オンライン時代のアイスブレイクのコツとは? 課題があぶり出された、コロナ禍のコミュニティ

  • 文:小久保敦郎(サグレス)

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山崎 亮(やまざき・りょう)●Ryo Yamazaki studio-L代表、コミュニティデザイナー。1973年、愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインを提案。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画、市民参加型のパークマネジメントなどに携わる。著書に『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP研究所)など多数。

コミュニティの現状について語る場合、長いスパンで考えなくてはいけないことと、短期的なことの2種類があると思っています。まず、長いほうからお話ししましょう。

ここ100年くらい、この国ではコミュニティ的なものを切り離すことによって、自由を手に入れようとしてきました。資本主義社会に対して批判的な話になるかもしれませんが、人がつながってなにかをやる、そのことを商品化したりサービス産業化したりして、経済を成長させてきた気がしています。人が集まってなにかをやることに対し、それは専門家に任せてお金を払いましょうと、どんどん置き換えていく。それを今日までやってきました。

わかりやすい例を出しましょう。かつての大家族なら、包丁の切れ味が悪くなった時、家で研げばいいはずでした。なにか壊れたら自分たちで直す。そのための道具が家にある。包丁の研ぎ方も、親から子へと引き継がれていました。ところが、やがて核家族という状態をつくり、それが現代的な住まい方ですよと喧伝した。核家族では、近くに研ぎ方を教えてくれる人はいません。家族や血縁、地縁というつながりから物理的な距離で引き離されますから。では、砥石を買い、さらにお金を払って研ぎ方教室に通うのか。いや、それなら新しい包丁を買えばいいのではないか。当然、そんな発想になります。こうして人と人とのつながりを切り、それまで人の関係性が果たしていた役割をお金で買うようになったのです。

議員をやっている友人から、最近こんな話を聞きました。支援者の家をまわり、困っていることはないか尋ねたところ、あるおじいちゃんが「小学生の孫がコロナにかかった」と言います。「小学生なら死亡のリスクも高くないから」と返すと、「学校でいじめられたり、家が地域でつまはじきにされるのが心配」と答えたそうです。近隣で包丁の研ぎ方を教え合える関係性があれば違ったかもしれない。でも、そうではない地域の在り方を、長い時間をかけてつくってしまったのです。

これまで100年かけて人のつながりを切ってきたのですから、同じくらいの時間をかけて新しく紡ぎ直さなくてはいけないかもしれません。人のつながりは、プログラムを書いてパッとつなぎ直すようにはいきませんから。このような社会をつくってきた結果が、いま新型コロナウイルスの蔓延であぶり出されている。そのことを整理しておく必要があります。


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外出せずに社会とつながる、古くて新しい交流のカタチ。神奈川県藤沢市で実施したのが「ステイホームダイアリー」(現在は終了)。高齢者を対象に、数人のグループで回す交換日記だ。テーマは、おうち時間の過ごし方。家でできる運動など、実践の記録を書き込み、市を通じて受け渡す。家に閉じこもりがちな人が利用し、フレイル(健常から要介護への移行状態)の予防効果も期待できる。

オンラインを活かす、ワークショップの工夫

オンライン時代の、アイスブレイク。初対面の人が集うワークショップでは、緊張を解きほぐすためにアイスブレイクという手法を使う。だが参加者が異なる空間にいるオンラインでは、対面式の時と同じやり方では効果が薄れてしまう。この時は「2分以内に家の中にある赤いものを持ってきて」とお題を出した。オンラインならではのアイデアも求められている。

一方で、目の前にはやらなくてはいけないことがあります。コミュニティデザインとは、ある地域の課題を、そこに住んでいる人たちが解決していくために支援することです。地域の人々と一緒になって、必要なものをデザインしていきます。その際、ワークショップという手法をよく使います。ワークショップは、ひとつの空間で気心知れる仲間関係をつくり、顔を突き合わせて行うもの。まさに三密状態をつくり出すのです。コロナで、これがけしからんということになった。どうしよう、という時にまず思い浮かんだのが、オンラインでした。ところが「オンラインになれない人を排除するのか」という意見が出てくるわけです。

検証すると、オンラインのほうが対面式よりも参加できる人数が増えることがわかりました。これまで100人程度だった集まりに300人も来てくれたりする。オンラインのメリットは大きい。ならばオンラインを使えない人を、少しでも使えるようにしていけばいい。課題が明確になりました。

そこで、第0回のワークショップをZOOMで開きました。参加者に、みなさんの周りでZOOMの使い方がわからなそうな人がいたら教えてあげてほしい、と呼びかけます。そして2週間後、第1回のワークショップを開くのです。ここで新たに参加してくれれば、こちらから詳しい使い方を教えることもできます。コロナにおけるコミュニティデザインでは、いかにオンラインになれる人を増やすかも大事だと感じています。


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おもてなしの舞台が、オンラインに進化。誰もが社会参加できる環境づくりを目指す「かわさきパラムーブメント」を推進する川崎市。そのテーマのもと、自分の趣味やアイデアを活かして楽しい「おもてなし」をする「かってにおもてなし大作戦!」をSNS上で実施中。誰かに飲食物を提供したり、音楽を披露する取り組みは、YouTubeの番組としていまも継続している。

コロナ禍だから生まれた、新たな取り組みとは

対面で集まる時は、感染予防対策に工夫を。感染予防対策を徹底しつつ、対面で集まることがある。そんな時は、自己紹介もひと工夫。受付時に配るマスクに付箋などを使って、自分のことを書いてもらう。すると紹介のために自ら話す必要がないので、飛沫が飛ぶことはない。参加者がお互いに口をのぞき込んで相手のことを知る、静かな自己紹介が誕生した。

ワークショップのやり方も、対面式とは違う工夫が必要になります。一方で、オンラインだからできることもあります。たとえば、テキストマイニングが使えること。これは言語をデータ処理できる機能です。会話の中で登場回数が多い言葉を抽出して、大きな文字にしてくれる。おかげで議論が集約しやすくなったりします。

オンラインの可能性を探る中で、YouTubeがとても使いやすいツールであることも改めてわかりました。従来のワークショップは、対面型で同期型。同じ空間と時間を共有します。ZOOMだと、オンラインで同期型。ところがYouTubeを使うと、オンラインの非同期型が可能になるのです。たとえば、僕がこれからの街づくりについて20分話して、動画をアップする。参加者は好きな時にその動画を見て、思いついたことを指定のサイトに書き込む。一週間後、その内容を集約した動画をアップし、また意見を募る。その繰り返しです。将来的には、非同期型の対面ワークショップもできるのでは、と考えています。

コロナ禍だから生まれた、オンラインではない取り組みもあります。そのひとつが、高齢者を対象にした交換日記です。ステイホームが推奨され、孤立しがちな人々をどうつなぐか。そこでグループをつくり、手書きの日記を市役所経由で回す仕組みをつくりました。介護予防の観点も含め、高齢者が行動を起こすきっかけになれば、という狙いがあります。

いまコミュニティデザインの現場では、手法が大きく変わりつつあります。コロナにより長期的に取り組む課題が明らかになった一方、オンラインという大きな武器も手にしました。今後、さらにどう活用していくのか。適切に使うためのリテラシーが求められている気がしています。


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