モダンボーイに変身したジェイムス・ベイが聴かせる、光と影をはらんだ‟ポップ”とは?

  • 文:赤坂英人

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イギリスの注目のシンガー・ソング・ライターであるジェイムス・ベイ(1990年ー)の、約3年ぶりのアルバム『エレクトリック・ライト(Electric Light)』がリリースされ、好評です。UK音楽界に現れた破格の新人といわれたベイの、待望の2作目となります。前作である95年のデビュー・アルバム『カオス&ザ・カーム(Chaos & The Calm)』は、全英アルバム・チャートで初登場第1位を獲得。また世界20カ国でチャート第1位を獲得しました。

この前作の成功は、ロングヘアーに帽子を被ってアコースティック・ギターを片手に歌う、現代の吟遊詩人のようなベイを、いきなり世界の檜舞台に押し上げたのです。アルバムはグラミー賞3部門にノミネートされ、ブリット・アワードを受賞しました。順風過ぎるほどのデビューを飾ったベイは、その後、3年以上にわたって沈黙しました。

そしてついに発表されたのがこの『エレクトリック・ライト』です。既にシングルがヒットしている『ピンク・レモネード』や『ワイルド・ラブ』などポップ・チューンを前面にした14曲を収めるアルバムです。前作が題名の通り「混沌と静寂」を合わせた内省的な作品集とすれば、今回の2作目はアコースティックからエレクトリックに移行したポップな現代的作品集といえるでしょう。ベイ自身の外見の変化が、曲調の変化を如実に語っています。彼はロングヘアーを短く切り、髪をなでつけたモダンボーイに変身したのですから。

前作のスタイルの方がいいという人もいるでしょうが、彼自身もそのあたりは十分にわかった上で、スタイルをあえて変化させたのでしょう。日本盤のCDにはボーナス・トラックが付いていて、そのうち3曲がアコースティックで演奏されているのですが、それが3曲とも素晴らしいのです。その事実は彼の原点のひとつがどこにあるのかを感じさせます。ベイの2作目『エレクトリック・ライト』は前作に劣らない秀作であり、彼はあえて得意な場所から飛び出て、異国のような未知の場所で歌うことを選択したのです。それがシンプルなビートにのせて歌われる彼の新しいポップな世界です。

個人的には屈折する愛を歌うアルバム3曲目の『ピンク・レモネード』も好きですが、5曲目の『Us』という曲が、印象的です。それはさまざまな問題を抱えながら日々の生活を生きる人々(Us)のための、現代のプロテスト・ソングのようです。ポップなラブ・ソングからプロテスト・ソングに至るまでを織り込んだアルバムを発表したジェイムス・ベイ。彼の光と影をはらんだ「ポップ」な感受性の行方に、ますます注目です。

『エレクトリック・ライト』
ジェイムス・ベイ
UICU-1294
ユニバーサル ミュージック
¥2,700(税込)