「都市探偵」が厳選、いま見るべき“攻め”の台湾建築ベスト6

  • 写真:正重智生(BOIL)、高山剛
  • 文:木下諄一

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近年、台湾では斬新なデザインで攻める建築が増えています。建築事情に精通する「都市探偵」こと李 清志さんに、一見の価値のある現代建築を解説してもらいました。

李 清志(リー・チンズゥ)●1963年、台北市生まれ。臺灣大學で建築を学んだ後、米ミシガン大学に留学。實踐大學専任副教授として教鞭を執りつつ、「都市探偵」を名乗り、世界の都市空間を研究。近著に東京の建築を解説した『東京未來派 都市偵探的東京觀察A to Z』 (時報出版刊)がある。


その1. まるでCGのような二重螺旋状の超高層マンション、陶朱隱園。 

設計:ヴィンセント・カレボー 竣工:2018年 住所:台北市信義區松高路68號 ©中華工程

DNAの二重螺旋構造を思わせる、ぐにゅっとひねったような形状で、外側に向かってせり上がるように突き出した左右のウイング。そのアンバランスさはCGの世界かと疑いたくなるほど。台北101からほど近い、台北きっての開発エリア・信義區に登場した超高層マンション「陶朱隱園(タオジュゥーインユェン)」は、その近未来的なデザインと環境に配慮した設計で海外からも注目されています。

2階から21階まで左右のウイング部分を時計回りに4.5度ずつねじったデザインで、鉄骨には東京スカイツリーと同じ工法を、免震システムにはNASA(米航空宇宙局)と同じESP社のものを採用。バルコニーに庭園を設置して有機性廃棄物や雨水を再利用したり、建物一体型の太陽光発電を採り入れたりと、エコにも配慮した。中央部の多機能エレベーターで玄関先まで愛車を乗り付けられる。


その2. 波打つような錯覚をもたらす海辺のリゾートマンション、一森原(Taipei Ocean Horizone)。

©森原建設

一方、少しずつ大きさを変えたバルコニーを多数つなげることで全体を波打つようにデザインした「一森原(イーセンユェン)」。海藻が靡くようにも見えるこちらは、淡水の海辺に立つリゾートマンションです。いま台北では、こうしたポストモダン建築が次々と建設されています。
「台北では新築住宅の価格が高騰し、オリジナリティやデザイン性を強調した建物でないとなかなか売れません。大規模な公共建築が減っていくなか、前衛的なデザインの建築が住宅やオフィス向けに造られています」
そう語るのは、台湾で「都市探偵」の異名をとる李清志。台北の實踐大學で教鞭を執るかたわら、世界各地の建築や都市文化について雑誌に寄稿したりラジオ番組でナビゲーターを務めたりしています。そんな彼に「台湾で見るべき現代建築」について尋ねたところ、教えてくれたのが前述の2件。
他にも気になっている建築があるといいます。ひとつは、平田晃久が設計を手がけた中山北路の集合住宅「富富話合(フーフーホァハァ)」です。

台北駅から地下鉄・淡水信義線で1時間ほどで着く、美しいオーシャンビューと夕日の観賞スポットとして知られる淡水の漁人埠頭(フィッシャーマンズワーフ)。そのすぐ近くにある、地上29階、地下4階のマンションです。特徴は少しずつサイズを変えたバルコニーで、錯覚効果を巧みに利用して全体が波打つように動くかのような印象を醸し出しています。屋上のスカイラウンジバーや温泉などレジャー施設も備え、リゾートマンションとしての要素も兼ね備えています。


その3. 樹木のように風が通り抜けるバルコニー、富富話合(Taipei Roofs)。 

設計:平田晃久 竣工:2017年 住所:台北市中山區中山北路二段27巷5-1號

「建物から突き出たテラスが、山の斜面に植えた樹木のように見えるでしょう? 都会にいながら、通り抜ける風や、緑などの自然を感じられる。台北市の中でも一等地に、これだけ贅沢な空間の使い方をするなんて、ひと昔前では考えられなかったことです」

台北を代表する商業エリア、中山駅近くに位置する地上12階、地下3階の集合住宅。外観が小さな山のように見えるのは「人もまた山に住む小動物」という考えによるもの。その特徴は住居ごとに設けられた屋根付きのバルコニーで、3×3mの正方形または3×6mの長方形に統一。屋根の勾配は一定で、傾きの方向に変化を付けることで、水や空気の流れをつくり出す。各フロアの平面図がすべて異なるなど、「遊び心と生活感が同居する建物」だ。


