米軍下士官率いるスウィング・キッズは、北朝鮮兵士、妻を捜す民間人男性、中国人民義勇軍兵士、女性通訳らによる寄せ集めのチーム。ダンスを通して友好を深めていく。© 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
──なぜ、巨済捕虜収容所を題材として選んだのですか?
監督: 巨済捕虜収容所は、朝鮮戦争を圧縮したようなところなんです。朝鮮戦争は大国の戦争からスタートして、最後は巨済島の理念戦争で終わった、とよく言われています。共産主義か、そうじゃないのかという、それぞれが信じる理念に対して狂信徒のようになり、捕虜同士の殺戮戦が起こりました。巨済島は釜山の南西にある島ですが、北朝鮮や中国の捕虜がいて、そこに西洋人の管理者がいる、米軍には黒人もいる。いろいろな出身の人がいて憎み合っていたんです。混沌とした特異な場所だったと思います。そんな収容所でも、ダンスによってイデオロギーを超えられる、友だちができ、幸せを感じられるのではないかということを見せたいと考えました。
仮面をつけて踊る捕虜。原作のミュージカル『ロ・ギス』が参照したという、従軍記者が撮った巨済捕虜収容所で仮面をつけて踊る捕虜の写真の光景を、『スウィング・キッズ』も映画化に当たり再現。© 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
──ミュージカル『ロ・ギス』が原作とのことですが、どんなきっかけで『ロ・ギス』を観たのですか?
監督: もともとダンス映画が撮りたかったんです。それとはまた別に、こういう時代に生きている人間なので、理念、イデオロギーに関する映画も撮りたいと思っていたんです。別々に考えていたんですが、『義兄弟』を撮ったチャン・フン監督から、『ロ・ギス』というミュージカルがあると教えてもらって。そこで観に行って、これを映画化したいと考えました。
朝鮮人民軍兵士ロ・ギスを演じたD.O.(EXO)。北朝鮮の言葉とタップダンスを猛特訓して臨んだ。© 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
──キャスティングはどのように進めていったのでしょうか?
監督: 最初に、主役の朝鮮人民軍兵士ロ・ギスを演じるD.O.(EXO)さんが決まりました。配役は、まず俳優の姿をチェックします。具体的な演技がわからないので、会ってみて考えていこうとしたのですが、D.O.さんの場合は、会って、信じられなくらいすぐにお願いしたいと。彼の後頭部を見た瞬間、即決でした。
──D.O.さんのどういった点が、監督のイメージするロ・ギスと重なったのですか?
監督: 少年と青年の中間、世間知らずと純真な人間の中間ぐらい、という感じが漂っていて。D.O.さんは、青年であり、純粋なところもあり、反骨的なものももち合わせている。複数のイメージがあり、ロ・ギスにはピッタリでした。
もちろん、タップダンスが重要な作品なのでD.O.さんがEXOという人気のボーイズ・グループにいて、ダンスがうまいことにも期待していました。しかしタップダンスは同じダンスでもまったく違うので、たとえるならそれまでピアニストであった人が、ドラマーにならなければならない、というくらいの難しさがあったと思います。
米軍下士官ジャクソンと捕虜ロ・ギス。ふたりは思いのたけをぶつけるかのような激しいダンスを見せる。© 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
──米軍下士官ジャクソンを演じたジャレッド・グライムスさんは、バラク・オバマ元大統領のための公演でメインダンサーも務めた、ブロードウェイ屈指のダンサーであり俳優でもあります。どんな演技を期待されましたか?
監督: ダンスに関してはもうお任せでした。素晴らしいタップダンサーですので。演技の面ですが、ジャレッドさんは「残された者」の憂いの表情をもっていると思ったんですね。ジャレッドさんが演じたジャクソンは、沖縄で日本女性との間に子を設けた後、巨済島に追いやられ、軍で人種差別を受け、たくさんの苦しみ、悲しみを抱えています。口数は少なく、表情でいろいろ表現してくれました。実際のジャレッドさんは茶目っ気のある方で、周りの人を大いに笑わせてくれる方だったんですが。エネルギーをもった俳優でありダンサーでした。
韓国語、中国語、英語、日本語を話すヤン・パンネ(左、パク・ヘス)。彼女はジャクソンに通訳を買って出てダンスチームに参加、タップ練習に励む。© 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
──スウィング・キッズの一員、ヤン・パンネとロ・ギスが、それぞれ弾けるように踊り出すシーンで、1983年のデヴィッド・ボウイの楽曲「モダン・ラブ」が使われています。50年代の話ですが、なぜここでデヴィッド・ボウイを?
監督: 各自が監獄に閉じ込められたような現実に生きていて、その現実から抜け出したいと切望している、これを表現するには「モダン・ラブ」がうまく合うのではと考えたんです。時代が合わないんですが、この映画はミュージカルの要素ももっている作品なので、ヤン・パンネの頭の中でデヴィッド・ボウイが鳴ってもいいんじゃないかと。ファンタジー的な要素を取り入れたんです。
──『スウィング・キッズ』を拝見して、捕虜という同じ立場に置かれた人々の中にも対立が生まれ、殺戮という悲劇が起こるということを知りました。またこのような過酷な場所でダンスをきっかけに生じた希望についても考えさせられました。
監督: 国家と国家の間に「情」はないと思うんですが、人間と人間の間には「情」があると思っています。世の中がどんなに複雑になっても人と人との関係においては解決できることが多いのではないでしょうか。現在の状況を見ると、韓国と日本の関係がよくないと言われていますが、個人を見るとお互いに好感をもっている人がたくさんいるんです。「情」とは、私たちがいまこうやってインタビューをしている間も芽生えている、「絆」だと考えてもいいでしょう。だから、こうして人と人が出会うことはうれしいことですね。