【台湾、もっと発見。】「スローな台中にしてくれ」と思うか、「変わらなきゃ」と思うか。

  • 写真・高山 剛 文:Pen編集部

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台中市民のオアシス、臺中市民廣場にて。いわゆる広場です。平日の夕方には、犬を連れた人や家族連れ、学生や仕事帰りの大人が集まって、思い思いに寛ぐ姿が見られます。台中のスローライフを象徴するような場所です。

Pen 2019年6/15号『台湾、発見。』号で紹介した台中。案内人のAJが「台中はスローライフ」と語ったように、緑や川が彩る街をのんびり歩いてこそ、ここの魅力はわかるもの。ぜひとも2~3日ステイして、暮らす気分を味わっていただきたく思います。たしかに、台中の街には公園や広場や街路樹の続く並木道が多く、散策するうちに気持ちも落ち着きます。
そんな台中に到着した日のことでした。ちょっと面白い(かもしれない)廃墟があるという情報を耳に。こういった異国での取材時は、とにかく道があったら進み、お誘いには乗り、目が合ったら話しかけるのがコツ。というわけで、入ってみることにしました。
そこは11階建ての大型ビル。基本的に、管理組合に入場料を支払えば誰でも入れるのですが、あちこちに穴が開いていたり壁や床が崩落していて、でも危険を示すロープや張り紙などは一切ありません。また、一部のフロアにはいまも住人がいるので、建物の名称や所在地は伏せます。
もとは日本統治時代に氷屋としてスタートし、その跡地に1977年頃にビルが建てられました。ビルは複合商業施設となり、百貨店が入ったり、アイススケート場、ディスコ、カラオケ、映画館、塾とさまざまなテナントが時代を彩ってきたそうです。屋上には回転レストランやダンスフロアがあったのだとか。実際に屋上に上がり、いまはボロボロの回転フロアに足を踏み入れてみると、日本でもあった往時の回転レストランやミラーボールの回るディスコが思い出され、不思議な既視感に襲われます。
階段や廃墟と化したフロアは一面、グラフィティアートに覆われ、これはこれでミュージックビデオやファッション撮影に使えそう……と思ってしまうのは職業病ですが、そんなフロアを巡りながらたどり着いた屋上で、ふたりの青年に出合いました。ぽつんと置かれた古いソファに座って、会話するでもなくぼんやりとスマホに目を落とすふたり。シュールな光景ですが、洋の東西を問わず、これが「いま」なのかもしれません。
せっかくなので、写真を撮らせてもらおうと話しかけ、台中で見るべき旬のスポットの聞き込みをしました(彼らは台北から来た大学生でした)。インスタで検索をしてくれて、少し話をして、別れ際に。
「……仕事って、楽しい?」
ひとりが尋ねるともでもなく、こう呟きました。
うん、と頷いて手を振りました。こんな出会いもあるからね――言葉ができなかったので、口にすることはかないませんでしたが。
この廃墟ビル、取り壊して再開発を目指す計画はあるのですが、反対の声もあり、とりあえず現状のままにされているそうです。古いもの、いらないものは壊して未来へと進むのも、もちろんアリ。けれど、性急にことを決めないスローな態度もまた、アリなのではないでしょうか。あのふたりの青年が、未来を決めかねているように。


廃墟ビルの屋上で出会った青年ふたり。なにを探してスマホを見ているのでしょうか。

屋上の、もと回転レストランだった部分。ボロボロなのですが、バーカウンター部分や窓際の座席などに往時の雰囲気が宿っています。photo: ©Pen magazine, 2019

壁といわず階段といわず、一面にグラフィティが描かれており、ここで写真やビデオを撮っていく人も多いとか。一部のフロアは賃貸アパートとして、おもに若いアーティストが入居し、自分の作品を展示したり販売したりもしています。