人間の底知れぬ闇を描いた話題作『光』が公開、 主演の井浦 新が語るその見どころとは?

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER/ポートレート)
  • 文:高瀬由紀子

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“生命感”をキーワードに、作品に臨んだという井浦さん。映画の中で、岡本太郎の作品群が映るシーンも、“むき出しの生命感”を象徴的に表していると感じたそう。

「徹底的に、人間の闇の世界を描いた作品ですよね」。三浦しをんの小説『光』の読後感を、11月25日(土)から公開予定の映画版で主演を務めた俳優の井浦新さんはこう振り返ります。

東京の離島・美浜島で育った中学生の信之と美花は恋人同士。幼馴染みの輔(たすく)は、父親に虐待を受けていて、信之だけが救いの存在です。ある日、美花は島外から来た男に乱暴され、信之は美花を救うために男を殺してしまいます。さらに大津波が島を襲い、生き残った3人は島を出てバラバラに。25年後、妻子と穏やかに暮らす信之と、女優として活躍する美花の前に、過去の秘密を知る輔が現れて脅迫します。いまもなお、信之に執着する輔、美花のことが心から離れない信之、そして輔と情事を重ねる信之の妻の南海子(なみこ)……。4人の物語が、暴力性を伴いながら大きく動き出します。

映画では主人公の信之を演じた井浦さん。原作で強く感じたことを大事にしつつ、撮影に臨んだと言います。「信之をはじめ、登場人物の抱く狂気や暴力性の原動力となっているのは、どんな闇の中でも生きていこうとする“生命感”なのかなと。それが、タイトルの『光』と重なったんです。生き生きとした爽快さとは真逆の、闇の中からあふれ出るような生命感をいかに生み出すか。初めてのチャレンジでした」

そんな井浦さんとの共演で絶妙なケミストリーを起こしたのが、輔役の瑛太、美花役の長谷川京子、南海子役の橋本マナミといったキャストの面々。とりわけ信之と輔とのシーンは、ゾクゾクするほどの緊張感に満ちています。「お互いに予定調和を壊したい思いがあって、いつ相手が仕掛けてくるかドキドキしながらの真っ向勝負でした」

表面上は温厚に見える信之ですが、穏やかな瞳に闇や暴力性を秘めており、ついに爆発する瞬間では、心臓を鷲づかみにされるような衝撃が走ります。「どんなに振り切った演技をしても、いつもしっかり受け止めてくれるんです」と、井浦さんが全幅の信頼を寄せているのが、今回3度目のタッグを組んだ大森立嗣監督。三浦しをんの小説を何度も映画化している大森監督ですが、いままでにない監督自身の振り切りぶりも、井浦さんは感じたといいます。

そのひとつが、テクノの巨匠・ジェフ・ミルズの音楽。冒頭の島のシーンから爆音で流れるテクノサウンドが、自然豊かな舞台に不穏さをもたらし、登場人物の歪んだ鼓動のようにも感じられます。底知れぬ闇が描かれながらも、画面にぐいぐい引き込まれてしまうのは、人間の動物的本能が呼び覚まされるような演出で、井浦さんの言う“生命感”が引き出されているからかもしれません。

瑛太との共演は、井浦さんが以前から切望していたとのこと。「瑛太くんがしっかり受けてくれたからこそ、信之として余すところなく攻めることができました」 ©三浦しをん/集英社・©2017『光』製作委員会

美花役の長谷川京子と。「完成作品を見たら、4人の個性が見事に浮き出ていて不思議な調和が生まれていると感じました」と井浦さん。 ©三浦しをん/集英社・©2017『光』製作委員会

『光』

監督:大森立嗣 
出演:井浦新、瑛太、長谷川京子、橋本マナミ ほか
2017年 日本映画 2時間17分
配給:ファントム・フィルム
2017年11月25日(土)より新宿武蔵野館、有楽町スバル座ほかにて全国ロードショー
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