良作の宝庫、アップリンクのオンライン映画館で観る54歳...
文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

良作の宝庫、アップリンクのオンライン映画館で観る54歳差のふたりの旅『顔たち、ところどころ』はドキュメンタリーの傑作です。

カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)を受賞した作品。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016.

”Stay Home”を充実させてくれる動画配信サービスはNetflixやAmazonプライムだけにあらず! 外出自粛要請によって厳しい状況が続いている映画館ですが、足を運ばなくても楽しめる取り組みが始まっています。そのひとつが、オンライン映画館「アップリンク・クラウド」。アップリンクが配給する映画60本を購入から3カ月間、2,980円で楽しめるというキャンペーンが2020年3月28日から始まりました。

ホドロフスキー、ロウ・イエ、グザヴィエ・ドランを筆頭に作家性の強い監督の作品が揃い、良質なドキュメンタリーも充実。そのなかでも今回は、昨年90歳でこの世を去ったフランスの名匠、アニエス・ヴァルダ監督の『顔たち、ところどころ』を紹介したいと思います。

フランスの田舎を旅するこのドキュメンタリーでヴァルダが相棒に選んだのは、54歳年下のJR。紛争地帯など世界各地に住む人々の大きなポートレートを街に貼り出すプロジェクトで知られる、若き写真家でありアーティストです。ふたりが向かうのは一見、のどかにも感じられる、市井の人たちが働き、生活する場所。炭鉱労働者の村に暮らす女性、港湾労働者の妻たちのもとなどを訪ね、そこでいくつもの“顔たち”と出合っていくのです。ヴァルダとJRが“顔たち”と向き合い、なにかを発見して心を動かされ、大きな写真を貼り出すことで、それぞれの場所で生きている人々へのリスペクトを表していく。出合いが化学反応を起こし、血が通った唯一無二のアートが完成する感動的な瞬間が、いくつも切り取られています。

ゴダールの『はなればなれに』のごとく、ルーヴル美術館を訪れるチャーミングなシーンも。素晴らしい監督であり聞き手であるヴァルダは旅の最後に、とある友人のもとに向かいます。けれども会うことは叶わず、湖畔で風に吹かれるふたり。ヴァルダの目はすでに見えづらくなっていますが、ずっと外さなかったサングラスをついに取ってヴァルダを慰めるJRに、「人柄は見えるわ」とひと言。ヴァルダの人柄こそがよく見える、心に染み入る名場面です。他者への想像力と分かち合いの精神を感じさせる、優しさがあふれるドキュメンタリーの傑作といえるでしょう。

ルーヴル美術館ではしゃぐふたり。思わず笑みがこぼれる。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016.

JRは「Inside Out(インサイド・アウト)」プロジェクトで知られるアーティスト。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016.


『顔たち、ところどころ』

監督/アニエス・ヴァルダ、JR
出演/テアニエス・ヴァルダ、JRほか
2017年 フランス映画 1時間29分 
アップリンク・クラウドにて配信中
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