普遍的な痛みときらめきに満ちた、『スウィート17モンスター』

  • 文:細谷美香

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面倒くさくて魅力的なヒロインを演じるのは、シンガーとしても活躍しているヘイリー・スタインフェルド。

もしもタイトルを見て、“17歳の女子の青春もの”というジャンルなら自分には無縁の作品かな、と思ってしまった人がいたら、それはあまりにももったいない! 『スウィート17モンスター』は、かつてティーンだった人の胸に間違いなく響く、普遍的なきらめきと痛みと空回りがすべて入った、青春映画の傑作です。

主人公のネイディーンはまだ恋愛経験のない、意地っ張りな17歳。自意識過剰気味でイケてない自分を持て余し、とりあえず何もかもが気に食わない。触るものみな傷つける勢いの言動を繰り広げて、父が亡くなって以来シングルマザーとして頑張っている母親や、自分とは正反対のイケメンで人気者の兄を困らせてばかりいます。そんななか、ただひとりの味方のように感じてきた幼い頃からずっと一緒の親友が、何と兄の彼女に! 裏切られた気持ちになった彼女は大胆な行動に走りながら、殻を破るべく格闘していきます。

ネイディーンに扮したのはコーエン兄弟の西部劇『トゥルー・グリッド』で、仇討ちの旅に出る気高くて勇敢なヒロインを演じたヘイリー・スタインフェルド。とんがっているわりにはときどき教師のところを訪ねては、「友だちはいない。けど平気よ」とか言っちゃうヒロインを、このうえなくキュートに演じました。友達になったら楽しそうだけれど、頭の回転が速すぎて会話が成立しないような気もするし、ウィットに富みすぎの毒舌はかなりパンチが効いています。周りに迷惑をかけながら空回りしまくるネイディーンという女の子が、それでも愛らしさを感じさせるヒロインになったのは、ヘイリーが放ついまこの瞬間のきらめきと、憎めないふてぶてしさがあってこそ。彼女のふくれっ面を見ているうちに、身に覚えのある17歳の感覚が鮮やかによみがえってくる人も多いのではないでしょうか。

自分だけが不運で、誰も私の気持ちなんて理解してくれるはずはない。そんな思いにがんじがらめになっていた日々のトンネルを抜けて、ふと周りに目を向けると、誰かと心から関わるための糸口はたくさんある。世界を見つめる視点を変えてそのことに気づく成長の過程をユーモアたっぷりに描き出したのは、新鋭、ケリー・フレモン・クレイグ。大人たちがわかりやすい敵として描かれていない脚本にも、フェアで温かな知性を感じます。ちなみに教師を演じたのはウディ・ハレルソン。これまでのイメージに捉われて、いつマッドなことを言い出すかと勝手にハラハラしてしまったわけですが、意外なほど軽妙かつまっとうに、ネイディーンの心に届く言葉を送ってくれます。かつての17歳として、こんな大人を目指したいなぁと思ったのでした。

ヘイリー・ルー・リチャードソンが演じるネイディーンの親友、クリスタ。本作には、映画批評サイト「ロッテントマト」で95%もの絶賛評が寄せられています。

ネイディーンの八つ当たりを受け止めいなす、ブルーナー先生(ウディ・ハレルソン)。監督はウェス・アンダーソンらを見出してきた名プロデューサーによって抜擢されたケリー・フレモン・クレイグ。

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『スウィート17モンスター』

原題/The Edge of Seventeen
監督/ケリー・フレモン・クレイグ
出演/ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン、キーラ・セジウィックほか
2016年 アメリカ 1時間44分
配給/カルチャヴィル
4月22日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開。
www.sweet17monster.com