テイ・トウワが選曲・監修! 未来から聴こえて来るようなYMOの新アルバムを聴け。

  • 文:赤坂英人

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YMO『NEUE TANZ(ノイエ・タンツ)』 ソニー・ミュージックダイレクト  MHCL-30538 ¥2,592(税込)

YMOの新しいコンピレーション・アルバム『NEUE TANZ(ノイエ・タンツ)』。それは時空を超えて、過去から届けられた、未来の「新舞踊」会への招待状のようです。      

1978年に細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の3人によって結成された「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」の、結成40周年を記念してリリースされた最新のコンピレーション・アルバム『NEUE TANZ(ノイエ・タンツ)』がいま、10代の若者から還暦を過ぎた音楽ファンまで、幅広い世代で話題となっています。

ノイエ・タンツとは、ドイツ語で「新しい舞踊」を意味しますが、このアルバム制作の発端は、DJでアーティストのテイ・トウワが、ニューヨークにあるレコードショップには毎日のように若者がYMOのアルバムを探しにくる、という話を聞いたことでした。そこでテイは、いまの若者たちに向けたYMOの新譜のようなコンセプトのアルバム制作を提案。メンバーの快諾を得て、この繊細かつユニークなアルバムが制作されたのです。選曲・監修はテイが担当し、そこにニューヨークで活躍中の画家の五木田智夫、電気グルーヴの石野卓球がノンクレジットで参加しています。

そして、リマスタリングは元電気グルーヴの砂原良徳が、LPのカッティングは、アメリカを代表するエンジニアであるバーニー・グランドマンが手がけました。また、アルバムのアートワークは、選曲にも参加した五木田が担当。小学校時代からファンだという五木田は、最大のヒットアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』の伝説的なジャケット写真(鋤田正義撮影)の、別カットの未使用写真をクールに引用しています。

YMOファンなら思わず『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』の曲が選ばれているのかと想像してしまいますが、新譜的なコンピレーションを目指したテイは、あえてそこからは1曲も選びませんでした。ヒット曲集的な方向性はとらず、3人の個性を尊重したハイブローな選曲をしたように思います。

CD版の収録作品は以下の通りです。

1.HIRAKE KOKORO –JISEIKI-/開け心―磁性紀― フジカセット・カセットブック『テクノポリス』より
2.BALLET/バレエ  アルバム『BGM』より
3.RIOT IN LAGOS/ライオット・イン・ラゴス  坂本のソロアルバム『B-2 UNIT』より
4.THE MADMEN/ザ・マッドメン  アルバム『サーヴィス』より
5. GLASS/ガラス  高橋のソロアルバム『NEUROMANTIC』より
6. NEUE TANZ/新舞踊  アルバム『テクノデリック』より
7. CAMOUFLAGE/カムフラージュ  アルバム『BGM』より
8. PURE JAM/ジャム  アルバム『テクノデリック』より
9. SIMOON/シムーン  アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』より
10. CUE/キュー  アルバム『BGM』より シングルとしてもリリース
11.FIRECRACKER/ファイアークラッカー  アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』より
12.MULTIPLIES/マルティプライズ  アルバム『増殖』より
13.SPORTS MEN/スポーツマン  細野のソロアルバム『フィルハーモニー』より
14.TAISO/体操  アルバム『テクノデリック』より シングルとしてもリリース
15.1000 KNIVES/千のナイフ  アルバム『BGM』より
16.NICE AGE/ナイス・エイジ  アルバム『増殖』より


全体的にバランスのとれたハイセンスな選曲です。アルバム『BGM』(1981年)から選ばれているものが最も多く、4曲あります。79年の『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』のような派手さはなく一見、地味に見えますが、3人のやりたいことや、その感受性が感じられるアルバムです。のちに細野と高橋は、『BGM』がYMOのベストだと語っています。次に選曲が多いのは、同じく81年リリースのアルバム『テクノデリック』。題名はテクノとサイケデリックを合わせた造語です。テイは凡庸な選曲ではなくプロのDJらしく、メンバーの個性が際立ち、いま聞いても面白く、時代を超えた強度と美しさと可能性を感じさせる作品を選んでいます。

俗っぽい僕は、『ノイエ・タンツ』のジャケットを見ていると、40年前の『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』を聴きたくなります。収録曲である「テクノポリス」や「ライディーン」の疾走感を感じたくなるのです。ヴォコーダー(電子楽器)が歌う「トキオ」という幻影都市のスピード感と拡がりは、いま聴いてもハンパないものです。何十年も前につくられたものなのに、まるで未来から聴こえてくる不思議なダンス・ミュージックのようです。