、戦後日本の椅子づくりへの貢献を前にすれば、そう讃えられるのも当然だと思えるのだ。

『月苑』 発表/発売年:1988年/1990年 デザイン:梅田正徳 製造元:エドラ社、所蔵・写真提供:埼玉県立近代美術館 梅田による花をモチーフとしたシリーズ4脚のうち、桔梗がモチーフの椅子。宮本が4脚すべての試作の開発を担当した。花弁が開くような大胆なデザインに目を奪われる。

右はひとつの同じデザインで200種類の木材の椅子をつくった『BOSCO』シリーズ(1974年~)から『オークの根』(※現在は『ブナ』が展示中)。『BOSCO』とはイタリア語で森を意味し、オーク材の木目の美しさに心を惹かれる。左は小柄な夫人の「身体に合う椅子がない。」の一言がきっかけに制作された『Mychair』(2002年)。ともに着座可能。所蔵・製造:五反田製作所グループ photo:Harold

『椅子の神様 宮本茂紀の仕事』

開催期間:2019年9月5日(木)~11月23日(土)
開催場所:LIXILギャラリー東京
東京都中央区京橋3-6-18 東京建物京橋ビルLIXIL:GINZA2階
TEL:03-5250-6530
開館時間:10時~18時
休館日:水
入場無料
www.livingculture.lixil/gallery