仏の表情から信仰のあり方を知る、根津美術館『優しいほとけ・怖いほとけ』展。

  • 文:はろるど

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『観音菩薩像(かんのんぼさつぞう)』(阿弥陀三尊来迎図部分) 日本・鎌倉時代 14世紀 根津美術館蔵 死者の魂を載せるための蓮華を手にしています。今も輝きを失わない金色の美しさに目を見張るとともに、菩薩の温和な表情に心を打たれます。

密教の「三輪身(さんりんじん)」の考え方によれば、真理そのものの「如来」、教えを人々に伝える「菩薩」、そして仏法を守る守護神の「明王」の3種類に数えられる仏。それぞれの仏の姿は、厳かであったり、慈悲深かったり、また忿怒の相を見せているなどさまざまです。

この夏、根津美術館では『優しいほとけ・怖いほとけ』展を開催中。仏を「おごそか」、「やさしい」、「きびしい」、「おそろしい」の切り口で紹介し、飛鳥時代から江戸時代に至る約35点の仏教絵画と彫刻を通して、仏の表情の意味や信仰のあり方について考察します。

「やさしい」と「きびしい」の対照的な仏を見比べられるのが、『菩薩立像』と『毘沙門天立像』が隣り合わせに並んだ展示です。温かい眼差しを投げかけ、口元に僅かな笑みを浮かべた『菩薩立像』の表情は優美そのもので、心が洗われるようです。一方で邪鬼を踏みつけ、誇らしげに戟(げき)を持つ『毘沙門天立像』は、周囲を睨みつけるように厳粛な面持ちをしています。さらにもう1体、「こわい」仏として紹介された『愛染明王坐像』も見過ごせません。悪を打ち砕くべく3つの目を見開きながら、燃え盛る火炎のように髪を逆立てる姿は異形と言ってよく、後ずさりするほどの恐怖を覚えます。3体の仏像とも、根津美術館としては異例のガラスケースなしで展示され、流麗な衣文や細かな装身具などを間近に見られます。

古くから人々は、如来を拝み、菩薩に救いを求め、邪念などを明王の炎に投じることで、現世の安寧な人生を願いました。優しい仏に癒され、怖い仏に畏怖の念を覚えるうちに、いつしかすべての仏に対して祈りを捧げていることに気が付くのです。

『愛染明王坐像(あいぜんみょうおうざぞう)』(部分) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵 人間の抱える煩悩を全身で表した愛染明王。負のパワーを悟りへと転換し、和合や良縁を叶える敬愛法(きょうあいほう)の本尊として信仰を集めてきました。破損していた台座の修復を終えて初公開。

『菩薩立像(ぼさつりゅうぞう)』(部分) 日本・平安時代 12世紀 根津美術館蔵 慈悲の相を浮かべる菩薩像。阿弥陀如来の左脇に立つ観音菩薩だと考えられ、薄く整った衣などには、平安時代後期の定朝様(じょうちょうよう)の特徴が見られます。

『金剛夜叉明王像(こんごうやしゃみょうおうぞう)』(部分) 五大尊像のうち 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館蔵 3つの顔には5つの目が付いていて、異様な顔立ちをしています。元々は人を喰らう魔神だったものの、大日如来の徳によって仏教に帰依すると、悪や敵を打ち破る明王のひとりとなりました。

『優しいほとけ・怖いほとけ』

開催期間:2019年7月25日(木)~8月25日(日)
開催場所:根津美術館
東京都港区南青山6-5-1
TEL:03-3400-2536
開館時間:10時~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(8月12日は開館)、8月13日(火)
入場料:一般¥1,100(税込)
www.nezu-muse.or.jp