話題の建築集団「アセンブル」が初めて日本で手がける、徳島県上勝町の建築...

話題の建築集団「アセンブル」が初めて日本で手がける、徳島県上勝町の建築プロジェクトとは?

文・写真:山田泰巨

醸造所として生まれ変わる古い工場を見学するアセンブルの3人。

イギリスで話題を集める若き建築家集団「アセンブル」をご存知でしょうか。

昨年末に表参道のGYREで展覧会を行なっていたこともあり、その仕事を知る人も少なくないことでしょう。15人のメンバーからなる彼らは、2015年にイギリスの権威ある現代美術の賞「ターナー賞」の受賞をきっかけに注目を集め始めました。 メンバーがまだ20代(受賞時)と若かったこともさることながら、建築家がターナー賞を受賞したこと自体も初めて。アート業界は騒然となりましたが、「誰よりも驚いたのは僕たち自身だよ」とアセンブルのメンバーのひとり、アダム・ウィリスは振り返ります。

「ターナー賞の受賞で僕らを取り巻く環境は大きく変わったんだ。ターナー賞自体は審査員が毎年変わることもあって、その傾向も年によって違う。僕たちの年はアートの社会的役割が考慮されたようで、アセンブルのアートを含む社会的な活動が評価されたんじゃないかな」

そんな彼らが日本で初めての建築プロジェクトに着手するため、今年2月に日本にやってきました。来日したのはジェイムス・ビニング、アダム・ウィリス、アリス・エジャリーの3人。依頼主である徳島県上勝町のマイクロブリュワリー「ライズアンドウィン ブルーイングカンパニー」は、新たな醸造所のプロジェクトを彼らに依頼したといいます。その構想を練るためにリサーチを行うアセンブルの3人を追いかけました。

左から、アセンブルのジェイムス・ビニング、アダム・ウィリス、アリス・エジャリー。朝からのリサーチでしたが、まずはビールを試飲からスタート。

背後は中村拓志さん設計の「ライズアンドウィン ブルーイングカンパニー バーベキューアンドジェネラルストア」。現在はこの建物のみで醸造を行いますが、新たな工場で生産量の拡大を狙います。

まず彼らが訪れたのは、廃屋の建材や廃材をリユースして中村拓志さんが設計した「ライズアンドウィン ブルーイングカンパニー バーベキューアンドジェネラルストア」のテイスティング・スタンド。

現在ライズアンドウィン ブルーイングカンパニーはここでビールを醸造していますが、生産量に限りがあるため、新たな醸造所を設けることになりました。まずリサーチということで、朝からつくりたてのクラフトビールを楽しむアセンブルの3人。なかでもジェイムスは地元ロンドンで、自らビール造りに関わる大の左党ということもあり、それぞれのビールの醸造法を熱心に尋ねます。

徳島県上勝町は四国でもっとも小さな町でありながら、世界でも類を見ない試みを行っています。それがゼロ・ウェイスト宣言。将来的にゴミをゼロにすることをうたい、ゴミ焼却所をもたずに、45にもおよぶゴミの分別を行うことで家庭から出るゴミの8割を再資源化しているという先進的な町なのです。中村拓志さんはこの町の取り組みをいかし、建築の内外に資源を再利用。もちろんアセンブルもこの試みを継承しようと考えています。

もともと牛舎だった建物を改装した中村おさむさんの住まい。整然と積まれた薪のほか、建物の内外の至るところが美しく整頓され、三人は感嘆の声をあげます。

上勝町では、乳酸発酵させた独自の番茶、上勝阿波晩茶が町民に愛飲されています。中村おさむさんお手製のお茶を楽しむアセンブルの三人。

ネパール滞在時に仏教の経典をするための版画の技術を学んだという中村おさむさん。版画をはじめ、塗り絵や切り絵など、日々の中で自身の作品を制作しています。アセンブルも中村さん独自の塗り絵に挑戦。

そんなアセンブルが次に訪れたのは、町に暮らすユニークなひとりの男性。

世界を旅したあとに上勝町に移り住んだという中村おさむさんは、牛舎だった建物を自ら改築して自宅にし、電球に使うわずかな電力のほかは薪を使い、水道は近くの沢から、野菜の多くを自ら育てています。その暮らしは慎ましくも美しいのですが、中村さんご自身はあくまで楽しく暮らしているだけ。そんなゴミゼロの暮らしを目の当たりにしたアセンブルは2日間にわたって中村さんを訪ねるほど、気に入った様子。

「今回のリサーチで一番の収穫は彼との出会い。こんな人は世界でもなかなかいないよね」と三人は口を揃えて言います。

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