語り継がれるマレーシアの青春映画、『タレンタイム~優しい歌』がついに劇場公開!

  • 文:細谷美香

Share:

母方の祖母は日本人だというヤスミン・アフマド監督。2009年に急逝するまで6本の長編映画を残しています。

2009年にマレーシアで製作され、その後に日本では映画祭を皮切りに自主上映が続けられ、多くの人に愛され続けることになった作品があります。51歳の若さで亡くなった女性監督、ヤスミン・アフマドの遺作『タレンタイム~優しい歌』。8年の時を経て、青春映画の傑作がついに劇場公開されることになりました。

舞台となっているのは、タレンタイム=学生の芸能コンテストが開かれることになった、とある高校。ピアノが得意な女子学生のムルー、バイクで彼女の送迎をする耳の聞こえないマヘシュ。二胡を演奏する優等生のカーホウ。成績優秀で歌もギターも上手な転校生のハフィズ。彼らの家族の物語も描きながら、物語はタレンタイム開催の日に向けて進んでいきます。

多民族社会であるマレーシアらしく、生徒たちがもつバックボーンは実にさまざま。イギリス系、インド系、マレー人、中華系の人々が登場し、英語やタミル語、そして手話によって心の内が語られていきます。民族と宗教の違いによる偏見や悲劇も横たわっていますが、ヤスミン監督はそれらに対する憤りを拳に込めるのではなく、ときにはユーモアを交えながらあくまでも高校生たちの“優しい歌”に希望を見出し、この世界は捨てたものじゃないと私たちに語りかけてきます。

ピアノ、ギター、二胡、透き通った歌声から伝わる彼らのまっすぐな心こそが、不寛容という壁を壊すのだという展望は、あまりにも理想論すぎるかもしれません。それでも彼らがひたむきに奏でるメロディを聞きながら、自分以外の誰かを思うこと、他者への想像力をふくらませることこそが、世界を変えるカギになると思わずにはいられませんでした。初めての恋、友だちへの嫉妬と和解、親とのすれ違い、子どもへの思い。マレーシアを舞台にしたこの映画には、語り継がれるにふさわしい普遍性も宿っています。

『タレンタイム~優しい歌』の公開にあわせて、『ラブン』などヤスミン監督の長編映画5作品を一挙上映する特集上映も開催。6年という長くはない活動期間に監督が残した作品には、いまこそ受け止めたいメッセージが込められています。(細谷美香)

多民族、多宗教、多言語の社会を描き出す、“マレーシア新潮流”と呼ばれる作品のなかの1本です。

マレーシアの人気アーティスト、ピート・テオが作曲した『I Go』などの名曲が劇中にちりばめられています。

© Primeworks Studios Sdn Bhd

『タレンタイム~優しい歌』

監督/ヤスミン・アフマド
出演/パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショール、モハマド・シャフィー・ナスウィップ、ハワード・ホン・カーホウほか
2009年 マレーシア 1時間55分
配給/ムヴィオラ
3月25日よりシアターイメージフォーラムほかにて公開。
www.moviola.jp/talentime


『タレンタイム~優しい歌』公開記念<ヤスミン・アフマド監督特集>

会期:3月18日~3月24日
会場:シアター・イメージフォーラム
www.imageforum.co.jp/theatre