その4. 石をモチーフにしたエコな壁をもつオフィスビル、砳建築(Lè Architecture)。 

設計:温子先 竣工:2017年 ●台北市南港區重陽路477號 設計は、斬新なデザインで数々の建築賞に輝く温子先が率いるAedas。基隆河に転がる石をふたつ並べたような外観は、従来のオフィスビルのイメージを一新、大きなインパクトをもたらしたと評判に。大きい建物は地上15階、小さい方は地上2階・地下3階。ビルの左面はエコ素材を使用した、高さ60mの緑化壁になっている。©Aedas

もうひとつが南港軟體園區の近くに位置するオフィスビル「砳建築(ラァ・ジィエンズゥー)」。

「映画『千と千尋の神隠し』に登場するカオナシにそっくりだと話題になりました。従来のオフィスビルの概念を打ち破る特色ある設計で、機能性よりもここを拠点とすることで得られる企業イメージを売りにしています。富富話合もここも、環境に優しくエコを重視した設計になっているのが特徴です」

いま見るべき、“攻め”の公共建築は?


その5. ガジュマルの樹の下に集う世界最大級の芸術発信基地、衛武營國家藝術文化中心(National Kaohsiung Center for the Arts)。

設計:フランシーヌ・ホウベン 竣工:2018年 住所:高雄市鳳山區三多一路1號 TEL:07-262-6666 営業時間:11時~21時 無休 高雄の中心部に位置し、かつての軍用地跡に建設。高温多湿で台風が多い土地柄を考慮し、屋根は耐風圧性と防音性、遮熱性などを備える。 ©Courtesy of National Kaohsiung Center for the Arts (Weiwuying)

 「公共建築の分野では、レム・コールハース率いるOMA設計の『台北パフォーミングアーツセンター』が完成間近とされ注目されていますが、地方都市に目を向けると、宜蘭を拠点にするフィールドオフィス・アーキテクツの黄聲遠が、台湾らしさや地域性を意識した建築で評価を集めています」

そう語る都市探偵が最新の公共建築として挙げたのが、高雄の「衛武營國家藝術文化中心(ウェイウーイン・ゴォジャーイーシュウ・ウェンホァゾォンシン)」。起伏のある曲線の大屋根の下に、オペラハウスやコンサートホールといった施設がつながるように集積した、世界最大級の舞台芸術センターです。設計したのはオランダのメカノー・アーキテクテン主宰の建築家、フランシーヌ・ホウベン。台湾でよく目にするガジュマルの樹群からインスピレーションを得たといいます。
「台湾の公共建築は外国人による設計が少なくないです。衛武營國家藝術文化中心を手がけたのはオランダ人建築家ですが、日本人建築家も人気があります。日本もオランダも台湾の歴史上、かかわりのある国。そこがなにか影響しているとしたら興味深いですね」

舞台を囲むようにヴィンヤード(ぶどう畑)型に設計されたコンサートホール。

屋根の曲線からの勾配を活かした屋外劇場。

最先端の音響設備が導入されたオペラハウス。

ガジュマルの樹の下で涼むような、風が吹き抜けるオープンスペースの広場。


その6. 台南の強い陽光が山頂を模した傘から降り注ぐ、臺南市美術館二館。

設計:坂 茂 竣工:2019年 住所:台南市中西區忠義路二段1號 TEL:06-221-8881 営業時間:9時~17時(金曜、土曜は21時まで)定休日:水 ※2019年6月20日まで入館無料、それ以降は未定 www.tnam.museum

確かに、台湾には坂茂の「臺南市美術館二館(タイナンシィメイシュウグァン アーグァン)」や伊東豊雄の「臺中國家歌劇院」をはじめ、日本人建築家の作品が多く見られます。
「日本は保守的な面もあり、前衛的な公共建築を造るのは難しいと聞いています。日本人建築家による台湾での作品の一部は、実験要素を含めた挑戦でもあり、そして台湾にはそれを受け入れる土壌があるのです」

李が薦めてくれた6件の現代建築は潔いまでに“攻め”たもの。台湾を訪れるならぜひ巡ってみましょう。

こちらの記事は、2019年Pen 6/15号「台湾、発見。」特集からの抜粋です。