前田瑶介インタビュー|AIを駆使して描いた、水と人との新しい関係。【創造の挑戦者たち#51】

  • 文:山田泰巨

Share:

前田瑶介がAIを駆使して描いた、水と人との新しい関係。

文:山田泰巨
50

前田瑶介

WOTA代表

●1992年、徳島県生まれ。東京大学工学部建築学科、同大学院工学研究科建築学修士課程修了。在学時に東京大学総長賞受賞。チームラボなどでエンジニアとしてセンシングや物理シミュレーションを用いた企画・開発に従事後、WOTAに参画。https://wota.co.jp

2020年度グッドデザイン大賞を受賞した自律分散型水循環システム「WOTA BOX」は、人工知能によるセンシングで水を循環する、小型水処理システムだ。水道設備に依存しない自律型で、水の98%以上を再利用することができる。被災地での生活支援やレジャー、家庭やオフィスで使用でき、使う場面や条件の制約を劇的に減らした。この開発者でWOTAの代表である前田瑶介は、水処理の「民主化」を目指していると話す。

「インフラに依存しない水との自由な関係性によって、一人ひとりが自然環境に奉仕できるようになります。そしてその自由度が、社会そのものを変えていく可能性を秘めています」

WOTA BOXは水の処理前後における水質変動に注目、センサーで両者の差を比較する。この複数の項目から水や水処理部材を評価し、動的な処理で水質をコントロール。この小さな箱はまさに、浄水処理と排水処理を行う小型の水処理場なのだ。いまWOTAのチームは、あらゆる場所で使用できるモデルの研究開発を続けている。

昨年7月には、手洗いに特化した製品「WOSH」を発表した。人工知能を含むろ過設備を搭載した筐体で、水は繰り返し循環する仕組みだ。コロナ禍で衛生意識が変化した昨今、インフラに頼らない自律型の製品はさまざまな場のニーズに応えている。既に都内でも配備が進み、商業施設やスターバックス・コーヒーの一部店舗などで目にすることができる。

「導入先から、水に対する意識が変わったという声を聞きます。排水せずに循環させるため、利用者の多くが水をできるだけきれいに使おうとする意識も働くようです。データ蓄積によるAIモデルの精度向上も含め、フィルターの交換頻度が下がっています」

WOSHは、そのデザインでも巧みに人々の行動へと働きかける。シンク縁の照明が30秒にわたって明滅し、適切な手洗いに必要な秒数を示す。さらに、シンク脇のスリットにスマートフォンを納めるとカバーが自動的に閉まり、手洗いをしている間に紫外線除菌を行ってくれる。

「WOSHが普及すると、手洗いという行為のデータ化も進みます。普及が進むことで最適化が進み、やがて公衆衛生の在り方にまで影響を与えられるのかもしれません」

前田はその分水嶺として、都内のコンビニエンスストアの軒数に近い7000台の普及を目指す。WOSHが新たな社会インフラになっていくことを期待していると続ける。

「社会的なインフラは人の暮らしに直結します。これまでは水道というインフラが居住地を規定しましたが、携帯電話が通信を自由にしたように、水道の自由度が高まることで人の居住地を自由に選べるようになります」

幼少時からインターネットに親しみ、オープンソースの情報を享受してきた世代である前田。水に対しても供給方法の自由化に、可能性を感じる。

「染色家や醸造家、茶人などは水の質に敏感です。水の質はさまざまなので、その時々に応じた水の在り方も今後は追究したい。これまで希少性の価値がブランドを構築してきましたが、今後は共通性の価値にこそブランドが宿るのではないでしょうか。これからもWOTAは製品改良と最適化を続けます。これは新しい価値形成の挑戦だとも考えているんです」


Pen 2021年3月15日号 No.514(3月1日発売)より転載



『WOTA BOX』

AIを活用した水循環の技術による自律分散型水循環システム。排水をろ過し循環させ、その量を通常の50分の1以下まで抑えた。たとえば、100Lの水で約100回のシャワー入浴が可能。水道インフラに依存せずに水を使える。2020年、グッドデザイン大賞受賞。