映画監督・白石和彌×音楽プロデューサー・松隈ケンタ、貴重なクリエイション談議を初公開!

  • 写真:榊 水麗
  • 文:Pen編集部

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Penクリエイター・アワード2019を受賞した映画監督、白石和彌さんのトークショーが2020年1月31日に実現した。「白石監督がいま会いたいクリエイター」として招かれたのは、ガールズグループBiSHなどの楽曲を手がける音楽プロデューサー、松隈ケンタさん。

映画と音楽というフィールドでそれぞれ活躍するふたりによる、異色のクリエイション談議。熱く濃い内容で、初対面とは思えない盛り上がりを見せた、貴重なトークの様子をレポート!

13年前に活動休止した、松隈さんのバンドのファンだった。

白石:映画関係のトークイベントは割とよくやっていて、せっかくの機会なので刺激がほしいなということで、松隈さんとお話をしてみたかったんです。本当に楽しみにしていました。

松隈:僕は映画監督と対談するのはもちろん初めてです。映画について娯楽大作くらいしかチェックしない人間なので、恐れ多いなと思いながら来てしまったんですけれども。でもクリエイターとしての話を一緒にできればなと思って楽しみにして来ました。

白石:どっぷりな清掃員(※BiSHのファンを指す)の方には申し訳ないんですけれども、僕も清掃員で(笑)。僕は監督になったのが2008年くらいで、その以前には長いこと助監督をやっていました。ちょうど30歳を超えた時に監督になるための準備をしますと宣言し、とある映画会社が企画開発をしながら一緒に準備をしようよと声をかけてくださって、2年間くらいデスクワークをしていたんですよ。その会社がavexさんとよく仕事をしていて、当時のプロデューサーから「聴いてもらいたいものがある」といただいたCDが、Buzz72+のものだったんです。「屋上の空」という曲です。

松隈:僕が15~16年前にやっていたバンドですね。デビュー曲です。

白石:やたらとかっこいい曲だなって。その後、『Brand-new idol Society』というBiSのアルバムを聴いたり、ドキュメンタリーを見たりしているうちに、どうやら曲をつくっているのがBuzz72+の松隈さんだということにどこかで気づいて……。たくさん曲をつくっているじゃないですか。そのあたりのイメージってなんなんだろうっていうのを聞いてみたいと思っていました。

松隈:なるほど……もうびっくりして(笑)。BiSHとかBiSとか、最近だとサウンドを少し手伝っている「豆柴の大群」っていうアイドルあたりを聴いている方は結構いらっしゃるんですけれど、白石監督が13年前に活動休止した僕のバンドを聴いてくださっていたというのは、楽屋で聞いてびっくりしました。「なんで僕が呼ばれたんやろ」っていう次元からの「そんな前から知っていただいてたんだ」っていう驚きが、すごくうれしかったですね。


白石和彌●1974年、北海道生まれ。若松孝二に師事し、助監督を務める。2010年に初長編『ロストパラダイス・イン・トーキョー』を発表。代表作に、国内の映画賞を総なめにした『凶悪』(13年)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)、『孤狼の血』(18年)など。19年は『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』と3作品を公開。

300曲をつくったら、「でかい案件が決まるかもしれない」と言われていた。

白石:2007年にバンドが活動休止して、作曲家になったのはその後ですか?

松隈:僕はインディーズの頃から自分で作曲を行っていたんですけれど、SMAPさんの「夜空ノムコウ」とかKinki Kidsさんの楽曲の編曲をいっぱいやっているCHOKKAKUさんという方に拾われてバンドがデビューしたので、編曲、サウンドプロデュースを勉強したというか、教えられたんですね。自分がバンドとしてプロデュースされていたので、バンドが解散した後は自然とそういう仕事に就きたいなというのはあって。当時、CHOKKAKUさんから言われていたのが、「曲を提出しても、そう簡単に決まるものじゃないから、まずは100曲は1年でつくりなさい」と。牛丼屋とスタジオのバイトを24時間かけもちしながら曲をつくってました。

白石:100曲……!

