今年の東京フィルメックスは、東京国際映画祭と初の同時期開催。過去最多12作品を上映するコンペ部門の注目作をご紹介!

  • 文:清水節

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東京フィルメックスは2000年よりスタートした映画祭で、今回で21回目を迎える。コンペティション部門、特別招待作品部門、特集上映作品部門の3部門に分かれている。

第21回東京フィルメックスが、第33回東京国際映画祭(10月31日~11月9日)とほぼ同時期の10月30日(金)~11月7日(土)に、東京・有楽町朝日ホールやTOHOシネマズ シャンテ他で開催される。例年より3週ほど会期を早めた狙いについて、市山尚三ディレクターは「東京国際映画祭との連携の話は昨年からあり、この春に決めた。来場者が両映画祭の存在を知ることができ、相乗効果を期待したい。コロナ禍で今年はゲストをあまり招聘できないが、来年以降も連携が継続するなら、ゲスト間交流も可能となり成果が出せる」と語った。

コンペティション部門では、アジアを中心とした個性豊かな気鋭の新進映画作家の作品が上映されるフィルメックス。これまでに最優秀作品賞は、中国のロウ・イエ監督が切ない恋を描いた『ふたりの人魚』(2000年)の第1回受賞を皮切りに、日本映画では小林政広監督の『バッシング』(2005年)や内田伸輝監督の『ふゆの獣』(2010年)が受賞。ヤン・イクチュン監督の韓国映画『息もできない』(2009年)は受賞翌年に公開され、トラウマを抱えた粗暴な男と女子高生が解放されていく純愛ストーリーが、国内外で大きな反響を呼んだ。

昨年は、チベットのペマツェテン監督の映画『気球』が栄誉に輝いた。例年約10本の多彩な作品を厳選して上映してきたが、今年は過去最多となる12本を上映。そのうち日本映画は4本、本映画祭初となるアゼルバイジャンとアルメニアの作品も選ばれている。

同映画祭初のアルメニア制作の作品。30年近くに渡り、アルメニアとアゼルバイジャンの対立が続くナゴルノカラバフ地区が舞台となっている。『風が吹けば』(Should the Wind Drop )/フランス・アルメニア・ベルギー合作映画/2020年/1時間40分

今年のコンペで注目したい作品を挙げていこう。まずは第73回カンヌ国際映画祭(2020年)にも選出されたノラ・マルティロシャン監督の『風が吹けば』(フランス、アルメニア、ベルギー)。アルメニア国境に隣接し、アゼルバイジャンからの独立を主張する地区の現実を、フランス人の視点で描く。

コー・チェンニエン監督の『無聲(むせい)』(台湾)は、実話をベースに聾学校に転校してきた少年が目にする残酷な現実を描き、台北映画祭オープニング作品として上映された。名匠ジャ・ジャンクーを助監督として支えてきたワン・ジン監督の『不止不休』(中国)は、実在のジャーナリストをモデルにその成長を描き、ベネツィア映画祭オリゾンティ部門で上映された。以上の3本は、いずれも監督デビュー作だ。

聾学校を舞台に、主人公がスクールバスであるゲームを目撃したことから物語が始まる。『無聲(むせい)』(The Silent Forest )/台湾映画/2020年/1時間44分

多くの社会問題を暴いた、実在の新聞記者をモデルにした作品。『不止不休』(The Best is Yet to Come )/中国映画/2020年/1時間55分

是枝裕和が見出した注目の日本人監督作品も。

ベネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で上映。『迂闊(うかつ)な犯罪』(Careless Crime)/イラン映画/2020年/2時間19分

アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014において、全編134分ワンカット撮影という驚くべき手法で注目を浴びた『予兆の森で』のシャーラム・モクリ監督。彼の4作目となる『迂闊(うかつ)な犯罪』(イラン)は、1979年のイスラム革命前夜、西欧文化を否定する暴徒によって多くの映画館が焼き討ちにされたという事件を題材に、その40年後に4人の男たちが映画館の焼き討ちを計画するという奇抜なストーリーを、知的な構成によって見せるという。

タイトルの通り、秋田県・男鹿半島の伝統文化「ナマハゲ」を扱った作品。『泣く子はいねぇが』(Any Crybabies Around?)/日本映画/2020年/ 1時間48分

日本映画では、次の2本に注目。まず、是枝裕和によって見出された佐藤快磨監督のデビュー作『泣く子はいねぇが』は要チェック。大人になることから逃げていた主人公が、過去の過ちと向き合い成長する姿を描く青春グラフィティを仲野太賀、吉岡里帆らの出演で描く。サン・セバスチャン国際映画祭コンペティションでワールドプレミアが行われ、11月20日に日本公開が決定している。

もう1本は、第29回東京国際映画祭(2016年)の日本映画スプラッシュ部門に出品された『かぞくへ』に続く、春本雄二郎監督の第2作『由宇子の天秤』。女子高生の自殺事件を追う女性ドキュメンタリー監督が、事件の真相に迫る過程で父から衝撃的な事実を知らされるというストーリーだ。出演は瀧内公美、光石研ら。

第25回釜山国際映画祭にも選出。『由宇子の天秤』(A Balance)/日本/2020年/2時間32分

「特別招待作品」では、オープニング作品の万田邦敏監督の『愛のまなざしを』(日本)とクロージング作品のエリア・スレイマン監督の『天国にちがいない』(フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ)の他、ホン・サンス、ツァイ・ミンリャン、アモス・ギタイ、ジャ・ジャンクー、原一男ら名匠巨匠の作品が勢ぞろい。デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クラッシュ』4K修復版上映は、非常に興味深い。

監督の万田邦敏は、今回のコンペティション部門の審査員長を務める。『愛のまなざしを』(Love Mooning)/日本/2020年/1時間42分

また、「特別上映」として、マノエル・ド・オリヴェイラ監督が詩人・劇作家ポール・クローデルの長大な同名戯曲を1985年に映画化した、7時間に迫る超大作『繻子の靴』(ポルトガル、フランス)を、会期終了後に有楽町朝日ホール他で日本初上映。これまで国内ではソフト化すらされていない本作を、35mmフィルムでスクリーン上映する。なお、会期後に一部の上映作品を1週間限定で有料配信する試みも予定されている。

『第21回 東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2020』
開催期間:2020年10月30日(金) ~ 11月7日(土)
開催場所:
TOHOシネマズ シャンテ 10/30(金)〜11/5(木)
ヒューマントラストシネマ有楽町 10/30(金)〜11/5(木) *レイトショー
有楽町朝日ホール 10/30(金)、10/31(土)、11/6(金)、11/7(土)、11/22(日)
アンスティチュ・フランセ東京 11/5(木)、11/6(金)
アテネ・フランセ文化センター 11/6(金)
※チケットは10月17日(土)発売開始。現時点での上映スケジュールはこちら
https://filmex.jp/2020/