鬼才、ターセム監督の新たな世界に触れる『セルフレス/覚醒した記憶』。

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    ブレイク・ライブリーと結婚し、ひとり娘の父でもある“最もセクシーなパパ”ライアン・レイノルズ。

    『ザ・セル』から『白雪姫と鏡の女王』まで、豪華絢爛かつ悪夢的な映像で観る者をのけぞらせてきた監督、ターセム・シン。最新作の『セルフレス/覚醒した記憶』も冒頭から、趣味がいいのか悪いのかよくわからない金色の装飾のマンションや、ありそうでなさそうなクールな手術室などが映し出され、ググッとターセムならではの世界に引き込まれます。けれども物語が進むうちに、これまでの監督作とは様子が違うことに気づかされるはずです。

    主人公は政界、財界へも大きな影響力をもつほど成功を収めた建築家、ダミアン。ガンのため余命半年と宣告された彼は、確執のある娘との関係を見直そうとしますが、拒否されてしまいます。そんななか、天才科学者の誘いに乗り、遺伝子操作でつくったという若い肉体に自らの脳の中身だけを転送することに同意。新たな体を手に入れたダミアンですが、自分のものではない記憶に悩まされるようになります。なんとその肉体はクローンではなく、妻と幼い娘をもつ特殊部隊の兵士、マークのものだったのです。

    大富豪のダミアンを演じるのは、もはや出てくるだけで何やらありがたさと知性を醸し出すベン・キングズレー。そして若い肉体に生まれ変わってからのダミアンを、『デッド・プール』でも大変な目に遭っていたライアン・レイノルズが演じています。脳内は大富豪のダミアンと兵士のマークの意識がまだらになった状態ですが、肉体はなぜかやたらと屈強でキレがいい。肉体が覚えている記憶をたどっていく展開には、『ボーン・アイデンティティ』を思わせるスリルと興奮も感じました。

    猟奇殺人鬼の精神世界に潜入した『ザ・セル』、そして他人の肉体に頭脳が潜入する『セルフレス』。これまで映像美に注目が集まっていたターセムですが、SF、アクション、ミステリーを織り込みながら家族愛へと着地していくこの最新作は、まさに新境地。監督ならではの映像美と先読みできないストーリーが融合したエンターテイメントになっています。(細谷美香)

    製作は『LOOPER/ルーパー』などで知られるジェームズ・D・スターンが務めている。

    富と権力をもちながら家族の愛に恵まれない男を演じるのはベン・キングズレー。

    ©2015 Focus Features LLC, and Shedding Distribution, LLC.

    『セルフレス/覚醒した記憶』

    原題/Self/Less
    監督/ターセム・シン
    出演/ライアン・レイノルズ、ベン・キングズレー、ナタリー・マルティネスほか
    2015年 アメリカ 1時間57分 
    配給/キノ・フィルムズ
    9月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。