松隈:はい、「提出しなさい」と。で、落とされる。「でも100曲超えるあたりからポツポツ決まってくるから、300曲まで頑張りなさい。300を超えたらでかい案件が決まるかもしれない。それくらいやらないと食っていけないよ」と最初に言われていたので。なので1年で300曲、ガーっとつくって。

白石:苦にはならなかったんですか?

松隈:300曲までは苦にならなかったですね。実際に売れてる人が「300つくればいい」と、数字で提示してくれたので(笑)。作曲家と音楽プロデューサーって、僕みたいに兼任する人もいるけれど、まったく別の職業なんですよね。映画にたとえると、作曲家っていうのは原作者とか脚本家にちょっと近い。音楽プロデューサーとか編曲家というのは映画監督。作曲家というのは印税だけの仕事なので、曲を出してもプレゼンが決まらない限り収入はゼロ円なんですよ。100曲全部がゼロ円。僕も途中までやってたんですけど、それよりは自分たちで新しいアーティストをつくったりだとか、そういうのも並行でやっていったらいいんじゃないかなと思って、BiSというアイドルを自分たちでつくりました。作曲プラス音楽プロデュースという部分まで手がけたら、仕事になるんじゃない?って思ったんですね。

松隈ケンタ●1979年、福岡県生まれ。音楽制作集団SCRAMBLES代表。ロックバンド、Buzz72+を率いて上京後、2005年にメジャーデビュー。バンド活動休止後に作詞・作曲家としてアーティストへの楽曲提供を始め、柴咲コウ、中川翔子、BiS、BiSHなど数多くのアーティストを手がける。今年1月に、Buzz72+の約13年ぶりの再結成を発表。

映画も音楽も、ひとりの力じゃつくれない。

白石: BiSのきっかけは、渡辺淳之介さん(※BiS、BiSHなどが所属するWACKの代表取締役、プロデューサー)との出会いでよね。それは曲をつくっている過程で出会ったんですか?

松隈:僕、仕事がない時に音楽スタジオでバイトしてたんですよ。そこの社員として入ってきたのが渡辺君で、ふたりでサボってたっていうのが出会いですね(笑)。僕はサボりながらスタジオで曲をつくっていたんですよ。渡辺君も、スタジオの社員というよりはアーティストを育てて、送り出したいっていう夢があったので、じゃあ彼がなにかアーティストを手がける時に僕が曲をつくりましょうっていうコンビが生まれました。

白石:なかなかそんな出会いないですよね。SCRAMBLESっていう音楽制作チームをつくったのは、ひとりより仲間がいたほうが豊かなものがつくれると思ったんですか?

松隈:そうなんですよ。映画ってひとりでつくれないじゃないですか。カメラマンがいて、脚本家がいて、照明がいて、といっぱいいてチームで制作されてて、なのになんで音楽家だけひとりでやらなきゃいけないのっていうのがすごく疑問だったんです。バンドをやっていたからもありますよね。僕はギターだったんですけど、ドラムはドラマーが考えるし、ベースはベーシストが考える。逆にひとりでつくった曲が、知らないミックスエンジニアさんとか知らない編曲家さんとかに渡っていって……。

白石:いつの間にか違うことになっちゃうんですね。

松隈:はい。作曲で僕に決まっても、レコーディング現場に呼ばれないので。別の方がプロデュースする場合はもうデモをつくってお任せになっちゃうので、出来上がっても、僕がやりたいことはできないなと思ったんです。

白石:そのへんが僕の琴線にすごく触れるんです。松隈さんがおっしゃったように、映画っていろんな人の力の集合体なので、最終的に「俺、なにやったんだろう?」ってくらいになるのが理想。僕は昔の映画人たちを愛していて、その人たちの力を使って映画をつくることが好きなんですね。松隈さんはギターを弾かれてますけれども、他の楽器のアーティストを呼んでくるとか、それがただの打ち込みじゃなくて生音にこだわったりだとか、そういうことがやっぱり曲の力、作品の力になっているんじゃないかってすごく感じるんですよね。

松隈:まさにその通りで。正直、やっぱり音楽業界ってCDが売れなくなったので、予算がどんどん下がっています。ドラムはパソコンで打ち込みでつくったりして、生で叩くなんてなかなかできなくなってきているんですね。簡易的な音楽になりつつある。でも自分たちでやれば、しかも仲間も僕の音楽をわかってくれる人を集めてチームにすれば、古き良きロックサウンドだったり、逆に言うと他と違う新しいものができるなと思って。音楽が安いものになっていくのが嫌で、なにかできないかなっていうところですね。

