新年を迎えるために心をリセット! 思い切り泣ける名画3本を教えます。

  • 文:細谷美香

Share:

西オーストラリア沖の島を舞台に描かれる『光をくれた人』。

2017年もいよいよ終わろうとしています。まっさらな気持ちで新年を迎えるために、すべてをリセットしてくれるような“泣ける”映画を観てみませんか? 2017年に発売されたDVDの中から、愛と喪失を描いた号泣必至の3作品をご紹介します。 

登場人物それぞれの苦悩と重なる、孤島の風景。

まず1作目は『光をくれた人』。英雄として戦地から帰還したものの心に傷を抱え、オーストラリアの孤島で灯台守となったトム。美しく朗らかな娘、イザベルと結婚したことで世捨て人のように生きようとしていた彼に穏やかな日々が訪れますが、度重なる流産という悲劇に見舞われてしまいます。そんなある日、島に流れ着いた赤ん坊を見つけたふたりは、自分たちの娘として育てることに。けれども数年後、トムは娘の実の母親の存在を知ってしまうのです。

世界的なベストセラー小説を映画化したのは、『ブルー・バレンタイン』でも夫婦の物語を描き出したデレク・シアンフランス監督。母親になる願いをついに叶え、どうしても娘を手放したくないイザベル。罪だと知りながらも妻の思いを受け入れ、やがて良心の呵責に耐えられなくなるトム。娘が生きていることを知り、我が子を取り戻したいと立ち上がる実の母親。監督が3人の思いを決して裁くことなく等しく描き出しているからこそ、それぞれの苦悩が痛いほど伝わってきます。

ガーディアン紙で「ティッシュ会社の株価が上がるほど、観る者は涙するに違いない」と紹介された『光をくれた人』は胸が苦しくなる作品ですが、涙を流してデトックスするのにぴったりの一本。登場人物たちの心情と重なる、嵐と凪が訪れる孤島の風景が厳かで美しく、ラストにはタイトルの意味とともに“許し”を巡る希望も描かれています。

夫婦を演じるのは、マイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデル。

『光をくれた人』監督/デレク・シアンフランス 出演/マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ 2016年 アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド BD ¥5,076(税込)/KADOKAWA

曇天の街を舞台に描かれた、人間の脆さを肯定する物語。

監督は『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』などで知られるケネス・ローガン。

続いて2作目は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。持病があった兄の死の知らせを受けて、生まれ育った街、マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってきたリー。兄の遺言により16歳の甥パトリックの後見人となった彼は、二度と戻りたくなかった故郷で仕方なく新しい生活を始めます。誰とも触れ合わずに暮らし、時には酒場で感情を暴発させてしまうリーの過去に、一体何があったのか。映画は現在のシーンに回想を交えながら、リーの壮絶な傷を明かしていくのです。

あまりにもつらい出来事を経験したこの場所を早く去りたいリーと、友人もガールフレンドもいるこの場所で暮らし続けたいパトリック。過去と向き合う姿が涙腺を刺激しますが、時には噛み合わないやりとりにユーモアを漂わせながら、ふたりがかけがえのないバディになっていく過程が慎ましい筆致で描き出されています。

アカデミー賞では脚本賞に加え、ほの暗い瞳で主人公の孤独と後悔、虚しさを体現したケイシー・アフレックが主演男優賞を受賞しました。曇天の街で描かれる物語から浮かび上がってくるのは、逆境を“乗り越えなくていい”というメッセージかもしれません。たやすくは癒えない傷を負ってしまった時は、それを抱えたままで生きていってもいい。回復するまで待ってもいい。そう語りかけながら人間の脆さを肯定してくれるこの映画には、新しい一年に向けてそっと背中を押してくれるような力が宿っています。再生と呼ぶにはあまりにもささやかな、けれども確かな一歩を見つめた人間ドラマです。

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』監督・脚本/ケネス・ロナーガン 出演/ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー 2016 年 アメリカ DVD+BDセット¥4,309(税込)/NBC ユニバーサル・エンターテイメント(C)2016 K FILMS MANCHESTER LLC. All Rights Reserved.

時代も国境も超えて心に響く、普遍的な恋愛のきらめき。

俳優のブラッド・ピットがエグゼクティブ・プロデューサーを務めたラブストーリー。

3作目は『ムーンライト』です。マイアミで麻薬中毒者の母親に育てられている内気な男の子、シャロン。クラスではいじめのターゲットになり、自分の居場所はどこにもないと感じながら、心を閉ざして毎日をやり過ごしていました。ある晩、友だち以上の特別な思いを密かに寄せている同級生のケヴィンと、月明かりに包まれた夜の海を眺めながら心を通わせますが――。

この映画では、子ども時代、少年時代、大人になってからのシャロンを、3人の俳優が演じています。どの時代もシャロンは饒舌に胸の内を語らないけれど、幼い頃に出会い、父親のように手を差し伸べてくれた人からもらった「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」という言葉を大切にしてきたはずです。それでも彼はなかなか自分をさらけ出すことができないまま、まるで鎧のように肉体を鍛え上げて生きてきました。そんなシャロンが母を許し、少年時代の甘く優しい月光に包まれた記憶を手繰り寄せ、おずおずと新しい一歩を踏み出していきます。

ゲイの黒人が主人公の『ムーンライト』がアカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門を受賞したことは、驚きとともに大きな話題を呼びました。主人公はマイノリティですが、描かれているのは時代も国境も年齢も超えて観る者の心に響き、涙を誘う普遍的な恋愛のきらめきそのもの。“ありのままの自分”を受け入れるまでの長い旅の終わりと、人生の新しい章のはじまりを描くこの映画は、年末年始に鑑賞するのにぴったりのラブストーリーと言えるかもしれません。

『ムーンライト』監督・脚本/バリー・ジェンキンス 出演/トレヴァンテ・ローズ、アシュトン・サンダース、ナオミ・ハリス 2016年 アメリカ BD¥5,076円(税込)/販売元:TCエンタテインメント