町で見つけたアイデアを、「編集」するデザイン

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    泊 貴洋・文
    text by Takahiro Tomari

    町で見つけたアイデアを、「編集」するデザイン

    下浜臨太郎Rintaro Shimohama
    グラフィック・デザイナー
    1983年、東京都生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、電通に入社。広告デザインを手がける一方でメディアアートを発表。2017年に独立し金沢美術工芸大学で教鞭も執る。「のらもじ発見プロジェクト」は昨年書籍化。3月21日から富山県美術館で開催される『デザインあ展』に出展する。

    四方八方から伸びるアームが、針金をつついて、バネができる……。そんな町工場の製造機械の映像と、気鋭のトラックメイカーを組み合わせた作品が話題の音楽レーベル「インダストリアルジェーピー」。このレーベルは昨年のADCグランプリなどを受賞。その仕掛け人のひとりである下浜臨太郎の、才能のキーワードは「編集」だ。

    「小学生の頃、藤子不二雄に憧れて漫画雑誌をつくり始めたら、漫画ではなく雑誌づくりに夢中に。友だちに漫画を描いてもらったり、読者の応募コーナーをつくったりしていました」

    美大卒業後、電通に入社。アート・ディレクターとして働くかたわら、2台のガラケーが連動する待ち受け画面や、SNSスタンプの先駆け的アプリ「チャットペット」をつくったりした。2013年には仲間と「のらもじ発見プロジェクト」をスタート。町中の個性的な看板の文字を採集し、フォント化するプロジェクトだ。フォントはウェブでダウンロードすれば誰でも使えるようにした。これが翌年に文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞する。

    「古い看板の文字は、看板屋さんやお店の人が手描きした一点モノ。デザイナーに依頼したものではない『のら(野良)もじ』にも、素敵なデザインがあると伝えたかったんです」

    2016年、多くの賞に輝いた「インダストリアルジェーピー」の活動を開始。先輩が、ある工場の社長から「町工場のイメージを変えたい」と相談を受けたことがきっかけだった。

    「調査の過程で町工場が出展している展示会に行きました。そこでバネの製造機の映像を発見して。『なんだこれは⁉』と惹きつけられ、映像に音楽を合わせてみたんです」

    グッドデザイン賞では、このレーベルの社会性が評価された。しかし下浜は「僕にはそんな意識はあまりない。町にあるものを編集して形にしたら、自然と社会性があるようになっただけ」と言う。そんな下浜のアイデアの扉は、やはり町にある。

    「自分の中に発想はないから、外に出ます。そして見つけた素材を編集して、いろんなメディアに落とし込むことに興味があります。それを『作品』と呼べるかはわからないけど、雑誌も編集長が変われば変わるように、編集にも個性が出ると思うんです」

    昨年、電通を退社しフリーに。今後はなにを発見し、どんな編集を見せてくれるのか、期待したい。

    works

    「のらもじ発見プロジェクト」では、看板から作成した書体を額装して店にプレゼント。フォントの売り上げも寄付した。
    photo :Harumi Ikeda

    町工場の技術と音楽クリエイターがコラボした「インダストリアルジェーピー」。機械の音を再構築して音楽に。
    photo:DOSEI

    http://idstr.jp/jp/

    ※Pen本誌より転載