白石:それが松隈さんがつくられているサウンドの厚みが突出している理由なんじゃないかなって思うんですね。そういう1個1個のこだわりとか、「お金ないけどなんとかしようぜ」っていうインディーズ魂とか、やっぱり作品に力を与えるんだなと感じますね。

会話から見える、両者のクリエイションの共通点。

松隈:メジャーになってくると、「メジャーに染められる」みたいなことがよくあるじゃないですか。いろんな人や意見が集まってくる中で、アーティストの純度は絶対薄くしたくないっていうのはいまでも思っています。もちろんいい意見は全部取り入れるんですけど、なんか意味わかんない意見とかを全部無視できる環境がすごく大事だなと思って。自分の出したい音を、純度の高いものを、99%くらい自分のイメージでかっこいいものをつくって、残り1%くらい他の人の意見を入れる。

白石:へぇー! 僕も入れたい気持ちはあるんです。でも映画って1本つくるのに結構な労力がかかる……毎日のようになにかが崩れ落ちて……。

松隈:(笑)。だから僕はすごいと思うんです。僕の規模とは予算も、人数も全然違うので。作品の中で、ご自身の個性だったり、らしさだったりはどうやって出すんですか?

白石:僕は松隈さんとは逆で、「自分はなにをつくってもそんなに面白くないよね」って昔から思ってて。ただ、人と違うことをやらないとまず注目してくれないだろうなっていうのはあるので、普段、人が映画にしないようなところだとか――もともと僕はそういうことに興味があるんですけれど――なるべく掘り下げていく。できるだけいろんな人の力を借りて、作品を高めていこうっていう考え方があるんですよね。

松隈:僕も一緒にやってる奴ら……メンバーとか、一緒に歌ってくれるアイドルたちとか、彼らのニュアンスを入れていきたいっていうのはすごくあります。

白石:うんうん、よさを引き上げながらですね。

松隈:はい。そういう感じだとまったく一緒の考え。僕が思う完成形がこれで、これを出せるメンバーを集めようってなると限界が来ちゃうと思うので。逆に自分は芯の部分だけもってて、あとは連れてきた人がどんなプレイするのかとか、どんな歌を歌ってくれるのかとか、いいところを拾っていってつくります。

白石:たとえばボーカルの調子が悪い時とかどうするんですか?

松隈:僕のこだわりは「その日に絶対録る」って決めていること。貧乏性なので(笑)。

白石:僕も俳優さんが調子悪い日とかありますが、その日のうちになんとか撮り終えるっていうのはある。

松隈:一緒ですね。その日のコンディションで最大なものを引き出そうと頑張ります。自分のイメージより、声がガラガラになったらそっちでかっこいいじゃんって方向にもっていったりだとか、「もっとしゃがれた声で歌ってみようよ」とか。歌い手さんに僕のイメージも伝えないし、本人のイメージももたないでって感じで歌わせますね。たとえばBiSHは6人組なので、6人の歌を全部録るんですよ。一般的にアイドルさんは事前に歌割りっていうのを決めて、時間短縮で、サビとか全員でわーって歌って、誰が歌ってるかわかんないじゃないですか。

白石:(笑)

松隈:誰が誰かわからないのは意味がない。

白石:確かに。松隈さんの曲はユニゾン少ないですもんね。ユニゾン、ほぼない。

松隈:そうです。よく「なんでユニゾンしないんですか?」て聞かれるんですけど「ダサいじゃん」って、ただそれだけなんですけど(笑)。だから逆に全員録って、その前後の流れとか、歌詞にどう乗ったか、逆にどう乗っているかをこっちで判断してあげるって感じですね。

