週末のシネマ案内: 寛容であることの尊さを描く、大人の胸にも染みる冒険活劇『パディントン』

    Share:

    パディントンの声をつとめたのは、『007』のQ役でもおなじみのベン・ウィショー。彼の穏やかで優しい声が心地よく響きます。

    目深にかぶった赤い帽子に紺色のダッフルコートがトレードマーク、絶妙な角度で上がった口角がチャーミングなパディントン。イギリスの作家、マイケル・ボンドの児童書『くまのパディントン』から生まれた、世界中で愛されているクマです。もしも原作を手に取ったことがなくても、このキャラクターには馴染みがあるという人は多いかもしれません。誰もが知るパディントンを主人公にして、初めて実写化したのがこの映画。子ども向きとあなどるなかれ、大人だからこそ楽しめる見どころも存分につまった、良質なファミリームービーのお手本ともいえるエンターテイメントになっています。

    住む場所を探して、ペルーの山奥からロンドンまでやって来たパディントン。大好きなマーマレードも食べ尽くし、知り合いもいない大都会の駅で戸惑っていたとき、ブランウンさん一家と出会います。ママがつけてくれたのは、駅名にちなんだ名前、パディントン! 一家の邸宅に泊めてもらえることになったものの、トイレを壊したりバスルームを水浸しにしたりとトラブル続出。慣れない都会暮らしをスタートさせたパディントンは、自分のすみかを見つけることができるのでしょうか。

    映画のなかでおしゃべりするクマと言えば口の悪い『テッド』がおなじみですが、こちらはイギリス好きなおじさんに育てられただけあって、どんなときにも礼儀正しく穏やかで、言葉使いも時代錯誤なほど丁寧でエレガント。実写化にあたって毛並みにケモノ感が残されているから、中身の英国紳士っぷりとのギャップが私たちを笑わせ、ときには切なくさせてくれます。階段の手すりを滑り降り、ロンドンの名所を駆けまわり、アクロバティックに繰り広げられるドタバタの冒険劇は、マジカルで胸躍る瞬間の連続。ニコール・キッドマン演じる、パディントンを狙う謎の美女の存在も楽しいスパイスになっています。

    記憶のなかの古い絵本のようにちょっぴりノスタルジックな色彩の映像に浸りながら、子ども心にかえることができる95分。難しいことなど考えず、ハッピーな感触に満ちたラストを見届ける頃、この映画は偽りのない自分を受け入れてくれる、居場所探しの物語であることに気付かされるはず。頭でっかちな描写はないけれど、パディントンは今、ヨーロッパが問題に直面している、難民を象徴する存在にも思えてくるのです。マイノリティやよそ者と呼ばれる人たちを受け入れて、互いへの想像力をよすがに、さりげなく寄り添いあえるユートピア。この作品が描き出す寛容であることの難しさと尊さは、大人の胸にこそ響くメッセージだといえるのではないでしょうか。(細谷美香)

    パディントンを助ける一家の優しいママを演じるのは、ウディ・アレンの『ブルージャスミン』でオスカー候補となったサリー・ホーキンス。

    隅々まで遊び心がちりばめられた一家が住む邸宅のインテリアも、イギリス映画ならではの楽しさを感じさせてくれます。

    © 2014 STUDIOCANAL S.A.  TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear™, Paddington™ AND PB™ are trademarks of Paddington and Company Limited

    『パディントン』

    原題/Paddington
    監督/ポール・キング
    出演/ベン・ウィショー(声の出演)、ニコール・キッドマン、ヒュー・ボネヴィル、
    サリー・ホーキンスほか
    2014年 イギリス映画 1時間35分
    配給/キノフィルムズ
    1月15日より全国で公開。
    http://paddington-movie.jp