「URUSHIふしぎ物語―人と漆の12000年史―」展で、“漆”の歴史と魅力を探る旅に出てみませんか?

  • 文:坂本 裕子

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現代の技術で開発された紫外線を当てると硬化する「含漆UV塗料」で会津漆器を代表する菊桐模様を装飾された自動車。対候性、対摩耗性に優れ、これからの活用が期待されています。 含漆UV塗装カー 福島県ハイテクプラザ 会津若松技術支援センター開発(展示風景から)

国立歴史民俗博物館では、企画展示「URUSHI ふしぎ物語―人と漆の12000年史―」が開催中です。

実用からはやや遠い印象の漆の文化。樹液を塗料として活用するこの技術は、中国、朝鮮、日本、インドシナなどのアジアに特有のもので、互いに交流しつつ、独自の発展を遂げてきました。日本では、縄文時代から木器や編んだ器、土器に塗ったり、壊れた土器の接合に利用してきたことが知られています。その後、平安から鎌倉期には貴族・武家文化を背景に、蒔絵や螺鈿など華やかな漆芸文化が確立しました。江戸期には意匠に富んだものが生まれ、近代には輸出品として欧米で日本ブームの一端を担いました。現在は、伝統工芸としての存続が危惧される一方で、技術革新による拡がりも期待されています。

展覧会は、考古学、美術史学、文献史学、民俗学、植物学、分析科学など分野で分断されがちだった視点をまとめ、日本列島における漆文化を総合的に捉えた初の試みとなります。研究者が集結して検証した結果、日本人と漆との関係は、1万2000年前に遡ることが明らかになったとか。まさに日本人とともにあったこの文化を、植物としての「ウルシ」、これを使用して生まれた文化の「漆」、両者を包含する「URUSHI」と題し、その拡がりを表象しています。縄文時代から現代まで、国宝や重要文化財を含む超一級品の漆工芸品はもちろん、近年の発掘調査による多彩な出土品、漆を生業にした人々の道具、最新のウルシの技術まで、600件を超える展示品で見せています。

会場は、素材としてのウルシの紹介から、生産や漆芸に携わった人々の姿、その成果である漆工芸の歴史と作品がまとった象徴的な力、アジア各地の漆芸との交流や世界への流通、現代の状況と未来への展望など、6章の多角的な視点から漆文化を捉えます。

悠久の時とともに歩んできた「URUSHI」の歴史にタイム・トラベルして、その豊かな魅力を再発見してください。
※無断転載を禁じます

放射性炭素年代測定で年代が判明したウルシ材と、約5600年前の貝殻象嵌の跡が残る赤漆の器。 左:12600年前のウルシ材 福井県鳥浜貝塚出土(福井県立若狭歴史博物館 縄文時代草赤創期) / 右:〔重要文化財〕貝殻象嵌木胎漆器 青森県向田(18)遺跡出土(野辺地町立歴史民俗資料館 縄文時代前期)

中世には赤色漆の手描きや型押しで、草花文などの大和絵をあしらった器が多く制作されました。 漆絵漆器 神奈川県鎌倉市内遺跡出土(鎌倉市教育委員会 13~14世紀)

牛車の車輪を乾燥予防のために水に浸した光景は古来より典雅な意匠として好まれました。研出蒔絵に螺鈿が施された日本漆芸の傑作のひとつも出品されています。 〔国宝〕片輪車蒔絵螺鈿手箱 (東京国立博物館 平安時代) Image:TNM Image Archives

羽柴秀吉が犬山城入城の際に持参したといわれる鎧櫃はモダン。輸出向け「南蛮漆器」の櫃は「ジャパニング」と呼ばれるヨーロッパ製の模造漆の台とともに。 左:〔愛知県指定文化財〕 菊桐文蒔絵鎧櫃 (犬山城白帝文庫 桃山時代) / 右:扇面蒔絵螺鈿洋櫃(台付) (国立歴史民俗博物館 17世紀初ごろ)

紀州徳川家から嫁ぐ姫君のために誂えられた婚礼調度のひとつ。葵紋が散りばめられた豪華絢爛な調度は、黒棚、書棚ともに三棚揃いで見られます。 竹菱葵紋散蒔絵三棚飾のうち厨子棚飾 (林原美術館 江戸時代)

企画展示「URUSHIふしぎ物語―人と漆の12000年史―」

開催期間:~9月3日(日)
開催場所:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
千葉県佐倉市城内町117
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般830円
http://www.rekihaku.ac.jp