白石:なるほど。いろいろ考えるのはプレイヤーのほうがいいだろうという考えなんですね。僕も割とそういうところがあるかもしれないです。映画だと、事前にカット割りを決めたりだとか、本来やるべき作業ってすごくいっぱいあって。映画の世界では、すべて事前に絵コンテがあるのが当たり前なんですよ。大ヒットしている『パラサイト』とかも、全部コンテやカット割ができている。でも僕は、スタッフとどうしても共有しなきゃいけないカット……たとえばクルマがクラッシュしたりだとか、準備が大変なところは用意するんですけど、それ以外はフラットにいきます。俳優さんに演じてもらって、決めていく感覚に近いんじゃないかな。

つくりかけたら、「完成させる」ことが大事。

松隈:僕、白石監督の『凶悪』を拝見して、カメラの角度にものすごくこだわっているなと感じました。だから、もしかしたら緻密に「こういう絵が撮りたい」って考えているのかなって思ったんです。その場でちゃんと見て、決められているということですよね?

白石:それもありますし、決めないで入るんですけど、カメラを置く以上、なにかを決めていくわけじゃないですか。その時に、対象の俳優に逃げ道を与えるか、逃げ道を与えないか。

松隈:それは空白のような?

白石:空白に近いかもしれないですね。カメラに対して、芝居に対しての余白をもたせるのか。あとは緊張感をどれだけつくるのかとか、それでカメラの置き位置は決めていきます。

松隈:なるほど!どうやって撮っているんだろうってすごく思っていたんですよ。決めちゃうと俳優さんのよさが出ないんじゃないかなと思っていたので。

白石:俳優さんの性格にもよると思うんです。決めてもらったほうが力を出せる人もいるでしょうし、それはケースバイケースです。でも基本的には「次はなにやるんだろう?」っていう緊張感はもたせておくようにはしてます。

松隈:すごく似ている感じがします。超マニアックな話になっちゃうんですけど、ドラムのタイコの「トン」って音を拾う時に、教科書に書いてある角度っていうのがあるんですけど、僕はそれが嫌いで。ドラマーのその日の体調とかスティックの素材とか気温とかで、ドラムはいちばん音が変わる。だからドラマーがウォーミングアップして何回か叩いてから、エンジニアに自由な角度で音を拾いなさいと言うんですよ。じゃないと個性が出ないので。カメラって僕らにとってのマイクなので、録り方で音が全然違うじゃないですか。それをその場で全部考えますね。

白石:作曲をする時は? さっき300曲を1年でつくったと言っていましたが、いまに至るまで数えきれない曲をつくってきたわけじゃないですか。

松隈:そうですね、いま700~800曲くらいだと思うんですけど、世に出ていないものも含めると、多分1000、2000曲は全然あると思いますね。

白石:……なにで発想しているんですか?

松隈:降りてくるとか、トイレで浮かぶ人とか結構いるんですけど、僕は「つくる!」って決めて、つくってます(笑)。「今日は2曲つくる!」って絞り出して。天才じゃないのでポンポン出たりはしないので、ギター持って「こういうコードでつくろう」って決めるとか。「いいのができない……クシャクシャ、ポイッ」というのはやらないようにしてますね。つくりかけたらそれはデモとして完成させる。はい1個できた、はい次、と。そうすると上手になっていくので、技術が大事だなって。

白石:ちゃんと完成させるんですね。

松隈:はい、完成させるのはすごく大事ですね。へぼい曲でも。

白石:僕も20代の頃に脚本を書いていて。2時間分の脚本ってすごく時間がかかるんですよ。途中でやめちゃって、また新しいの……って。書いている最中って新しいのが浮かぶんですよ。これはいまだにありますけど、でも最後まで書ききるっていうのが大事だよっていうのは、30歳越えてから納得しましたね。

松隈:そうですよね。2時間の映画だったらどれくらいかかるんですか?

白石:ある程度、頭の中にできていれば1週間くらいで書けちゃいますけど、もう本当にハマったら1カ月、2カ月……。何年もかかる人もいっぱいいます。

松隈:そうですよね。僕はもう、2時間っす!

白石:(笑)。翌日聴いて、「違うな」ってことにはならないんですか?

