箭内道彦が選ぶ、井上陽水楽曲のMY BEST 3──いきなりさよならから始まる時間の流れと、CDが手放してしまった表裏の展開が美しい。

  • 文:杉本勝彦

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1位.いつのまにか少女は (シングル「夢の中へ」収録)

2位.帰れない二人 (『氷の世界』収録)

3位.招待状のないショー (『招待状のないショー』収録)


小学生の頃、クリスマス会のプレゼント交換で当時発売されたばかりの『氷の世界』のカセットを手にし、思いがけず井上陽水の音楽に触れた箭内道彦さん。その後に聴いた「傘がない」で、箭内少年は心酔する。

「『傘がない』の入りと結びの対照と通底から受けた衝撃。本当のことを歌う唯一のアーティストだと、小学生ながら、小さな胸にショックを感じました」

箭内さんは、2004年発売の井上陽水のトリビュート盤のジャケットを手がけている。

「若かった僕は陽水さんとの仕事に力が入り、インパクトを追いかけすぎてしまいました。店頭で五十音順に並ぶからと『あ』と『ん』のタイトルを付けた2枚同時発売案や、収録曲名をすべてつなげた世界いち長いタイトルを提案したり。最終的に陽水さんから美しいスケッチとともに『YOSUI TRIBUTE』というタイトルが届きました」

1枚だけなんて選べないと断りを入れつつ、好きなアルバムは『招待状のないショー』だという。

「曲順を含む構成が美しい。1曲目の『Good, Good-Bye』から表題曲につなぎ『枕詞』へ渡す。最後の曲が『結詞』。CDが手放してしまったA面B面という表裏と時間の宇宙を考えてしまいます」

箭内道彦●1964年、福島県生まれ。博報堂を経て独立。「風とロック」を設立し、タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE」など話題の広告を手がける。福島県クリエイティブディレクター、東京藝術大学 学長特命・美術学部デザイン科教授。

こちらの記事は、Pen 2020年5月1・15日合併号「【完全保存版】井上陽水が聴きたくて。」特集からの抜粋です。