ウェス・アンダーソン監督の最新作『犬ヶ島』は、日本への愛情と尊敬が細部にまで描かれた、渾身の一作です。

  • 文:細谷美香

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1097体もの人形が制作し、4年の歳月をかけてつくられたストップモーション・アニメだ。

『ムーンライズ・キングダム』ではノーマン・ロックウェルが描くようなアメリカを、前作『グランド・ブダペスト・ホテル』ではエレガントで甘い憧れのヨーロッパを描いたウェス・アンダーソン監督。細部まで美意識を貫き、小さな王国を撮り続けてきた監督の、最新作の舞台は日本! 『ファンタスティックMr.FOX』でも挑んでいるストップモーション・アニメの手法で、“本物ではないけれど偽物でもない”日本をクリエイトしました。

20年後の日本。メガ崎市ではドッグ病が蔓延し、人間への感染を恐れた小林市長がすべての犬を追放します。犬たちが送り込まれたのは、ゴミだらけの犬ヶ島。小林市長の養子、アタリが、愛犬であり親友でもあるスポッツを救うために小型飛行機に乗り込み、この島へとやって来ます。ここで出会った5匹の犬をパートナーに、スポッツを探すアタリ。その頃、メガ崎市では親犬派と反犬派の対立が深まっていて――。

監督が影響を受けたと語っているのは、和太鼓の音、広重や北斎の浮世絵、そして黒澤明監督の『酔いどれ天使』『野良犬』『悪い奴ほどよく眠る』『天国と地獄』といった社会派の作品。三船敏郎を思わせるキャラクターも登場し、彼の脳内にある日本への愛情と尊敬が、全編に満ちあふれています。『ザ・ロイヤルテネンバウムズ』ではラコステのワンピースにフェンディのファーを合わせ、『ダージリン急行』では動物柄がかわいいルイ・ヴィトンのスーツケースを登場させた監督だけに、もちろん今回の衣裳や小物も目を引くものばかり。小林市長のスーツはサビルロウで修業したテーラーで3カ月かかって仕上げられたものだそう。個人的には、ドッグ病の血清を開発している教授が着ている、着物の襟もとや半帯からインスパイアされたような白衣が素敵だなと思いました。

日本を舞台とした外国映画を観る時はつい間違い探しをしてしまうこともありますが、『犬ヶ島』書き文字や通訳の役割に至るまで徹底した味わいがあり、完全に別次元! 何度でも繰り返し見たくなる、ウェス・アンダーソン色に染められた日本との出合いをぜひ楽しんで下さい。

声優としても参加している野村訓市が、日本語や日本に関する描写のコンサルタントを務めています。

声優として参加した、野田洋次郎、渡辺謙、村上虹郎ら、日本の俳優陣にも注目を。

『犬が島』

監督:ウェス・アンダーソン
声の出演:ブライアン・クランストン、ユーユー・ランキン、エドワード・ノートンほか
2018年 アメリカ・ドイツ合作映画 1時間41分 
5月25日よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。
www.foxmovies-jp.com/inugashima