松隈:それはなくて。「カッケェ!!」とは思いますけど(笑)。「戻らない!」って決めてる系です。

白石:すごい。僕は見直してみて、意地汚く細かく直してますよ(笑)。語尾を直したりとか、そんなことやってもほぼ意味ないのに。演出している時は全然違うんです。脚本になるとそういう性格になっちゃうんです。人格がちょっと違う感があります。

松隈:でも映画監督とか脚本家の方はたくさんの人に共有しないといけないから、最初にかっちりしないと、後から変わったりしたら意味がなくなる、というところがあると思うんですね。

白石:そうですね。根本的なところは変えないようにしてますけどね。

松隈:僕の場合は歌を録る日まで変えて大丈夫なので。レコーディング当日でもバンバン変えていいので、ざっくりつくっていたほうがどんどん進化していく感じ。デモは割とラフにつくっていますね。

白石:それで言うと、カチッと完成している脚本よりは、わりと隙間がある脚本のほうが、演出していて楽しいというのはあります。

松隈:あぁ、そうですよね。脚本家っていう考え方と監督っていう考え方とが分かれているんでしょうね。

故郷に拠点をもつことのメリットとは?

白石:2018年に出身地の福岡に拠点を移されましたが、このいまいちばんイケイケなタイミングで、福岡に拠点を戻したのはなにかあったんですか?

松隈:1年半前に地元の福岡に帰ったんですけど、イケイケの時に帰りたいって最初から思ってたんですね。東京の飯が、13年住んでたけど合わない(笑)。あと娘が生まれたんですけど、娘が東京弁で喋り出したらショックやなって。

会場:(笑)

松隈:みんな笑いますけど、けっこう本気で、そんな九州の人は多いと思いますよ。北海道の方はそんなことないですか?

白石:北海道に戻って拠点に、というのはなかなか聞いたことないですね。

松隈:ないですか。九州は物がある地域なので、帰ってもそこそこ生活できちゃう。でも大阪とかだとあんまり変わらないじゃないですか、結局、都会だから。

白石:いや福岡も都会ですけどね(笑)。ただ狭い範囲でいろいろ揃っているということですよね。

松隈:そういうことです! 生活に困らないし、ちょっと行けば山も海もいっぱいあって適度に田舎なので。クリエイターは多いですよ。漫画『キングダム』の原泰久先生はスタッフまで連れて福岡で描いてますから。僕もそれを真似して引っ越しました。

白石:ちょっとね、興味あるんですよ。北海道出身なので、そういうこともあり得るのかなって。作品をつくる上でどういう支障があるのかな、とか。どうですか?

松隈:全然、余裕です。むしろ捗りますね。僕の場合、東京にいる月の半分くらいでレコーディングを行ったり、取材を受けたりするんです。福岡に帰るとレコード会社の人から〆切とか追っかけてこないので(笑)、曲づくりとかイメージのインスピレーションを湧かせられる。集中できる感じがありますね。福岡で曲づくりして、東京に来てその先を進めるというような、脳みそを完全にふたつに分離できたので。

白石:なるほど。いいなぁ~。

香取慎吾さんは、プロデューサー目線がある。

白石:ずっとBiS、BiSHなど女性アイドルグループを中心とされてきましたが、年明けにパーフェクト・ビジネス・アイドルの香取慎吾さんの「FUTURE WORLD(feat. BiSH)」という曲を手がけられていました。どんな印象でした?

松隈:監督も香取さんと映画『凪待ち』をつくりましたよね。本当にスーパーアイドルでしたね。歌唱力がとてもあるという方ではないと思っていたんですけれども、ものすごく練習してきたりだとか。僕は“歌い回し”といって、メロディにすごくこだわるんです。 “しゃくり”というものですね。アイドルさんとか歌手の方って自分の歌いやすいようにしゃくりまくるんですよ、だいたい。カラオケ行っても「その歌い方イラつくー!」って人いません? 

