贅を尽くした和のミュージアムホテル、「ホテル雅叙園東京」で過ごす悦び。

  • 文:岩崎香央里
  • 写真:渡辺健五

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東京都心のラグジュアリーホテルでは珍しい純和風のインテリア。縁側からは四季の庭もしくは目黒川を見下ろす景色が楽しめる。

目黒川の桜並木を眼下に望み、都心にありながらも緑豊かなロケーションが人気の「ホテル雅叙園東京」。1931年、実業家の細川力蔵(Rikizo Hosokawa)が料亭として創業した目黒雅叙園を始まりとし、指折りの芸術家や職人らによって絢爛豪華に装飾が施された建物は、訪れる人々を魅了してきた。

たとえば、緻密な幾何学模様が特徴の組子障子や、黒漆に蝶貝をはめ込んだきらびやかな螺鈿細工。著名な画家の描く美人画や花鳥図が、壁や天井を埋め尽くしている。こうした貴重な日本美術は、時を重ねたいまも雅叙園のスピリットとして大切に飾られ、館内の至るところでゲストを楽しませてくれる。とくに、当時の木造建築の意匠をそのまま保存した「百段階段」は、東京都の有形文化財に指定されており、必見だ。

90年に及ぶ歴史の中で、料亭から総合結婚式場、宿泊施設へと形態を拡げ、2017年のリノベーションを経てラグジュアリーに生まれ変わった「ホテル雅叙園東京」。今年はさらに、和室12部屋が7月にリニューアルオープンして注目を集めている。

東京のホテルには珍しく、靴を脱いで畳でくつろぐトラディショナルなスタイルを生かしつつ、心地よい眠りのために高品質なベッドを完備。全室80㎡以上で広々としながらも、回廊のような間取りでいくつかの空間に分かれ、変化のある過ごし方が可能だ。

和室12室には、それぞれ「出雲」「武蔵」「薩摩」といった日本の旧国名を表す呼称がつけられ、旅の気分をかき立ててくれる。そして、たとえば「出雲」なら、出雲大社にちなんで縁起の良い亀甲文様や扇が、ベッドのヘッドボードに西陣織で表現されている。このヘッドボードは、茶席で用いられる「風炉先屏風(Furosaki byobu)」をイメージしたものだそう。

目利きの細川力蔵が贅を尽くして造り上げ、90年の時を刻んだ日本美のミュージアムホテル。モダンな設備の随所に和のしつらいが映える新タイプの和室に滞在すれば、茶室に招かれたような風流と最新ホテルライフの両方を味わえるだろう。

西陣織を張り込んだヘッドボードは、部屋ごとに文様が異なる。壁のクロスは、茶庭に植えられたヤブコウジを表現。

小さめの間口が茶室気分を盛り上げる。襖や障子で空間をフレキシブルに仕切るのは日本の住まいの知恵。

ジャグジーとミストサウナを備えた最新式バスルーム。木の桶と椅子、行灯型の照明が日本のお風呂文化を演出。

●ホテル雅叙園東京 https://www.hotelgajoen-tokyo.com/