あの日、エレベーターに閉じ込められた5人の運命とは? チャーリー・シーン主演作、映画「ナインイレヴン 運命を分けた日 」が必見です。

  • 文:赤坂英人

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© 2017 Nine Eleven Movie, LLC

2001年9月11日に起きたアメリカの同時多発テロ事件に巻き込まれた人たちを描いた映画『ナインイレヴン 運命を分けた日』が、この9月に日米ほぼ同時に公開されます。作品はあのテロ事件が起きたとき、ニューヨークの世界貿易センター・ビル・ノースタワーのエレベーターに、偶然乗り合わせた5人の乗客と、インターフォンを通じて彼らと話すことができた女性オペレーターを中心に描かれたヒューマン・ドラマです。

9月11日の朝。エレベーターに乗った5人とは、ウォール街の億万長者であるジェフリー(チャーリー・シーン)と、離婚調停中の妻イヴ(ジーナ・ガーション)、ビルの保全係であるエディ(ルイス・ガスマン)、バイク・メッセンジャーのマイケル(ウッド・ハリス)、謎の女性ティナ(オルガ・フォンダ)です。そしてインターフォンで彼らと話すことができたビル管理会社勤務のメッツィー(ウーピー・ゴールドバーグ)が登場します。この映画は彼ら全体が主役ともいえる集団劇であり、また狭いエレベーターのなかで各自の人生が激しく交差する室内劇ともいえるものです。原作は『エレベーター』という舞台劇でした。

個性的な登場人物たちの中心ともいえるジェフリーを演じたのはチャーリー・シーン。私生活ではなにかとスキャンダルが報じられる彼ですが、この『ナインイレヴン』では予想をはるかに超える好演をしています。『プラトーン』や『ウォール街』の彼の演技を思い出させます。彼の妻役のイヴを演じたジーナ・ガーションのエモーショナルな演技は注目ですし、またウーピー・ゴールドバーグは貫禄の演技です。キャストは少数精鋭の演技陣です。

監督はマルティン・ギギ。1965年生まれで、アルゼンチンのブエノスアイレス出身。音楽家でもあります。ギギは言います。
「ワールド・トレード・センターへの攻撃から生き残った、例えばタクシードライバーや、ウェイター、ビジネスマン、一般の方々というニューヨークの多くの人々にインタビューをしました。更に、生存者や亡くなった方々の通話や証言も調べました。映画には、それらに共通する絶望感を描きました。映画のテーマとして根底にあるものは、生きるための闘いと意志を、またお互いに対しての忠誠心と希望をもつことも描いたつもりです」

危機的な状況におかれたジェフリーら5人は、必死に自分たちが置かれた状況を把握し、そこから抜け出ようとしますが、なかなか脱出できない。携帯電話も機能しない。彼らが悪戦苦闘している一方で、ビルは少しずつ崩壊に向かいます。消防の救助隊がビルを上っていきます。最後、アメリカ映画らしく、主人公たちは安全なところへ脱出の糸口を掴みますが……。ラストは衝撃的です。

この映画はあの崩壊したビルの内部で起きていた物語、まさに絶望的「インサイド・ストーリー」です。映画はこれまで制作されたものでは語られてこなかった内部の声にフォーカスを当て、彼らの「悪戦苦闘」を伝えようとします。そのため、アルカイダも国際政治の話も映画ではほとんど語られません。この映画が語ろうとしたのは、大きな物語ではなく、目の前にある小さな物語を生きる私たちの運命の行方なのです。

来日したギギ監督にインタビューをしたとき、ラスト・シーンについて聞くと彼はこう答えました。

「脚本は何度も書き直しました。最後の場面はチャーリーのアイデアです。あのシーンはどこかベートーベンの第九の第4楽章に似ているかもしれない。人の命のはかなさを示すように突然終わりがやってきて。私たちが生きるということは、何が起こるかまったく分からない現実のなかで、不確実性そのものを生きるということなのかもしれません」

© 2017 Nine Eleven Movie, LLC

© 2017 Nine Eleven Movie, LLC

『ナインイレヴン 運命を分けた日』

監督/マルティン・ギギ
出演/チャーリー・シーン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジーナ・ガーション、ルイス・ガスマン、ウッド・ハリス、オルガ・フォンダ、ジャクリーン・ビセット、ブルース・デイヴィソン
2017年 アメリカ 90分
配給/シンカ 協力/松竹
9月9日(土)より新宿武蔵野館、丸の内 TOEI ほかにて全国ロードショー