会場:(笑)

松隈:あれですよ。あれが多いんですけど、香取さんからは逆に「松隈さん違うよ」って言われたんですよ。レコーディング最終日に歌詞が変わったので、「松隈さんの仮歌でのデモはこうなってるから、この歌詞で松隈さんの歌を録ってほしい」って当日いきなり言われて、香取さんの前でいきなり歌わされて。

白石:(笑)

松隈:窓の向こう側にコントロールルームが見えるんですけど、「香取さんどうすか!」って言うと、さっきまでサングラスしてなかったのにもう一回サングラスかけて、「こえー!」とか思って(笑)。

白石:立場逆転してる(笑)。

松隈:その時に「デモと違う」と言われて。もちろん歌詞が変わると歌詞に合わせても調整するんですけど、香取さんが「前のほうがいい」とか、「前に合わせるならここは松隈さん、ちょっと違ってる気がする」とか、「具体的な音符はわからないけどこの歌詞のこの部分は違う」とおっしゃるので、僕が横にあったピアノで探ったり。

白石:香取さんってプロデューサー目線がありますよね。

松隈:はい。客観的に見られてるなと思って。「なんか違う」をすごく大事にされている方なんだなと思いました。

来場者からの質問への答えを、一挙公開!

Q:いちばん影響を受けた人や出来事は?

白石:影響を受けた人物は……なんやかんや師匠の若松孝二監督。映画づくりということにおいてはもちろんですけど、どういう生き方してたんだっていうのは、いちばん背中を見ていた方なので、影響を受けてますね。(影響を受けた)出来事はその都度いろいろありますけど、母親が亡くなった時のこととか。人との別れや出会いをやっぱりすごく覚えているというのはありますし。今日も松隈さんとこうやって出会えたので、今回の対談だけじゃなくて、なにか一緒にできるといいなって話をしていました。

松隈:僕はいちばん好きなギタリストがThe Whoというバンドのピート・タウンゼントっておじさんがいるんですけれども、いちばん影響を受けてますね。ギターをボコボコにしちゃうような人ですけど(笑)。


Q:作品をつくるために、どのようなインプットをしていますか?

白石:僕の場合は、ニュースを見たりとか、いろんな人の気持ちをできるだけ感じられるようにしていますね。海外で多くのデモがあって人が何千人と亡くなっているとか、そういうことが自分の身に起こったらどうなるかと想像してみたりだとか……。ニュースが多いかもしれないですね。よく見て、感じるようには日々しているつもりです。

松隈:僕も昔は同じように社会的なことが音楽に活きるかなと思っていたんですけれど、音楽の場合はもうちょっと身近な方が活きるんじゃないかなと思うようになってきたので、自分のまわりの人間とか、飲み会で会った人間とか、偶然すれ違った奇抜な格好した人とか、ずーっとじろじろ見て、それを曲にしたりしますね。

白石:人間観察。

松隈:人間観察ですね。身近で起きた出来事はすぐ仮歌詞にして。ムカつく人がいればすぐ曲にするとか(笑)。するとストレスも発散できるし、インスピレーションも湧きます。


Q:作品をつくる際、テーマや「これだけは譲れない」ということはありますか?

白石:映画をつくる時は、強い者よりは弱い者の味方になりたいとは常に思っています。なにか罪を犯したり悪いことをした人は、映画の中ではそれなりの報いを受けたほうがいいだろうな、というのは脚本づくりの中で脚本家と話したりします。松隈さんの言うように99%自分のイメージで作品をつくるというのは、なかなか映画だと難しくて。昔、深作欣二監督に「何%くらいですか?」って20歳くらいの時に呑み屋で聞いたことがあって、「よくて30%」って言ってました。あれだけの天才で30%なんだから、僕は10%でもなんとか映画の中に残せるようにとは、いつも思っています。

松隈:基本的には歌い手さんがいたりグループがいるので、そのグループがもっているストーリーだったり、一人ひとりのメンバーの境遇だったり、そういうドラマのBGMだと思って僕は曲をつくっています。こっちのストーリーを押し付けるのではなく、僕のもっているストーリーと彼女たちのもっているストーリーとの共通点を、サウンドとか歌詞とかにして曲にもっていきたいなとは、いちばん考えていますね。

白石:それでいうと、映画とかドラマの音楽もそれに近いので……興味はありますか?

松隈:めちゃくちゃあります!もう、今日お会いできるんでいつでも呼んでくださいって言おうと思ってました(笑)。J-POPつくるのも大好きで夢だったんですけれど、映画とかドラマに曲を付けるというのは作曲家として夢だったので。夢だったって言うともう決まったように聞こえますけど(笑)。劇伴の素人なりに面白くて新しいものができると僕は思っているので、おススメです。

白石:その場合、「ちょっと僕のイメージと違うので、もう一回ここだけつくり直してください」っていうのは受け付けますか?

