古民家を改装、写真家夫婦が手作りでもてなす「カーサ美山」

古民家を改装、写真家夫婦が手作りでもてなす「カーサ美山」

写真:蛭子 真 文:小長谷奈都子

下の写真の、赤い和傘が置かれた扉を開けると土間がある。昔の人が草履で歩いた足音まで聞こえそうな土間をそのままに残している。

京都府の中ほどに位置する南丹市美山町は、美しい自然と茅葺屋根で知られる静かな里。西の鯖街道の経由地として栄えた地でもある。ここに「カーサ美山」が誕生したのは2020年6月。オーナーはともに写真家として活動する夫婦、兵庫県出身の森本徹とバルセロナ出身のティナ・バゲだ。15年以上、一緒に暮らしたバルセロナから移住し、築110年という元茅葺屋根の古民家を一棟貸しの宿に蘇らせた。母屋は宿に、離れは自宅に、蔵はフォトスタジオに。建具や家具を磨いて塗り直したり、襖戸に好みの和紙を貼ったり、自ら積極的に改修に携わった。

「みんなでワイワイ料理したり、食事を楽しんでほしくて、床の高さを揃えてひと続きにしました」。森本さんがそう語るダイニングキッチンが、宿のメインスペースであり、宿泊客の憩いの場。ていねいに再生した空間に並ぶのは、ヴィンテージの食器棚や囲炉裏を切ったテーブル、バルセロナから運んだ家具など。大理石のシンクもスペイン製だ。すべてが不思議なほど和の風情と調和しているのは、歴史ある建物への敬意と長年大切に使ってきた道具への愛着というふたりの思いがつなぐからだろう。その思いは宿全体に満ち、心地よい気の流れを生んでいる。

写真を通して出会った森本徹とティナ・バゲ。写真を撮りながら世界中を旅するうち、導かれるようにこの地へ移住した。

ダイニングに据えられたノルウェーのヨツール社の薪ストーブ。炎のゆらめきや薪の爆ぜる音で心安らぐ時間を過ごせる。

豪雪に耐える堅固さと優美さを備えた、立派な入母屋造りの屋根をもつ母屋。現在は瓦で覆われているが、屋根裏に上がれば茅葺きが見られる。

畳の間から見たダイニングキッチン。大きな梁や古い建具に、ヨーロッパの家具が調和している。キッチンには調理器具や調味料入れ、食器が一式揃う。

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