松隈:それはもう、30%まで落とします(笑)。ドラムのマイクの角度だけ僕に決めさせてください(笑)。

Q:イメージをチームで共有する時に、どういうことを大事にしていますか?

松隈:一般の企業や仕事も同じだと思うんですよね。ただ、「ご査収ください」とか真面目な文面で伝えると、解釈する側がどんどんひん曲がって、ひとつのプロジェクトがバラバラになって誤解を生むことがすごく多くなると思います。なので僕のチームでは「モヤっと喋るな」ってすごく言いますね。モヤっと逃げるなと。音楽なので、たとえば「ここにドーン!という音入れて」「ドカーン!と歌ってくれ」とか擬音はめっちゃ多いですね(笑)。

白石:僕もディスカッションをするしかないかなって思いますね。まとまらないことも多々ありますが、監督という立場なので最終的には任せてくれと。俺の背中を見てついてこいというパターンはありますけど。でも相手やみんながなにをやりたいかというのは聞きながら、できるだけ僕が汲んでいくという感じです。


Q:音楽や映画の世界を志す若者に対してのメッセージを。

白石:よく映画って人生に必要ないとか、なくても生きていけるとか言われるんですけど、僕はもはやそんな時代じゃないと思う。CDも売れていないかもしれないし、映画に携わる人口も減ってきているかもしれないけど、でも映画を見ている総数、音楽を聞いている総数は絶対増えているはずです。ただ、それがお金じゃないところになっちゃってるっていうのが、難しいところではありますけど。それがいま、たまたま境目の時代にあるだけで、作品をつくれる力があればどうやったって生きていけるし、これからAIの社会になっていく中でたぶん人の心を動かせるのは、ちゃんと真摯に作品をつくっていける人たちだけだと僕は信じています。まだまだ映画自体、音楽自体が力を失うことはないと思っているので、そこを信じてやっていくということは強く言いたいし、それが僕らの役割なのであれば、ちゃんと後に続く人たちがやっていける道をつくるのも、僕らの仕事なのかなと思っています。

松隈:一言一句、一緒です。ただ、チャンスになっていると僕は思ってますね。映像もYouTubeが流行ってなんでもつくれる、音楽もパソコンで誰でもつくれるという時代になって、入り口が広がってコンテンツも多くなって、サブスクで音楽が聴きやすくなって……。なので単価も下がっているんですけど、逆に予算がないから技術がある人、ハートのある音楽、ハートのある映画をつくっている人は減ってきているので、ちゃんとした音楽をつくり続けるしかないかなと思っていて。どっちが悪いとかいいとかないんですけど、ライトなものも必要になってくるけれど、血の通った音楽をつくり続けていくしかないかなと。そうしたら評価してもらえるに違いない、というイメージです。


Q:2020年は、どういったことをしたいですか?

松隈:僕はCDの売り上げ枚数とか何万枚売りたいっていうのはあんまりなくなってきているし、おかげさまでBiSHが世の中に広まってきているので、あとは紅白だけです。紅白で僕の曲が流れたことは一回もないので。

白石:今年あるんじゃないですかね。その時は福岡で見ますか?

松隈:やっぱり、かーちゃん家で見たいですね(笑)。福岡の実家で。親族を集めて自慢したいですね。正座して見ろって。でも、映画の音楽とか白石監督の仕事に携われたらすごく面白いなと思います。

白石:去年、一昨年と3本ずつ映画を公開してぐちゃぐちゃだったので、今年の公開作はほぼないから、つくることにすごく集中できる年だなと思っていますね。なので、落ち着いて自分なりにクオリティをあげながらやっていきたいですし、松隈さんとご一緒できるように頑張りたいな、というのはありますね。ひとつ企画の話があるんですけど……。

松隈:マジですか!もうやりましょう!

白石:映画をつくります。



この日初めて顔を合わせたにもかかわらず、終始話が止まらなかった白石と松隈のふたり。作品づくりに真摯に向かう姿勢に、互いに共感することが多かったからだろう。トークショーでも話に出た、ふたりのコラボレーションが実現する日に期待したい。